
右から高橋和之専務、櫻井丘子会長、櫻井太作社長
肌に優しい温泉と県内屈指の施設
知名度向上と地元客の誘致に注力
東京都心から新幹線と在来線で1時間半という好立地にある群馬県・磯部温泉の「ホテル磯部ガーデン」(群馬県安中市)。同温泉は、「舌切雀」の伝説が生まれた地、そして湯気を表す三本線でおなじみの温泉マーク発祥の地で知られる。伝統が息づく温泉地にある同館は、119の客室、最大で数百人規模を収容する五つのコンベンションホール、4カ所の大浴場を備えた県内屈指の大規模旅館だが、新型コロナウイルスの感染拡大で、地元客の誘致など新たな取り組みも模索している。櫻井丘子会長、櫻井太作社長、高橋和之専務に聞いた。
ホテルの外観
「『舌切雀』のお宿で、スタッフ一人一人の心を込めたおもてなし」がテーマの同館。
入館すると広々としたエントランスが宿泊客を迎えてくれる。中庭は京都の寺院も手掛ける庭師が手入れを行う日本庭園で、人々の目を楽しませてくれる。客室はさまざまなタイプがあり、宿泊客は旅行スタイルに合わせての選択が可能だ。
温泉は塩化物泉。「湯がとても柔らかい。明治時代までは、草津で湯治をした後に、仕上げの湯として磯部温泉に漬かり、東京に帰る旅人が多かった」と櫻井会長。旅人たちは草津と磯部の両方に漬かり、それぞれの良さを比べていたのかもしれない。
最大のセールスポイントのコンベンションホールは県内随一の会場数を誇る。最も大きい部屋で900席を確保できるスペース。着席、立食のいずれの形式でも利用できる。
会場は43室まで分割可能。大小の宴会に対応する。「完全防音のパーテーションを導入した」と高橋専務。他の会場から流れるカラオケの音が気になるとの、顧客の声を受けての対応だ。宿泊客からの要望に素早く応じる。
首都圏の団体客を中心に多くの顧客を集め、近年は「温泉会議力」を旗印に、会議をして温泉に漬かり、宴会を行う宿泊スタイルを打ち出し、企業などから好評を得ている。
施設のリニューアルにも取り組み、昨年には耐震工事も完了。
「Wi―Fi環境を整備し、昨年末は中、高生を対象としたIT、プログラミングキャンプの宿泊施設に選ばれた。先日、磯部近辺へのオフィス移転を促進するための要望書を行政に提出した。当館のみならず、地域全体を活性化させたい」と、建築科出身で、デジタル環境にも明るい櫻井社長。
右から高橋和之専務、櫻井丘子会長、櫻井太作社長
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新型コロナウイルス感染症が拡大して以降、状況が一変。県境をまたいだ移動の自粛で団体客が激減し、地元の個人客中心に方針転換を目指したが「地元のお客さまをしっかりお迎えできる態勢が整っていなかった」と、櫻井丘子会長、櫻井太作社長、高橋和之専務は口をそろえる。
安中市は、市内施設の宿泊代を3千円割り引く県民対象の「安中おもてなしキャンペーン」を展開している。
7月末までは、群馬県がコロナ下での県内宿泊施設の救済へ、県民を対象とした愛郷ぐんまプロジェクト「泊まって!応援キャンペーン」を展開した。
その効果もあり、ここ数カ月は高崎や前橋からの県内客の姿も目立つというが、「『磯部温泉には来たことなかった』と皆さんおっしゃる」(櫻井会長)。
アクセスの良さ、さまざまなタイプの客室、肌に優しい塩化物泉の温泉、丁寧な手入れがなされた中庭、地元の食材を使った和食膳やバイキング形式の朝食、潤沢な宴会場、北関東の旅館で最大級のコンベンションホール―。これほどまでに豊かな施設が整い、利用者のニーズに応じた多様なサービスを提供しながらも、群馬県内での知名度は低かった。
群馬県は全国有数の温泉県だけに、周囲には強力なライバルが多い。地元でおなじみの上毛かるたの読み札には、「伊香保」「草津」「四万」「水上」は出てくるが、「磯部」は見当たらない。県境を越えた東には全国有数のリゾート地、軽井沢が控えている。
県内の在住者にアピールするため、始めたのが新たな宣伝。高崎市内に掲示する広告板のポスターには、かわいい雀のイラストとおいしそうな料理の写真、そして「君はまだ磯部を知らない」のキャッチフレーズが印刷されている。新たなイメージ戦略で、いまだ開拓されていない県内客の誘致を目指す。
露天風呂
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Go Toトラベルキャンペーンが始まり、市のキャンペーンの利用対象が10月から全国の在住者に広がるなど、追い風が吹き始めた。
従来の首都圏からの団体客が見込めない現状、地元群馬県、さらには隣接する長野県からの個人客の誘致に当面は力を入れる方針だ。
コンベンションホール