【日光市 観光トップ座談会】日光市長 粉川昭一氏 × 日光市観光協会 八木澤哲男氏


未来と国内外を見据える観光施策

 「日光」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。多くの人は「日光東照宮」、人によっては「修学旅行」や、「湯波」「そば」などの食を思い浮かべるだろう。そんな日光市が今、これらの既存の観光資源を大切にしつつ、新たな魅力で誘客を図ろうとしている。プロモーションを重視した新ブランディングの実施意図や今後の観光施策などについて、粉川昭一・日光市長、八木澤哲男・日光市観光協会長に尋ね、積田朋子・観光経済新聞社社長を交え議論してもらった。聞き手は森田淳・同社編集長。

 

 ――新ブランディング「NEW DAY’NEW LIGHT.日光」について、実施意図や狙いをお聞きしたい。

 粉川市長(以下、粉川) 日光市には長い歴史や、壮大な自然、そしてアイデアあふれる遊びやアクティビティ、新しい文化や食などがあり、これまで大切にしてきたもの、そしてこれから生まれるものにも新しくスポットライトを照らすことで、皆さんに新たに興味を持ってもらいたいという思いを込めている。ブランディングを発信し続けることで絆を深め、当市と皆さんが新しい関係を築いていく、それが「NEW DAY’NEW LIGHT.日光」の役割だと考えている。現在、当市は第1弾の観光プロジェクトとして、豊富な観光資源をテーマやストーリーごとに束ねて発信する「Route.N」を、映画やドラマ、バラエティやYouTube動画などのロケ地を探す方に向けて、撮影シーンに適した場所を紹介する「Studio.N」を展開している。

 新たなコンテンツを活用した魅力発信も考えており、当市の豊かな産業や観光地、自然や名産品をより身近でチャーミングなものにするため、チョコレートを活用した第2弾のプロジェクト「CHOCOTTO NIKKO」を開始した。老若男女から広く愛され、多くの方々に親しみのあるチョコレートで当市に新しい光を当てたい。今回のブランディング戦略も含め、今後も次々と新しい日光の発信を続けていきたい。

 

粉川市長

 

 積田社長(以下、積田) 中禅寺湖一帯は外国の大使館別荘があり「洋」の雰囲気を感じるエリアなので、チョコレートはその雰囲気に合うような気がする。

積田社長

 

 粉川 メインコンセプトは「和魂洋才」。「湖畔でチョコレートを食べながらくつろぎのひと時を過ごす」のような、チョコレートにまつわるストーリーを軸に据えて発信し、栃木県を含む国内各地、各国からのお客さまをお迎えするイメージはすでにできている。本格実施に向け現在は関係各位にお声掛けしているところだ。日本チョコレート工業協同組合が市内に進出したことも大きな強みで、今後の多様な展開にも期待している。

 積田 個人的には湯波など既存の名物に対するイメージが強いが、全世代的に発信できるチョコレートを活用すれば新たなブランドになるはずだ。

 粉川 古くからあるもの、新しく創造していくものも含め、市民はもちろん、当市に来訪する皆さんにも自慢したくなる場所やモノ、コトにスポットライトを当てていただきたい。それらはきっと誰かの心を動かすはず。一つ一つは小さいが、集まると大きな光になる。当市はまさにNEW DAY’NEW LIGHT.の言葉を体現したような場所であると考えている。

 八木澤会長(以下、八木澤) 当市はこれまで、観光としては日光東照宮、日光山輪王寺、日光二荒山神社の二社一寺からなる世界遺産「日光の社寺」や中禅寺湖、戦場ヶ原、日光江戸村や東武ワールドスクウェアなどのイメージが強いが、まだまだ知られていない観光スポットを発掘するという点では、NEW DAY’NEW LIGHT.はその目的に沿っていると思う。

 

八木澤会長

 

 ――ブランディングの一環として作成したプロモーション動画の反応は。

 粉川 SNS等への書き込みを見ても非常に好評だ。好意的なコメントが多く寄せられている。本プロモーションのメインターゲットがSNSなどへの発信力がある20~30代の若年層なので、良い反応があるのはうれしい。

 八木澤 実際に動画を見てみると各シーンがとても美しく、「これは市内のどこなんだろう」と思うような意外なところが出てきて、皆で調べてみたりした。

 

 ――誘客に関し、現状や今後の方針などについてどのように考えているか。

 積田 市内の豊富な観光スポットの数からして、1日で全てを回り、見るのはなかなか難しいと思う。日帰りではなく宿泊まで取り込みたいのでは。

 粉川 その通りだ。来訪者にはぜひ宿泊を、願わくば連泊してほしい。市内の温泉地を含め、どうやって宿泊に至る部分まで誘客できるかが課題となっている。

 積田 関東地方出身者として、日光は修学旅行で訪れる人が多いという印象がある。

 粉川 「修学旅行以来訪れていない」という声が多く聞こえるのが悩みだ。今までPR不足なところもあったが、これからは毎年来てもらえるようにしていきたい。

 積田 関東以外の地域、例えば中京圏などにも魅力が伝わると良い。

 粉川 2025年には大阪・関西万博が開催予定で、コロナ禍がある程度落ち着いてインバウンドが戻る頃には、中京、近畿圏からも誘客できるかもしれない。

 

  ――日光市の観光が抱える課題や、将来的に目指す姿についてお聞きしたい。

 粉川 コロナ禍の影響により、国内外からの来訪者が大きく減少し観光産業は大打撃を受けた。回復に向け、持続可能な観光を推進するために、事業者と市民、行政が一体となり魅力ある観光地づくりに取り組む必要がある。観光協会やDMO日光との推進体制の強化も非常に重要だ。
当市の観光は時季による繁閑差が大きく、閑散期の冬の誘客を促進し、通年型観光を目指していきたい。その一環として、四季折々の魅力を生かした体験型のアクティビティ、通年で楽しめるプログラムの造成を強化している。日光や奥日光、鬼怒川・川治、湯西川、奥鬼怒、湯元温泉など、広大な市内各地に滞在してもらえるようにしたい。

 八木澤 トップシーズンの車の渋滞が大きな課題の一つだ。特に二社一寺の周辺は、以前はバス利用者の割合が大きかったのである程度対応できたが、旅行の少人数化の流れもあり現在はマイカーで来られる方が多く、駐車場に入れず渋滞が発生するという状況になっている。駐車場からバスでお客さまを送迎するなどの試みも実施し、ようやく改善の兆しが見えている。紅葉シーズンのいろは坂の渋滞も同様の課題だ。いろは坂をいったん登って下る際に、どこにも回避ルートがない状態になる。これらは改善したい。

 鬼怒川温泉では、さまざまなメディアでも取り上げられているが、廃屋が問題となっている。閉館から15年から30年ほど経過した建物が廃屋化し多数存在しているので、解体、撤去する必要がある。市単独で行うのが難しいことは理解しているので、県や国の助けを頂きながら解体し、もとの奇麗な渓へと戻していきたい。同様の問題は中禅寺湖周辺にも存在しているので、鬼怒川だけの問題とはいえない。

 積田 長く観光業界を見続けた中で、鬼怒川は日光とは少し異なる位置付けで、かつては年間約350万人の誘客を誇った時代があり、個人的にはいまだに当時の華やかな記憶も残っている。2006年の合併により日光市の一部となり、今回のようなプロモーションを推進していけば、新しい鬼怒川の姿が見えてくると思う。

インバウンド等に着目すると、富裕層の取り込みも今後誘客の一つの鍵になるはずだ。

 粉川 インバウンドのさらなる誘客を図るためDMO日光を立ち上げ、まさにこれから!というタイミングでコロナ禍が来てしまった。東京オリンピック、パラリンピックも開催延期、無観客での実施となり、当市としては国内外からの誘客の大きなきっかけを失ってしまった。

 八木澤 もう緊急事態宣言が発出されることはない、と想定こそしているものの、宿泊施設としては最初に発出された時には1カ月から1カ月半ほど休業を余儀なくされ、昨年も半月から1カ月ほど休業があり、今年に入りワクチン接種が進み、ようやくお客さまが動きだしてくれた。

 粉川 各旅館・ホテルの感染症対策も万全を期しているので、安心して宿泊してほしい。

 積田 全国旅行支援なども議論されているが、支援に頼らない経営を目指す段階にきているのかもしれない。コロナウイルスの感染状況は一進一退だが、今にもあふれだしそうな旅行需要をしっかり取り込んでほしい。

 粉川 もちろん独力での経営努力も必要だが、旅行客の呼び水的な政策があると誘客、送客の大きな後押しになってくれる。回復基調の旅行需要を下支えする政策を全国的に実施してもらえるとありがたい。

 

 ――お二人が思う、他の観光地に負けない日光市の観光の魅力は。

 粉川 2006年に今市市、日光市、藤原町、足尾町、栗山村が合併し、面積は全国の市区町村の中で3番目の広さとなり、各エリアに観光名所がある。世界遺産「日光の社寺」、ラムサール条約湿地「奥日光の湿原」をはじめ、日本で唯一、特別史跡と特別天然記念物の二重指定を受ける「日光杉並木街道」、産業遺産「足尾銅山」など、世界に誇る歴史的、文化的遺産や雄大な自然がある。鬼怒川温泉、川治温泉、湯西川・川俣・奥鬼怒温泉郷、奥日光湯元・中禅寺温泉など、湯量豊富な温泉にも恵まれている。

 積田 これだけ多種多様な観光資源を有する自治体はそう多くない。

 八木澤 市長にほとんど言われてしまったが(笑い)、豊かで魅力的な自然は当市ならではだと思う。合併を経て総面積の約86%が森林となり、改めて自然の恵みを感じている。

 日光の社寺については、日光山輪王寺、日光二荒山神社の大修理が一昨年完了した。地元としては、やはり二社一寺が注目されるとお客さまも増えるという認識でいる。温泉についても、市内の温泉は各所で泉質が異なり、それぞれに特徴があるのでぜひその違いも楽しんでほしい。これらは日光の強みであり、日光しか提供できない魅力だ。

 17年には東武鉄道がSL「大樹」の運行を開始、今年からは3機体制となり、ほぼ毎日鬼怒川温泉駅―下今市駅間を運行している。昨年からは東武日光駅にも乗り入れるようになった。

 積田 鉄道ファンにはたまらない。

 八木澤 最近は撮り鉄の人を多く見掛けるようになった。「汽笛の聞こえる街」という側面も少しずつ周知されているようだ。

 積田 JRと東武鉄道が通るので都心からアクセスしやすい。夕刻から夜にかけての時間帯に集客効果のあるイベントを催し、宿泊まで楽しんでもらえる仕組みができたら理想的だ。

 粉川 世界遺産のライトアップや月あかり花回廊などのイベントも実施している。

 八木澤 最近、華厳の滝のライトアップも始まった。

 積田 「1日を通してずっと日光を楽しみたい」という思いが、関東をはじめ東日本はもちろんだが、西日本にも伝わってほしい。インバウンドが再開した際には、東京都心部からの交通アクセスの良さ、観光資源の豊富さ、温泉など、訪日外国人の心をつかむものが日光にはたくさんある。

「コロナ禍終息後に行きたい国」という趣旨のさまざまな調査で、日本は最上位に位置しているが、インバウンドを大きく受け入れもてなす環境が日光には整っている。

 

 ――電気自動車「グリーンスローモビリティ」の導入など、環境保全に関する取り組みも推進している。

 粉川 二社一寺周辺の日光西町地域は、特に渋滞の影響を受けやすく、グリーンスローモビリティを活用しながら同地域の回遊性も高めていき、各スポットへの送客に結びつけたい。

 積田 訪日外国人は環境保護への意識が高いので、エコロジーへの意識や施策は今後も重要になる。

 

 ――豊富な食の魅力について改めてお聞きしたい。

 粉川 例えば名物の一つとなっているそばについては、当市は人口比でのそば店軒数が全国有数で、名店が多い。他地域のおいしいそばを食べる機会もあるが、「やっぱり日光のそばが一番だなあ」と(笑い)。どの店もハイレベルなそばを提供してくれるので、食べ比べをしながら自分の好みの店を探してほしい。現在は市内の約40軒のそば店に協力いただき、そば店を巡るスタンプラリーを実施し、好評を得ている。

 八木澤 地元の特産物を提供したい、という考えはずっと変わらない。湯波のほかヤシオマスなどを料理に使うようにしている。そこでしか食べられない郷土食を提供することが大切だ。

 粉川 行政としても地産地消に注力し始め、独自のブランド米の開発などを含め、農家と旅館・ホテルと連携し、観光と農業を結びつける取り組みにも本格的に着手していきたい。

 積田 独自の商品開発や事業連携を積極的に行うことが、自治体そのものの高付加価値化にもつながる。

 

 ――おすすめの「知る人ぞ知る日光の観光スポット」を教えてほしい。

 粉川 私は新潟県の出身で、日光市民の皆さんは見慣れているかもしれないが、他県出身者としては日光の自然を初めて見て、触れた時の感動や衝撃は今でも忘れられない。そんな自然の魅力を感じられるスポットが市内にたくさんあり、春夏秋冬、1年中いつでも自然の魅力に触れられるのが当市の大きな強みだと思う。

 春は樹齢200年を超える桜の名木を楽しみながら町を回遊する日光地域の「日光桜回遊」や、鬼怒川温泉のさくら並木通りや温泉神社の桜の雰囲気がおすすめ。夏は日光杉並木街道の歩道を歩いて澄んだ空気と癒やしを感じ、「江戸時代にここを多くの人が歩いたんだなぁ」という懐郷にかられる。秋はやはり紅葉で、栗山地域の瀬戸合峡と中禅寺湖の半月山展望台からの風景が特に素晴らしい。冬は湯西川温泉の「かまくら祭り」や、戦場ヶ原の雪原の雰囲気も見ごたえがある。

 八木澤 鬼怒川温泉でいえば、龍王峡から塩原に抜ける「もみじライン」という道路があるが、そこを入ったところに「太閤下ろしの滝」がある。かの太閤・豊臣秀吉が周囲の急な坂を馬で登れなかったことにその名が由来すると聞くが、滝を含む周囲一帯の景色はとても美しい。

 日光地域だと日光湯元の入り口にある「ラムサール条約登録記念碑」もおすすめに挙げておきたい。

 積田 鬼怒川といえば、伝統的にライン下りを堪能するお客さまも多い。

 八木澤 ライン下りは毎年4月から11月にかけて実施し、多くの方に参加してもらい50年超の歴史を重ねてきた。最近はラフティングやキャニオニングなどの自然体験型のアクティビティも行われている。

 

 ――読者にメッセージを。

 粉川 当市は「日光市教育旅行緊急帰宅支援等事業」を実施し、教育旅行中の体調不良、新型コロナウイルス感染の濃厚接触者に該当するなど、特別な事情で帰宅を余儀なくされた児童、生徒を対象に、緊急帰宅に係る費用の補助を行っている。各宿泊施設も万全の感染症対策を継続しているので、修学旅行先として「安全・安心な日光」を選んでいただきたい。

 「日光市ワーケーション実施支援補助金」を設けているので、ワーケ―ション等で当市にお越しの際にはぜひ活用してほしい。「サステナブルツーリズム」など、新しい旅の価値観にマッチする観光コンテンツの企画開発も促していきたい。

 麗らかな春、爽やかな夏、紅葉が美しい秋はもちろん、冬季はスノーシューなどのアクティビティも豊富に用意しており、「冬の日光もアツい!」。四季折々の当市を多くの皆さんに楽しんでほしい。

 八木澤 長引くコロナ禍の中で行動制限等もあり、皆さんストレスがたまっていることと思う。これから夏、さらに紅葉の秋と、日光は特に魅力的なシーズンを迎えるので、ぜひ当市で心身ともにリフレッシュしてほしい。

 

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