【日本旅行協定旅館ホテル連盟総会記念対談】日本旅行社長 小谷野悦光氏 × 日旅連会長 桑島繁行氏 


3年ぶりの"リアル総会"開催を前に、固い握手を交わす小谷野日本旅行社長(右)と桑島日旅連会長

地域の課題解決へ、連携を一層密に

 日本旅行協定旅館ホテル連盟(日旅連)は3月2日、東京のホテルメトロポリタンで2023年度通常総会を開く。コロナ禍で21年は書面、22年はリモートでの開催となり、リアルでの開催は3年ぶりとなる。会社は昨年からのコロナ禍を踏まえた中期経営計画で「顧客と地域のソリューション企業グループ」をビジョンに、「ツーリズム」「ソリューション」の二大事業で観光地を含めた地域の課題解決に尽力する。新年度の会社の方針、ビジネスパートナーである日旅連の事業方針、そして両者の連携策を日本旅行の小谷野悦光社長、日旅連の桑島繁行会長(北海道・北こぶし知床ホテル&リゾート会長)に語っていただいた。

 

 ――(司会=本社・森田淳)昨年の振り返りから。

 小谷野 昨秋、毎夜夢中にさせられたサッカーのワールドカップ。カタールの競技場では、観客の誰もがマスクせず熱狂していた。世界と日本の違いを示す象徴的な光景だった。

 昨年は年初より、国内においても経済活動を正常化していこうという動きは強く加速していた。JATAとしても、地域経済に大きく影響する国内観光需要の早期回復、インバウンド再開に向けての水際対策の緩和に、業界挙げて国への陳情を行ってきた。春先には、「一律の行動制限は課さない」とした指針が示され、旅行需要回復を後押しする政府の支援施策再開にも期待が高まっていた。

 県民割、ブロック割を経て、いよいよ全国版の「全国旅行支援」が10月11日に開始された。制度も変わり現場における初期混乱があったことも事実だが、観光産業のポテンシャルを期待してもらい支援いただいていること自体がありがたいことだ。メディアでも旅行に関する話題が盛り上がり、地域がお客さまにあふれ活気ある光景を目の当たりにすると、この実現のため、さまざまな方にご支援、ご尽力を頂いたことに感謝の気持ちでいっぱいだ。

 いよいよ動きだした感じだが、この3年間のダメージは観光産業に深く突き刺さっている。多くの貴重な人材が観光産業から流出し、現在の急な需要回復に対応できないという人手不足の問題も出てきている。個社の経営努力でどうにもできない部分には、継続的な支援が必要になる。

日本旅行代表取締役社長 小谷野悦光氏

 

 桑島 当初コロナ禍は2、3年で収まるのではというのが世の風潮だったが、いまだに収束したわけではない。

 昨年も翻弄(ほんろう)された1年だった。年初早々から、第6波に見舞われ、また悩ましい1年が始まったという思いだったが、1年目、2年目と違い、世の中もだいぶ慣れてきて、ワクチンの効果もあるだろうが、人々の恐怖心、不安というものがだいぶ薄れてきたようにも感じた。

 ただ、旅行しようというマインド回復までには、完全に結び付いておらず、全開とまではいかなかった。

 そうした中で、10月11日に全国旅行支援が始まった。これは大変ありがたかった。かつての「Go Toトラベルキャンペーン」ほどのインパクト、効果までには至っていないが、私たち北海道では「HOKKAIDO LOVE!割」の名称で事業を進めてもらい、各施設とも一定の効果が表れたようだ。
安心で安全な施設に長期滞在し、テレワークを行うという新たな需要も生まれた。3年間のコロナ禍で生まれたある意味成果だと思う。

 今、われわれ観光、宿泊業は人手不足に悩んでいる。コロナ禍でかなりの従業員が退職した。特に私のところのような地方は、都会に比べて人口が少ないだけに、さらに大変だ。同業者の中には、働く人が確保できずに閉めている館もある。緊急事態宣言で閉めたこともあるが、働く人がいなくて閉めるというのは本当に忍びない。

 最近、今までには考えられなかったことが起きている。特に私の地元の知床では昨年、観光船の事故があった。観光ばかりではないが、安心、安全が最も大事だ。私たち宿泊業も、より気を付けなければならないと、気を引き締めているところだ。

 日旅連としては、本部や支部連合会の総会を書面開催をしたり、懇親会も2年間ほぼできずにいた。1年に1回「やあ、元気かい」「お宅はどうなの」と会員同士、直接話をするのが総会の一つの目的のようなもので、この2年間は本当に寂しかった。今年の本部総会は本来のリアル開催に戻すことができそうだ。

日本旅行協定旅館ホテル連盟会長 桑島繁行氏

 

 ――昨年は会社と旅連で「SDGs共同宣言」を行った。

 桑島 今年の本部総会で、各地の取り組みから優良な地区が日本旅行から表彰されることになっている。各地から、22件もの事業が報告された。皆で取り組もうという意識が高まっていると感じている。

 小谷野 旅連と協働してSDGsに向き合えたことに意義がある。各地域の旅館ホテルと活発な議論が行われ、価値の高い取り組みができている。

 会長が言われたように、今年の本部総会で優秀な取り組みを表彰するわけだが、表彰して終わりのクローズドな成果発表に終わらせることはない。社内外に積極的な情報共有をし、ほかの地域にも横断的に展開させる。現場の皆さまの活用につながるようにしたい。

こ のような動きは、これから地域や社会でさらに求められていく。特に、インバウンド再開の中では、海外誘客の目線からも重要だ。日本の観光産業が先進的に取り組み続けていることを世界にも発信できる。

 桑島 地域における取り組みが世界に発信されれば、地域全体がさらに盛り上がることになろう。

 小谷野 今年は「地域の社会課題の解決」を最も大きなテーマに掲げている。これまで、地域に支えていただいて旅行業を続けさせていただいてきた。地域とは一蓮托生(いちれんたくしょう)という思いで事業に取り組んでいる。

 これからは、単にお客さまをお送りするという旅行業の機能にとどまらず、一段視座を高く構え地域全体を俯瞰(ふかん)し、地域の抱える課題に向き合い解決することが重要だと考える。ひいてはそれがさらなる旅行需要の拡大にもつながるはずだ。

 旅行業が厳しい状況下にあったこの3年間、企業としての生き残りをかけて、旅行業の枠を超えたさまざまな事業にチャレンジしてきた。その中で、旅行業で培ってきたリソースは、事業パートナーに前向きに受け止められ、多くの社会課題解決に寄与できる力があることに気付いた。それを社内的には「覚醒」と呼んでいるのだが、この力をより地域のために還元していく決意だ。

 桑島 今まで旅行会社はお客さまをお送りいただくという存在だった。しかし、事業を共に創り出す、共創をしなければならないという意識にこの数年で変わった。

 地域における観光業への見方もこのコロナ禍で変わった。農業をしている地元の友人から、観光バスやレンタカーが全然走っていないことをすごく心配された。今まではあまり関心がなかったようだが、地域における観光の重要性が逆に認識されたように感じる。それだけ今回のコロナはさまざまな意味においてインパクトがあったということだ。

 

 ――会社では昨年からコロナ禍を踏まえた新たな中期経営計画が始動している。

 小谷野 従来型の発地目線から着地目線への転換。また、収支管理をエリアごとから事業領域ごとに行うように組織を変えた。会社の事業は「ツーリズム事業」と「ソリューション事業」を二大事業とし、この数年、旅行需要が少ない状況下では、さまざまな地域の社会課題を解決するソリューション事業に特に尽力してきた。

 新しい計画を見て、日本旅行は旅行業を辞めるのではないかと言われる方もいたが、決してそうではない。ツーリズムとソリューション、その両方の機能をフルに発揮して、地域と向き合う。社内的にも縦割りではなく、横連携の総合力で地域に貢献する。

 

 ――昨年1年間の業績について。

 小谷野 旅連の皆さまのご支援ご協力、社員の頑張りで、収支自体は良い結果となった。先を見越した取り組みが奏功した。

ただ、われわれは甘んじることなく、この結果を今年以降の力に変えていきたい。

 

■    ■    ■    ■

 

 ――今年1年の業界展望を。

 小谷野 3月まで全国旅行支援が継続する。しかし、この3年間で観光産業が受けた経営基盤の棄損はとにかく生半可なものではない。わが国の成長のエンジンと期待される観光のインフラが、将来に向けて持続可能な成長軌道に戻れることが重要だ。個社が自律的な経営の回復をつかめるまで、形が変わったとしても、国内需要を喚起する国のさらなる継続的なサポートを求めたい。

 国内の動きとともに、海外からの動きが大事だ。世界のお客さまをどう迎え入れるか。今年は、インバウンドを、特に地方に呼び込む力の醸成を最優先に取り組む。

 

 小谷野 今までは、ゴールデンルートを代表する都市部および著名な観光地に集中したり、コンベンション施設が整備されている等の滞在条件が最優先されていた。

 今後はいかに、地域の持つ魅力に気付くことができるか、そしてそれを磨き上げ、新たなデスティネーションとして海外に訴えかけることができるか。地域や行政と連動し、そのような新たな地域誘客の仕組みを創ることと、何よりわれわれ社員のスキルアップが必要だ。

 桑島 コロナ禍も4年目。今年こそ収束するよう期待したい。コロナはゴールデンウイーク明けに「5類」になる。マスク着用も注意点があるものの3月中旬には個人判断になる。日本も世界に合わせてウィズコロナにかじを切った。その意味でわれわれはもう一度原点に返り、頑張る年だと認識している。まだ2019年のレベルには達しないかもしれないが、その近くまでいくのではないかと踏んでいる。

 われわれは感染症と上手に向き合うことを学習した。これからは人流が止まることはない。今までとは違う。今年を観光の「復活元年」にしたい。旅連もそれに向けて頑張る。

 海外のお客さまはこれからだが、航空路線が再開され、飛行機の便数が増えれば必ず戻る。戻りは意外に早いと見る。今、ニセコに海外のスキー客が多く来ている。新千歳空港にもかなりの人がいる。私の地元も海外のお客さまが少しずつ増えてきた。大きなトランクを持って道路を歩いている。ようやく戻ってきてくれたと、感謝の思いで見ている。

 

 ――まだ航空運賃が高く、比較的富裕層のお客さんが多いのでは。

 桑島 露天風呂付き客室を利用されているお客さまが多く、今言われた通りかもしれない。われわれとしては大歓迎だ。

 

 ――業界は人手不足、「ゼロゼロ融資」の返済など、新たな問題を抱えている。

 桑島 融資については日本旅館協会、全旅連など業界団体で要請活動を行っているが、なかなか先が見えない。自社の経営について、あまり表に出したくないところもあるだろうが、ここは包み隠さず、われわれはこれだけの負債があるのだという実態を国会議員の先生方に知っていただく必要がある。対応が遅れると今年でも休館、廃業に追い込まれる施設がまだ出てくる。

 

 ――会社の今年1年の取り組みは。

 小谷野 先ほど申し上げた新しい中期経営計画の推進。事業領域をブラッシュアップし、実効性を担保する。ツーリズム、ソリューションの二大事業で機能をしっかり発揮し、地域の社会課題の解決を図る。
さらにこの先、未来を見据え、社会に求められる課題に対し、先手を打っていく。日本旅行は伝統的な会社だが、将来に向けてしっかり手を打っていると、旅連の皆さまにも感じてもらえるようにしたい。

 具体的にはDX(デジタルトランスフォーメーション)などの領域だ。コロナ禍で変化した人々のライフスタイルや価値観の変化に対応できるサービスの在り方に変革していく。

 先ほど来、話に出ているSDGsも取り組みを深化させる。カーボンオフセット対応のプランも利用が拡大してきた。お客さまの考え方も常にアップデートされている。とにかく売れれば良いという従来の発想ではなく、社会課題にもしっかり向き合うという発想に転換できているかが問われる。旅連の皆さまと協働で創り上げてきたSDGsの取り組みも、早急に具現化し社会に提供していきたい。

 コロナ禍において従来の旅行業の良しあしを客観的に学ぶことができたように感じている。足元では企業としての生き残りをかけた状況が続く一方、将来に向けた先行的な挑戦をどこまでやりきれるか。旅連の後継者世代にも「日本旅行と付き合ってたらプラスになるんじゃないか」と言われるように。さらにわが社の若い社員にも、この会社で働くことに手応えと誇りを感じてもらえるよう、力強く推進したい。

 

 ――日旅連の今年は。

 桑島 日本旅行と連携し、宿泊増売を図る。これが絶対の使命だ。方法論は変わっても、基本は変わらない。

 今までと同じ方法にコロナ禍で学んだこと、昨今の重点課題を加味する。若い世代がこれから中心になり、事業を進めていくが、単なる今までの延長線上で進めるのではなく知恵を出してほしい。

 日旅連には営業推進委員会(営推)という若いメンバーたちの組織がある。彼らはみんな燃えている。自由闊達(かったつ)に日本旅行の人たちと意見を言い合い、法人、個人、訪日の各分野で実績を積み上げている。委員会に参加していない人から「この委員会なら入りたい」という声もあるそうだ。私はこの営推が日旅連という組織が評価されている大きな要因の一つだと思っている。

 日本旅行は大きな組織改正を行ったが、われわれの姿勢は変わらない。コミュニケーションを密にし、共に歩んでいく。

 私自身は日旅連の役員になって30年近くになる。日本旅行という会社の良さをよく知っているつもりだ。決して派手ではないが、足腰が強く、物事に堅実に取り組んでいる。そうでなければ100年以上も歴史が続くわけがない。

 コロナ禍でここ数年は思ったように事業ができなかったが、今年は環境も改善され、定率会費収入も一定の回復が見込まれることから、事業の再活性のための新たな予算を立てている。大きな事業の一つであるセールスマンとの商談会「ワークショップ」もリアルで開催する予定だ。

 

 ――最後に会社から旅連へ、旅連から会社へそれぞれメッセージを。

 小谷野 ウィンウィンの関係をさらに強固なものにしたい。

 われわれの能力をフルに発揮して、地域のポテンシャルを高めるとともに、問題解決を図る。旅連を含めた地域の皆さまのご期待に沿えるよう、今後も進めていきたい。

 桑島 この3年間、旅連が大変なときに物心両面で支援を頂いた。本当に感謝している。

 今の日本旅行の社員の皆さまは、みんな明るい顔をしている。われわれと同じ苦労をされたと思うが、そのような中でも先を見越した取り組みをされ、手応えを感じておられるのだろう。

 私は今期を持って会長を退任するが、これからも会社と一体になって、さまざまな示唆を頂きながら事業を進めていくことを期待している。

 

3年ぶりの”リアル総会”開催を前に、固い握手を交わす小谷野日本旅行社長(右)と桑島日旅連会長

 

 
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