【特別トップ対談】 北海道上川町 佐藤芳治町長 × 層雲峡観光協会 西野目信雄会長


佐藤町長(右)と西野目会長

 北海道の屋根といわれる大雪山国立公園は面積約23万ヘクタールに及ぶ日本最大の国立公園だ。アイヌの人々はこの地を「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼び、敬っていた。層雲峡は柱状節理の断崖が20キロ以上続く日本屈指の渓谷で、赤や黄色のあでやかに彩られる紅葉は荘厳な美しさを見せる。大雪山観光の拠点となる層雲峡温泉は旅人の体と心を癒やす。層雲峡観光のキーパーソンである上川町の佐藤芳治町長と層雲峡観光協会の西野目信雄会長(ホテル大雪)の対談を通して、層雲峡観光の魅力を探った。司会は論説委員の内井高弘。(町長室で)

観光は町の機関車的存在 「北の山岳リゾート」目指す 通年型キャンプ場を整備

北海道上川町 佐藤芳治町長

 ――上川町にとって観光はどんな位置づけですか。

 佐藤 町の基幹産業は農業と観光だが、観光は機関車的存在であり、全てをけん引していく力を持っている。町の魅力、価値を高め、観光客を含めてどう人を集めていくかを考えた時、観光を抜きにしては語れない。極めて重要な位置づけだ。

 ――観光振興の実行部隊となるのが、層雲峡観光協会やDMCである大雪山ツアーズです。活動をどう評価していますか。

 佐藤 行政と観光協会、DMCの絆は強く、観光の在り方を巡って言いたいことを言える関係だ。首都圏や海外のプロモーションも足並みをそろえてやっている。2017年に層雲峡温泉の旅館・ホテルが入湯税の100円引き上げに踏み切っていただき、その増収分約5千万円をDMCの事業費に充てている。それだけ観光を重視しているということ。

 西野目 町の観光重視の姿勢に感謝している。われわれが活動をしていく上でどう事業費を確保するかは大きな課題だが、町も支援してくれ、それを力に将来を見据えた事業展開をしている。町の期待に応えたい。

大雪山国立公園からの発信 層雲峡温泉の新しい魅力づくり 独自のコロナ対策実施

層雲峡観光協会 西野目信雄会長

 ――層雲峡の観光入り込みの状況は。

 佐藤 ピーク時の1999年には年間300万人ほどの観光客が訪れ、宿泊客も100万人を超えていた。いまは200万人ほどで、宿泊客も50~60万人にとどまり、漸減傾向になかなか歯止めがかからない。

 西野目 層雲峡温泉は6軒の大型宿泊施設を中心に、団体旅行を受け入れて発展してきた。10年ほど前から旅行形態が変わり、個人・グループ化の流れが顕著になった。施設側も変革を迫られた。団体の減少をどう埋めるかの答えがインバウンドの受け入れで、すでに40年の歴史がある。

 佐藤 層雲峡や町の魅力、価値を高めるためには外から人を受け入れるべきだと考え、19年度から町の魅力づくりを担う「地域おこし協力隊」を積極的に採用する一方、移住定住促進プロジェクトである「KAMIKAWORK」を推進してきた。そうした芽が育ち始めた時に新型コロナウイルスが拡大し、大きな打撃となった。厳しい状況だが、反転攻勢の力になればいいと思っている。

 ――インバウンド対応は早かったですね。

 西野目 台湾のプロモーションは1977年からやっている。国のインバウンド誘致もあり、この5~6年で順調に増えてきた。観光客の比率をみると、インバウンドと本州客で65%、35%が地元客となっている。しかし、コロナ禍で本州客はもとより、インバウンドも消滅してしまった。嘆いていても始まらない。しっかりと受け止め、終息後に備えていま何をやるべきかを考えている。

 ――コロナの影響を受けた観光事業者支援として、道は道民の旅行代金を補助する「どうみん割」を打ち出しましたが、町はどんな手を打っていますか。

 佐藤 層雲峡の魅力を知っていただくため、広告・宣伝活動を展開している。情報発信不足は以前から感じており、この時だからこそ、積極的にアピールすべきだと考えた。

 ――具体的には。

 佐藤 テレビCMだ。観光協会から「町長自らがテレビで層雲峡の魅力をアピールしてはどうか」との提案があり、6月から道内で放送している。時節柄、正面切って「来て下さい」とは言いにくい。そのため「層雲峡は頑張っている」「感染対策もしっかりやっているので、落ち着いたら来て下さい」という内容だ。性格上、なかなかニコニコできず、「硬すぎる」とずいぶん言われた。もう少し笑っても良かったかな、と反省している(笑い)。

 西野目 自治体の長を前面に出したテレビを使った地域PRはあまり例がないと思う。どうせやるならインパクトがあるものをと思い、町長に出演をお願いした。果たして引き受けてくれるか、どんな仕上がりになるのか心配だったが(笑い)、とてもいいCMになった。9月からは第3弾として秋バージョンを流している。

 佐藤 反響はとても大きく、出張先の札幌などでは「見たよ」と多くの人から言われた。出来はともかく(笑い)、層雲峡のPRに一役買ったのではないか。予算の問題もあるが、道内を中心にこれからも積極的に情報を発信していく。

 ――コロナは収束の兆しがみえず、影響は当分続きそうで、「ウィズコロナ」ともいわれています。そうした中でどう観光振興を。

 佐藤 観光協会が中心となって、「層雲峡スタイル」という独自のコロナ対策を打ち出してくれた。旅館・ホテルはもちろん、「大雪森のガーデン」や子ども向けデジタルアートプログラムの体験ができる「大雪かみかわヌクモ」なども徹底的な対策を講じてくれており、「層雲峡は安心・安全」を観光客に強くアピールしていく。

 私自身、層雲峡温泉に泊まり「これなら安心して泊まれる」と実感した。幸い、いまのところ感染者は出ていないが、気を緩めることなく、予防の徹底を呼び掛けていく。

 西野目 道は道民や道内事業者に「新北海道スタイル」を提唱し、安心宣言のポイントとして7項目を挙げているが、われわれはそれに加えて、感染防止の指針「層雲峡スタイル安心宣言」を策定し、順守するよう呼び掛けている。

 また、大型宿泊施設を中心に、お客さまが発熱などの体調不良を訴えるなど、もしもの時に備え、他のお客さまに感染しないよう隔離する場所を1部屋用意している。まずここに入っていただき、医療機関の指示を仰ぎ適切に対応していく。

 ――国のPCR検査はなかなか進みませんが、自治体の中には観光関係者にPCR検査を受けさせようという動きもあります。

 佐藤 コロナ対策を適切に進めていく上で、感染者を把握しておくことは極めて重要。受けたいという人には症状に関わらず検査をやるべきだ。

佐藤町長(右)と西野目会長

 ――層雲峡スタイルを浸透させるには、一人一人の意識改革も必要ですね。

 西野目 仕事を終えた後はどう行動しようと個人の自由だが、どこで感染するか、また感染させるかは分からない。そのため、ほとんどの宿泊施設の経営者は従業員に対し、「勤務後についてもくれぐれも用心するように」と踏み込んでお願いしている。

 ――層雲峡を含めた大雪山国立公園は北海道のほぼ中央にある日本最大の国立公園で、豊かな自然環境は大きな観光資源です。層雲峡の魅力を改めてうかがいたい。

 西野目 大雪山国立公園は道内最高峰・旭岳(2291メートル)を主峰とする黒岳などの大雪山連峰や、十勝岳・トムラウシ山などの山々が連なり、その面積は約23万ヘクタールに及ぶ。層雲峡は柱状節理の断崖が20キロ以上続く日本屈指の渓谷で、「日本の滝百選」に選ばれている銀河・流星の滝や、景勝地「大函」など見どころも多い。

 また、黒岳ロープウェイとリフトを利用すれば大雪山の秀峰・黒岳(1984メートル)の登山も比較的容易にでき、高山植物の群落や彩り豊かな紅葉を楽しめる。層雲峡は旭川空港から車で1時間半ほどで来られる。首都圏からは遠いイメージがあるが、決してそうではない。

 層雲峡温泉は黒岳の麓にある道有数の温泉地で、中心部はカナダの山岳リゾートを模した「キャニオンモール」として整備されている。温泉は120年ほど前に発見され、来年は「層雲峡温泉」と命名されてちょうど100年の節目になる。記念イベント的なものを考えている。

 佐藤 まちづくり、観光のコンセプトとして北の山岳リゾートを目指している。層雲峡をスイスの山岳観光地・ツェルマットのような場所にするのが私の夢だ。実は今年、ツェルマットに視察に行く予定だったが、コロナの影響で断念した。

 山岳だけでなく、ラフティングやカヌーなどアドベンチャーツーリズムも育ちつつある。2018年度には「カムイと共に生きる上川アイヌ~大雪山のふところに伝承される神々の世界~」として日本遺産にも認定されている。これらを総動員して日本のツェルマットを目指す。

 西野目 ウィズコロナの時代、いままで以上に自然の中での生活や旅に注目が集まる。「コロナと関係なく層雲峡で時を過ごそう」と、SNSやユーチューブを含めて情報発信していく。

 ――観光客を集めるには地元ならではの「食」も欠かせません。

 佐藤 2017年、町に新しい酒造メーカー「上川大雪酒造」が誕生した。北海道で酒造メーカーができるのは戦後初めてのことだ。町中にある酒蔵「緑丘蔵(りょっきゅうぐら)」で作られる日本酒は鑑評会でも高い評価を得ており、人気の銘柄だ。なかなか手に入らない。メーカーも「飲みたければ上川町に来て」というのをコンセプトにしており、これを目当てに訪れる人も少なくない。町にとっても集客の手段の一つとなっている。

 ――「大雪森のガーデン」にも人気のレストランがありますね。

 佐藤 道出身のシェフ、三国清三さんが手掛ける「フラテッロ・ディ・ミクニ」で、高原の雄大な景色を眺めながら楽しめるということで足を運ぶ人も多い。他のガーデンにはない大きな特徴だ。また、上川大雪酒造が運営するカフェ「緑丘茶房」では酒粕を使った軽食メニューなども楽しめる。

 西野目 森のガーデンは14年に大雪山系で最も美しいとされる旭ヶ丘地区の高原にオープンした「北海道ガーデン街道」を構成する施設の一つだ。約900種の草花が植栽された「森の花園」、地域の植木や草花を生かした「森の迎賓館」、テラスやアート作品、交流体験施設がある「遊びの森」の三つのエリアから成る。旭川の「上野ファーム」、富良野の「風のガーデン」とも連携し、ガーデンツーリズムを提唱している。

 ――雄大な自然をバックに、層雲峡ならではのイベントも開催されています。

 西野目 日本の紅葉は層雲峡から始まると自負している。まず、9月12日から始まったのが層雲峡温泉の紅葉谷で開催される「奇跡のイルミネートⅢ」。紅葉のライトアップイベントで、夜も美しい紅葉が堪能できる。3回目となる今回は、人の動きに合わせて紅葉が散っていくようにみえるインタラクティブプログラムによるマッピングが登場する。フォトコンテストも同時開催する。10月11日まで開かれており、宿での夕食後に散策を兼ねて足を運んでいただければ。

 佐藤 紅葉谷を秋の観光スポットにしようと3年前から始めたが、とても好評だ。コロナ対策も徹底しているので、安心して来てほしい。

 ――層雲峡を代表するイベントが北海道三大冬まつりの一つ、「氷瀑まつり」ですね。

 西野目 今年はコロナの影響により開期途中で中止となったが、来年はぜひ開催したい。1976年に始まった歴史ある氷の祭典で、例年1月下旬から3月中旬まで開かれ、約12万人が来場する。「さっぽろ雪まつり」は来年、大雪像を制作せず、規模を縮小して行うようだが、私どもは例年通りの規模で行う(来年1月30日~3月14日)。屋外のイベントであり、密にはならないが、コロナ対策には万全を期す。

 ダイナミックな氷瀑を生かした氷瀑神社や七色にライトアップされた氷の建造物など見どころがいっぱいで、「日本夜景遺産」にも認定されている。知床や網走、阿寒などでも冬のイベントをやるので、それらと連携し、周遊に役立つイベントとして展開したい。

 佐藤 コロナ禍で注目を集めているのがキャンプやグランピングなど屋外イベントで、最近は冬でもキャンプをやる人が増えている。町には「層雲峡オートキャンプ場」があるが、ここを通年型にすべく、現在リニューアル工事を進めている。層雲峡はキャンプに適した場所であり、思い切り自然を満喫してほしい。

 西野目 アウトドアブランドのスノーピークと連携し、グランピングも2~3年前から行っている。先見の明があると思う(笑い)。

 ――ラフティングにも力を入れているようですね。

 佐藤 昨年、ニュージーランドやニセコでラフティング経験のある人が移住してきた。起業し、「アルパインリバーガイド」という会社を立ち上げ、層雲峡渓谷でラフティングツアーを実施している。「層雲峡はニセコを超える魅力がある」と高く評価していただき、われわれも自信を深めた。

 ――観光振興に対する今後の展開は。

 佐藤 コロナ禍で厳しい状況にあるが、観光の歩みを止めるわけにはいかない。まず、秋冬のイベントを成功させること。また、先ほど指摘した通年型のキャンプ場を中心に、山岳リゾートづくりを進めていく。日本遺産のモニターツアーも計画しており、DMCの活動に期待したい。インバウンドもいずれは戻ってくる。反転攻勢に向け、人材育成を含め、いまできることをしっかりとやっていく。

 西野目 難局を乗り越える施策と将来を見据えた施策の両方をやらなければならない。幸い、町長をはじめ、町民の方々も観光に理解を示してくれているが、それに甘えることなく、観光協会、DMCの役割をきっちりと果たしていきたい。旅行会社にお願いがある。層雲峡に足を運び、刻々と変わる自然環境、観光素材、コロナ対策などをその目で見て体感していただきたい。現地で感じ、われわれと交流し、意見を交わして商品を造成してほしい。喜んで協力する。

 

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