健康に高い関心、衛生対策重視
5月のゴールデンウイーク、日本は「緊急事態宣言」の中、外出自粛が叫ばれていたが、中国においては国内感染が落ち着きを見せ始め、数カ月間にわたり巣ごもり生活をしていた人々が国内旅行へ出掛ける行動も一部で出始めている。中国の労働節5連休の旅行者数は対前年比で6割程度の1億1500万人、観光収入は475億6千万元であり、確実に旅行需要が回復に向けて動き出したといえる(6月8時点)。
当所では5月7~15日にかけ、管轄する華東地域(上海市、江蘇省、浙江省)の主要旅行会社22社(以下各社)へ緊急アンケートを実施し、新型コロナウイルス収束後の海外旅行の回復時期や旅行先を選択する際のポイントなどについて調査を行ったのでここで紹介する。
まず、各社の営業再開時期について尋ねたところ、既に通常勤務と答えた会社は3社にとどまり、まだ多くの会社は在宅勤務や自宅待機を継続している状況であり、元通りの営業体制に戻るのは夏休み以降か、10月の国慶節になると答えた会社が大多数であった。
次に海外旅行の回復時期に関する質問に対し、夏休みまでは中国国内旅行が活況を呈し、国慶節から徐々に出境(海外)旅行が回復し始め、通常に戻るのは2021年春節以降と予想する回答が最も多かった。回復の順位として、中国国内→香港・マカオ→タイ→日本・韓国→欧米と近場から徐々にロングホールへ拡大していくと予想している。
現在、訪日旅行は査証の無効化、日中相互での隔離措置、航空便の縮小などの影響により、すぐに回復するには難しいと思われるが、その半面、再開の時に備える準備期間とも言える。そこで、新型コロナウイルスを経験し、訪日旅行の回復後、日本に行く際の商品はどのように変化し、中国人が旅行先を選ぶ際に重要なポイントとなる点について各社に聞いたところ、「防疫対策」「収容人数の制限」「差別や偏見のリスク」という回答が多数あり、今までのショッピングや美食ではなく、三つの密を避ける傾向が上位に挙げられた。具体的には「健康をテーマにしたツアー」が最もポイントが高く、次に「人との接触の少ないビーチリゾート」「日本の文化体験」と続く。また、旅行形態は大型の団体旅行より家族単位や小グループの増加を予想し、個々の旅行者のニーズをくみ取ったオーダーメイドの商品開発に注力するという回答が多数寄せられた。
特に健康面への関心度は高く、旅行に対して感じる不安感を払拭(ふっしょく)するため、公衆衛生への取り組みの重要性を指摘する旅行会社もあった。一例を挙げると、「ウイルス感染防止に効果的な衛生対策」「従業員の健康チェックと情報」「飲食サービスの健康対策」などを積極的に開示することはその施設のPRにつながると言及している。
今後、この「新たな旅行の常識」にいち早く対応することが、新型コロナウイルス収束後の中国からのインバウンド需要を回復するための重要な鍵になると言えるだろう。