産業遺産、工場遺構、生産現場(工場、工房、農漁場)などを観光資源とする「産業観光」は、国の観光立国推進基本計画の柱の一つとしても採用されることとなった。そして、地方自治体、日本観光振興協会、関係商工会議所などが中心となって推進されてきた。
2005年の愛知万博開催を前にして、全国の自治体で観光ビジョンの策定を行う箇所が多く、その中にも取り上げられるなど、各地にその輪が広がった。その背景は従来の観光がリピーターの増加もあって、ややマンネリになり、魅力を失いつつあったことである。そこで、観光資源への視点を変えることによって、また、アクセス手法を変えることによって、そこから新しい魅力を見いだせるような観光が必要となり、各地の「ものづくり」をテーマとした産業観光が観光再活性化の切り札として、その展開が注目されたこと、また、どこにでもある身近な「ものづくり」―産業を資源とすることから、どの地域でも展開できる観光であったことが考えられる。それから、10余年を経過、各地で産業観光が定着してきたことの半面、一部で伸び悩みの現象も見られるに至った。
一方、「ツーリズムEXPOジャパン2018」の開会式上、産業観光が地域密着型観光として、長年にわたって進められてきたことが、国際連合の「観光憲章」の趣旨にふさわしい観光として評価され、世界観光機関「UNWTO部門賞」を受賞した。
この受賞に応える観光としてこれまでの実績を見つめ直した上で、今後の産業観光の進め方を事務局の日本観光振興協会でも再検討した。その結果、近年の観光ニーズないし、現代の観光の環境条件などにふさわしい「新産業観光」とも言うべき新しい施策を含む産業観光を展開することとなった。いわば、産業観光は第2ステージに入るとも言えよう。その初年度は、次のような重点項目を念頭に展開することとしている。
第一は、産業観光の「国際展開」である。外国人観光客の参加をさらに促進するため、国などの推進するMICE活動との連携を図りたい。すなわち、国が誘致に努力する国際会議、国際イベントのプログラムに産業観光を組み込み、参加するなど、国際的視野に立って進めることである。
第二は、産業観光は産業訪問(工場、工房などの見学、体験など)の円滑な実施がその鍵を握る。このための受け入れ態勢の拡充、強化である。できるだけ多くの関係箇所に観光客の受け入れを要請すること、それに関わる情報提供(受け入れ条件、受け入れ箇所、その内容など)の円滑化、さらに申し込み、予約などに至るまで協会が中心となってワンストップサービスで受け入れるシステム(申し込み、予約に関わる)構築に努める。
第三に、産業観光が関わる年間のイベント、勉強会などの刷新である。毎年の研究発表会、情報交換の場である「全国産業観光フォーラム」を「ツーリズムEXPOジャパン」主催者プログラムとして同日、同場所での開催として参加しやすくする。各地の自治体、経済団体、企業などと共催する勉強会「ワークショップ」をさらに充実させる。また、この行事を各地のまちづくりに直結する活動として推進することである。
産業観光を展開するためには、多くの関係者の「総意」結集と「協働」が不可欠である。このための仕組みとして、日本観光振興協会の「全国産業観光推進協議会」に新たに「執行委員会」を設け、学識経験者などの方々に委員をお願いして、産業観光の進め方について指導、助言をいただくこととなった。そして、初年度の実績とその成果を来秋の総会で報告、その反省の結果を次年度の計画に反映させる。施策の「好循環」をもたらすような推進体制づくりも急ぎたいと考えている。
(日本観光振興協会 全国産業観光推進協議会会長)