【旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 183】新型コロナウイルスへの経営対応70 原理原則6 高付加価値化4 佐野洋一


 引き続き高付加価値化の方策について考えていく。

 (4)客室

 客室は旅館の宿泊において、おそらく大半の時間を過ごすことになる場所だ。旅館の受け取る代価の中でもかなり大きな割合を占める。だから本来、旅館が価値を高めようとするなら、客室には相応の力が注がれてしかるべきと思う。

 改装を行うことはもちろん効果的だし結構だ。だが一方で、もともとある客室が、ただなんとなく「こういう部屋です」というだけで放置されているケースがとても多いように思われる。客室というものを、建築と、せいぜいそこに置かれた家具ぐらいのイメージで捉えていないだろうか。そうではない。客室は、お客さまが大切な時間を過ごす場である。そのことに思いをはせながら、「商品」として価値を高めるためにどうするか?について、もっと深く追求してみることをお勧めしたい。

 特に大事にしたいのは、部屋に入った瞬間の第一印象である。玄関ロビーで旅館の印象が決まるのと同様、客室の印象は、この時だいたい決まる。だからここに、真剣勝負の立ち合いぐらいの気を込めてみよう。

 窓の景色は、可能な限り最高の状態で見せる。床の間のある部屋なら、床飾りにも繊細な表現をしたい。花はもちろん良いが、心を捉えるには、節句などの時季に応じた飾り物をするのが効果的である。なお、この演出はたとえ床の間がなくても可能だ。浴衣やアメニティのセットは、今のやり方以外に考えられないだろうか? 服入れの中とか洗面所などの「普通の場所」に「普通に置く」だけが能ではない。例えば浴衣や帯、羽織などは、畳の上にわざわざ緋毛氈(ひもうせん)を敷いて、そこにきれいに並べる、そのうえ和紙に包んで置くといったことをすれば、「あ、なんだかちょっと違う」と感じてもらえるはずだ。アメニティもただ置くだけでなく、そこに「わざわざ感」を伝える工夫があってよい。さらには、部屋の品格を高めるために衣桁(いこう)を配したり、夏場には畳にい草ござを敷くなどのしつらえでお客さまを迎えるところもある。

 部屋に入った後の工夫もいろいろと考えられよう。

 茶器や茶菓子、あるいはコーヒー、紅茶などのセットはどうか…「あればいい」ということで済ませず、一歩踏み込んで付加価値を添えることはできないか。館内のご案内帳は、思いを込めて構成すればそこにストーリーが描ける。宿の個性を伝え、旅館全体の価値を高められる可能性さえ秘めている。

 照明は今のままで良いだろうか? 和室ならあんどん、洋室ならフロアスタンドを一つ二つ置いてみるだけで、ムードがだいぶ変わるかもしれない。布団を敷く場合、その敷き方でワンランク上質の丁寧さを伝えたり、快適な就寝のための心遣いを枕元に表現することもできる。

 これらをひと言で言うなら、「心をこめたしつらえ」ということになる。ただこれらはもちろん、手間を省くという昨今の流れに逆行することになり、一概に「やるべき」とは言えない。ただ、およそ高い付加価値を実現している旅館では、こうした細やかな神経を行き届かせている。

 どちらを、またどの程度を選択するかは、自館の戦略に照らしてご判断いただきたい。

(リョケン代表取締役社長)  

 
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