【焦点課題】がんこフードサービス 取締役副社長  新村猛 氏に聞く

  • 2020年8月6日

がんこの生産性向上策

工学的アプローチを導入 日本文化体験で需要獲得

 ――外食産業で工学的アプローチを取り入れた生産性向上策は異例だと思うが、導入の背景は。

 「元々調理師をしていたが、その時に伝票の処理の仕方一つで仕事の速さが変わることが分かった。労働集約で人間の勘と経験がものをいう仕事であっても、情報を直列処理、並列処理するかで生産効率が変わることに気付いた」

 ――実際に行った研究や手法は。

 「経営学修士課程の研究テーマが、伝統ビジネスにおける労働生産性向上であった。職人の手仕事と工場生産では品質と価格はトレードオフの関係にあるが、私は、手仕事と機械のハイブリッドシステムで、低価格、高品質の両立が可能という仮説を立てた。実証実験の結果、ハイブリッド生産による低価格、高品質の料理を作ることが可能だとの結論を得た。しかし、なぜそうなるのかの説明がつかなかったのだが、成分分析の結果、イノシン酸の熟成を制御することで高品質、低価格の料理を作ることが可能だとの結論を得た。このほか、ロボティクス、位置計測、バーチャルリアリティ、データマイニング、心理計測など、生産効率を高める数多くの取り組みをしている。ロボットは料理の搬送で活用し、オペレーションの負担を人間から機械に移した。位置計測では、従業員の一人一人のフロアでの動きを可視化。担当者の接客時間の把握や作業の無駄の抽出を行い、分析結果から人員配置などの変更をし、サービス価値向上、生産性改善につなげた。実績として、ある店の接客稼働が1日当たり292時間だったところを270時間まで落とした。ロボットに2600万円の投資をしたが、2年半で回収できた。インパクトは十分で、年間700~800万円の人件費が下がった。工学的アプローチは、生産性の改善を大きく可能にする」

 ――実績が出るまでにかかった時間は。

 「15年かかった。最初の5年は技術を作るフェーズ。次にユーザビリティーを上げるのに5年必要だった。その後の5年でようやく結果が出だした。ロボットのプログラムの改造や人間のオペレーションの改善は引き続き研究している」

 ――現在新たに研究しているものがあれば。

 「ロボットで最終的なものとなると調理ロボットだろう。立命館大学と共に、ロボットが天ぷらを揚げたり、盛り付けができるかなどの研究をしている。やわらかいものをつかむのは難しく研究中だ。また、ロボットの基礎研究として全国の大学とコンソーシアムを組んで技術組合を作り、さまざまな研究を進めている」

 ――技術を旅館・ホテルや観光施設で取り入れることは可能か。

 「私たちより多いはずだ。施設が大きければ大きいほどパワフルな効果を生む」

 ――旅館・ホテルを見て改善できるところは。

 「全てだ。まずはマルチタスクにすること。フロント、バッグ、客室係、調理場、仲居、配膳とあるが、忙しさは時間帯によって異なる。例え調理場であっても暇な場合は、忙しい場所に投入しなければならない。てっさを引くなどは別だが、ほとんどは決まった規格がある。買ってきたものを盛り付けるだけなら誰でもできる技術にしなければならない。次に、バリューを生む場所には労働投入量を増やすべきだ。生まないところは自動化するか、ロボットを導入するか、IoTを入れるか、なくすか選択しなければならない」

 ――観光分野での取り組み、可能性は。

 「旅行会社のパッケージとして、すしの歴史を学び、作って食べる体験などを行っている。抹茶や着物の着付けなども含め、日本文化の体験への需要は大きい。また、消費者は店内の絵や茶わんなども買い求めるかもしれない。飲食店という定義をせず、空間、時間、食だけでなく、日本文化も売っている事業として、さまざまなアプローチの方法があると考えている」

 ――東京・東新宿の山野愛子邸など、伝統的建築物を使用する店舗もあるが。

 「コストなどを理由に代替わりで建て替える予定だったところを借り受けた。われわれが思うには、文化は触れてこそ価値がある。店に来て、庭を見て、歩いて、食事をする体験ができて初めて大衆の文化になる。美術館が静的な保存だとすると、われわれは動的な保存だ。生活活動の中で動的に日本文化を味わえる環境を作り、併せて保存をしている」

 ――新型コロナでの対応は。

 「二つある。一つはファイナンス。適切に資金調達できればつぶれることはない。どうディフェンスしてつなぐかだ。もう一つはアフターコロナで変わる部分と戻る部分を見分けてそれぞれ対処するべきだ。また、次の世代の経営者に引き継ぐ時のことを考えなければならない。私は2050年には人口減少で労働力は現状の3割減となると予測している。未来の労働力、売り上げを想定して、今から備える必要がある」

しんむら・たけし=筑波大学大学院博士課程システム情報工学研究科修了。博士(工学)。がんこフードサービス株式会社副社長、立命館大学、近畿大学客員教授、関西経済同友会調査企画部会委員など併任。

【聞き手・長木利通】

 
 
 
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