【日本ふるさと紀行 31】新発田(新潟県)~抒情の画家・蕗谷虹児の生誕地 旅行作家 中尾隆之


城下町と軍都から花と湯の町へ

 新潟県北部の新発田はかつて10万石の城下町。その面影は重要文化財の本丸表門や二の丸隅櫓、復元の三階櫓や辰巳櫓の新発田城にしのばれる。

 繁華街近くに遺る藩主下屋敷の回遊式庭園の清水園や茅葺長屋の足軽長屋、寺町に立ち寄り、新発田城へ足を延ばした。

 途中の市民文化会館の横にユニークな建物の「蕗谷虹児(ふきやこうじ)記念館」が目についた。「生誕120年・『花嫁』発表50周年記念企画展」開催中(10月21日まで)の看板に誘われて入館した。
蕗谷虹児といえば大正から昭和にかけて、「♪金襴緞子の帯しめながら 花嫁御寮はなぜ泣くのだろう」(花嫁人形)で一世を風靡した抒情の画家・詩人である。

 19歳の父と15歳の母の間に長男として生まれ、新発田の母の生家に預けられて育つ。13歳の時に母が他界、父親の転職で新潟に移住する。丁稚奉公の身ながら画才を見込んだ新潟市長の世話で、日本画家の尾竹竹破の内弟子になるべく15歳の時に上京する。

 のちに竹久夢二の紹介で「少女画報」に虹児の名で挿絵画家としてデビュー。朝日新聞の連載小説や「令女界」「少女倶楽部」の挿絵、表紙、口絵の超売れっ子画家になった。

 多く描いた美人画の中でも心ひかれたのは郵便切手になった「花嫁」。角隠しに華やかな打掛け姿の繊細優美でみずみずしい絵である。なんと虹児70歳の作品である。

 よ~く見ると右の目に一粒の涙が光っている。15歳の美少女の身で自分を生み、28歳で亡くなった母への切なく深い思慕がこめられているのだろうか。

 新発田は明治時代に第二師団第十六連隊、戦後は自衛隊駐屯地が置かれた軍都。だが歴史の面影をたどり、蕗谷虹児の絵に出合うと思いはしだいに薄らぐ。

 加治川堤の桜や五十公野公園のアヤメの季節に、美人の湯の月岡温泉を訪ねたくなった。

(旅行作家)

●新発田市観光協会TEL0254(26)6789

 
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