【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 189】抜け出す経営への原理原則6 高付加価値化10 佐野洋一


 (5)食事(続き)

 食事の付加価値を考える上で、料理提供のし方、提供時に添える言葉などの品質管理は欠かせない。これを合理的に行うため、弊社では以前から「お料理提供シート」というものの作成をお手伝いしている。様式はいたってシンプルで、左側に献立名(突出し、前菜など)と料理名や中身、中央の列にその料理写真、そして右側に添える言葉や提供時の留意点などを書き込んだものだ。A3サイズ縦1枚にまとめる。

 もともと、食事提供にあたる係に料理出しの要領を効率よく習得してもらうための「台本」のような目的で考案したものであり、サービストレーニングや接客現場での実用上、これは過不及ないサイズなのである。細かい字が読める人ならA4に縮小でもよいだろう。

 新しい献立に変わる際など、料理それぞれについては料理長から説明が行われたりするものの、全体としてどんな献立構成(=ストーリー)になっているかについては、とかく認識が薄い場合が多い。手前みそだが、これはそういう意味で、献立の全体像を総括的に捉えられる秀逸なフォームだと自負している。

 このシートの使い道はいくつかある。まず、今申し上げた「台本」―いわば小さなマニュアルとしての活用。またその前提として、季節ごとに変わる料理の提供方法に関する「型決め」―どのように提供するか? どんな言葉を添えるか?―の検討ツールとして有効だ。

そして今、もうひとつの用途がある。「料理の付加価値づくりのための検討ツール」とすることである。

 前回、食事提供の適切な速さを確保するために「間」をもたせる工夫や、グループ・団体の宴会復活に臨んで、料理や食事の価値を「守る」ためのアイデアをいくつか提案したが、まさにそういうことを考える時に、これの活用をお勧めしたい。

 まず、中央の列に打ち出そうとする料理の写真を並べ、左側に献立名、料理名などを一通り書き入れてみる。そしてここからが考えどころだ。提供効果を高めるために何か演出を加えられないか、完全な一品出しでないとすれば、どれとどれを同時に出すのが適切か、どんな順番で、どんな食べ方をしてもらうのがよいか、またそれを好印象として植え付けるためには、どんな説明を添えたらよいかなど、あれこれ検討してみるのだ。

 たかが一枚の「お料理提供シート」と侮るなかれ。何度も言うが、今は「これからどんな旅館にしていくのか」を選択する大きな岐路にある。そして高付加価値化が実現できるかどうかは、こういう一見小さなところでの工夫、こだわりにかかっているのである。

(リョケン代表取締役社長)    

 
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