【日本ふるさと紀行 22】吉野山(奈良県吉野町)~修験道と山桜のふるさと 中尾隆之


哀史を秘めた薄くれないの花の山

桜前線が日本列島を北上している。待ちわびた春を謳歌するように各地は花見でにぎわっている。とりわけ4月の1カ月間、下千本から中千本、上千本、奥千本へ麓から谷、尾根へと桜が順次咲き進む吉野山は、全国屈指の桜の名所だ。

その盛りを目指して昨年4月半ば、近鉄電車で吉野へ行った。駅前は乗降客であふれ、山上へのロープウェイやバスの乗り場には長い列。すし詰めのバスに乗って中千本に着いた。

停留所から石段を上がると、飲食、土産の店や旅館が連なる中心街の中千本。家並みの間から、山の斜面や谷間に杉木立の緑を残して山肌を埋める桜が、薄紅(うすくれない)の雲海を思わせた。

山上でひときわ目立つ大きな金峯山寺は奈良時代に役行者が開いた修験道の根本道場。本尊の蔵王権現を刻んだ桜が御神木と崇められ、保護や信者の献木により吉野は桜の聖地に。また大峰山修行の山伏の心のふるさとになった。

平安後期の歌人西行はこの桜を愛し、歌に詠み、吉野に庵を結んで3年暮らす。天皇や貴族ら多くの訪れの中でも豊臣秀吉が徳川家康や伊達政宗ら諸国大名ら5千人を招いた花見で、吉野は大いに知れ渡った。

本陣となったのが僧坊の吉水院(今の吉水神社)。古くは兄頼朝に追われた義経が静御前と潜居したのも、建武新政に失敗した後醍醐天皇が南朝を開き行在所にしたのもここである。

哀史を刻む吉野山だが、江戸時代は松尾芭蕉が西行をしのび2度足を運び、訪れた国学者・本居宣長が「敷島の大和心を人問はば朝日に匂う山桜花」と詠み、吉野山の名を高めた。

吉野の桜は花と葉が同時に出るシロヤマザクラ。花期はやや短く、散りぎわの潔さが特徴という。時折、谷からの風で竜巻のように花吹雪が舞い上がった。

厳しい山岳修行や歴史の哀話、多くの詩歌の舞台になった花の吉野は、それぞれにとって心のふるさとにちがいない。

(旅行作家)

 ●吉野山観光協会TEL0746(32)1007

 
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