【日本ふるさと紀行6】安曇野(長野県安曇野市)~「東洋のロダン」碌山の故郷 中尾隆之


水と緑豊かな北アルプス山麓の里

 長野県北西部に3千メートル級の高峰を連ねる北アルプスは日本有数の山岳美を誇る山脈。麓に広がる安曇野は水と緑豊かな美しい田園風景で知られている。

 松本から大糸線の列車で30分余り。穂高駅前からレンタサイクルで最初に向かったのは蔦が這う赤レンガの教会風の碌山美術館。近代日本彫刻の先覚者、「東洋のロダン」と呼ばれた穂高生まれの荻原守衛(碌山)の『文覚』や『女』など力強い作品を見た。
 
 碌山が5人兄弟の末っ子として常念岳を仰ぐ矢原に生まれたのは明治12年。20歳を前に画家を志して上京。さらに22歳から7年、アメリカ、フランスなどに留学。『考える人』を見て彫刻家に転進。高村光太郎と出会い、ロダンを訪ね、帰国したのは28歳の時。

 郷里の先輩で理解者であった相馬愛蔵が開いた新宿中村屋の近くに構えたアトリエで「愛は芸術なり、相克は美なり」を胸に制作に打ち込んだ。しかし愛蔵の妻・良(黒光)への深い思慕に苦悶の日々を送るうち、中村屋で吐血。30歳半ばの若さで世を去った。
美術館をあとにレンタサイクルで、古代、北九州から移住した海人・安曇族を祀る穂高神社に参拝。路傍の草花や双体道祖神、安曇米の稲田に足を止めつつ、NHKドラマ「水色の時」道祖神や「♪春は名のみの~」の早春賦歌碑、清冽な万水川を見たあと大王わさび農場へ行った。

 豊富な湧水を使った広大なわさび園では栽培場や加工所、売店、食事処をひと巡り。つられて食べたわさびソフトは爽やかな甘さ。

 駅に戻る道の前方にずらりと並ぶ北アルプス。この山並みの麓に育った碌山の手記に「富士の秀峰の美も認めるが、私の精神を動かし得るものは乗鞍、鎗ヶ嶽のゴツゴツした山である」などとある。

 風景が人を創るという言葉があるように、碌山の気質や作風の気高さや力強さはこの山々によって育まれたのだろう。

(旅行作家)
 ●安曇野市観光協会TEL0263(82)3133

 
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