【日本ふるさと紀行 30】福島市(福島県)~古関裕而のふるさと 旅行作家 中尾隆之


花と果実といで湯が響き合う街

 
 「♪雲は湧き 光あふれて天高く 純白の球~」(栄冠は君に輝く)。軽快で力強いメロディを聞くと甲子園の入場行進が目に浮かぶ。
 その全国高校野球選手権が8月5日に開幕する。今年は第100回の記念大会である。耳になじんだこの大会歌の作曲者は『長崎の鐘』や『君の名は』など数々の名曲を残した古関裕而。明治40年、福島市大町の老舗・呉服店に生まれた。

 福島駅に降り立つと、広場の一角にオルガンを弾く氏をかたどったモニュメントが目につく。生家跡はレンガ(駅前)通りを歩いて5分ほど。銀行や証券・保険会社が並ぶ中心街に生誕の地記念碑が立っていた。

 音楽好きの父の影響で、10歳で楽譜が読め、作曲もする少年だったが、後継ぎのため福島商業学校(高校)に進む。しかし在学中に家は倒産。地元の銀行に勤めながら山田耕筰やクラシック音楽など独学で音楽修業を続けたという。

 そんな幼少年期を過ごした福島市は、阿武隈川と荒川の合流点にひらけ、舟運や奥州・羽州街道の交易でにぎわった町。中世から近世にかけては伊達・上杉氏の支配を経て本多・堀田氏らの城下町で栄えた。

 古い町の面影はほとんどないが、市街地の北にシンボルの信夫山がこんもり横たわる。ここは羽黒、湯殿、月山の三神社を祀る信仰の山として親しまれている。

 その東麓に立つ古関裕而記念館は『鐘の鳴る丘』を思わせる建物(入館無料)。1階には映像と古関メロディが1日中流れるサロン、2階の展示では写真パネルや愛用品で5千曲に及ぶ生涯をじっくりたどった。

 『船頭可愛や』から早大応援歌『紺碧の空』、阪神タイガース『六甲おろし』、全国小・中・高校歌まで多様な作曲に驚く。「♪勝ってくるぞと勇ましく~」「♪若い血潮の予科練の~」などは高齢者には感慨深い。

 周辺は桃、梨、リンゴの果実郷と飯坂、土湯、高湯の温泉郷。福島は古関メロディのように多様な魅力が響き合う町である。

(旅行作家)

 
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