付加価値というものの定義は必ずしも一律ではないが、旅館業ではおおざっぱに粗利益を付加価値と捉えて大きな間違いはない。従って「高付加価値化≒粗利益率を高めること」ということになる。
旅館業はもともと粗利益率の高い商売である。だが半面、粗利益の中から出ていくお金が多く、しかもその大半が固定費なので、しっかり粗利益を確保しておかなければ、たちまち赤字に陥ってしまう―こんなことを前回お伝えした。
ほとんどの人が「そんなこと、今さら言われなくても分かっている」と思うであろう。なるべく高い粗利を確保した方がいいのは当たり前だ。しかし「そうなるようにしているか?」となると、首をかしげるケースも多い。
(1)粗利益は費用をまかなう原資
粗利益(売上総利益)は「販売費・一般管理費」―言い換えれば、人件費と諸経費と減価償却費をまかなう原資となるものだ。さらに一般的には借り入れ金があるので、その金利もここからまかなうことになる(ちなみに、元金返済もそうだが、これは財務収支の範疇(はんちゅう)であり、まかなうべき費用に減価償却費を含めているので、一応これに見合う金額と仮定して除外する)。
そして至極当然のことだが、粗利益がこれら費用を上回れば黒字、下回れば赤字だ。そこで大づかみな捉え方として初めに意識していただきたいのは、今の粗利益がこれらの費用をまかなうに足るかどうか、ということだ。費用を低く抑える努力も当然やっていくべきことながら、そもそも粗利益が少なくてはどうにもならない。会社を維持し、また発展させるためにどれほどの粗利益が必要で、それをどのように確保していくのか? まずはそういう大局観を持つことが大切だ。それが「いかにして付加価値を高めるか」につながるからである。
(2)料金体系は泊食分離で
宿泊料金を「1泊2食付きいくら」とだけ定めている旅館が、いまだにかなり多く見られる。もちろん、素泊まりや、夕食なし・朝食付き料金の定めはあるだろう。ただ言いたいのは、宿泊料金は「室料」と「食事料金」に分けて、その組み合わせで設定するべき、ということだ。「どうせ1泊2食付き料金でいただくのだから、結局同じではないか」と思うかもしれないが、そうではない。
理由は三つある。
第一は、お客さまが納得のゆく合理的な料金にするためである。第二は、適正な原価管理を行う(裏返せば、食事料金に対する粗利益を適正に管理する)ためである。原価率を宿泊売り上げの総額に対して捉えるだけでは、シーズンや日によって変動する売り値に対して、いかなる原価率が適正なのか、また食事の提供がどれだけの生産性を上げているのかが分からない。
そして第三は、室料売り上げをしっかり確保するためである。室料には直接的な原価があまり伴っていないのでコスト意識が働きにくい。このため総額方式ではとかく「どんぶり勘定」となり、室料の確保がなおざりにされているケースが多い。だが宿泊業は、宿泊で稼ぐことが基本である。室料売り上げと食事売り上げを分けることで、それが意識される。値を引く場合も、食事料金から引くのか室料から引くのかを明確にする必要がある。
(リョケン代表取締役社長)