【日本茶インストラクターが勧める 素敵なお茶生活 52】伝える言葉 繁田聡子


 言葉遣いは難しいといつも思います。政治家の失言しかり、「記憶にありません」と無責任に繰り返される語句もしかり。行いと言葉で人となりが分かります。私自身も、あのときの言葉や言いようを取り消したいと思う場面がいくつもあります。発してしまった言葉は口に戻すことはできません。

 日本茶インストラクターになりたての頃、理解できていないことを口にしたり不確かなことを言ってしまったり、全く、今思い出しても赤面ものです。仕事においては、立場上の発言を強制的だと感じた従業員もいたことでしょう。反省し、同じ間違いを繰り返さないようにするしか方法はありません。

 取材を受けるとき、新聞や雑誌の場合、原稿を事前に見せてもらい、「こういう意味で言ったのではありません」などと、数回のやり取りができ、訂正も効くのですが、テレビの場合は編集次第でどうなるか分からない怖さがあります。

 日本茶の効能と淹(い)れ方を伝える番組に出たとき、司会者との会話で肝を冷やしたことがあります。4月上旬の収録でしたので、早い時期に収穫できる鹿児島から、航空便で届いたばかりの新茶を持参して、「おいしいお茶の淹れ方」の実演をしました。静岡出身の司会者が「この新茶は静岡産ですか」と問い、私は「残念ながら鹿児島の新茶です」と答えたのです。

 静岡の新茶は、時期的にまだ出回っていない頃でもあり、静岡出身で、小さい頃からお茶に親しんでいることを強調していたその司会者に対して言ったのですが、「残念ながら」の言葉が、いかにも鹿児島の新茶が静岡産より劣っているとも聞こえかねません。誤解されやすい表現でしたし、何より鹿児島の生産家に申し訳ないと、収録後、プロデューサーに「この場面はカットしてください。くれぐれもお願いします」と念押しし、後日の放映をドキドキしながら見たものでした。問題の場面はなく、心底ほっとしました。文脈の中で言葉を捉える大切さが身に染みた経験でした。

 近年、小学校の授業で英語が必須となっているようですが、言葉遣いの大切さに気づく機会ともなってほしいものです。外国語教育について書かれた本の中で、「泳げるようになる」とは「泳ぎ方を習うこと」であり、「魚になることでは決してない」との記述を学生時代に読み、深くうなずいた記憶はいまだに鮮明です。

 
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