「『…頼みの経営』から抜け出す」ために掲げた七つの「原理原則」のうち、「市場開拓」「顧客確保」「品質向上」「情報集め」「人心の喚起」についてお伝えしてきた。ここから6番目のテーマ「高付加価値化―粗利益率を高める」について考えていきたい。具体的な方策の話に入る前に、今回はまず「高付加価値化とはどういうことか?」を確認しておきたいと思う。
2021年度から、いわゆる「高付加価値化補助金」という、観光庁としてはかつてない予算規模、しかも旅館をはじめとする宿泊施設を主な対象とした補助金事業が行われている。そのせいもあってか、「高付加価値化」という言葉が、旅館業界でもにわかにキーワードとなってきた。高付加価値化とは?…「付加価値を大きくする」ことである。だが、そもそも付加価値とは何か? まず荒っぽい結論を言えば、旅館業の場合、売上総利益すなわち粗利益≒付加価値と捉えて大きな間違いはない。
ただしここで少し遠回りにはなるが、正確を期する意味で一応ふれておく。テーマの大局とは筋が違うので、興味のない方は、ここから約1段を読み飛ばしていただいて構わない。
付加価値とは…一口に言えば「自社で上乗せした価値(額)」、つまり「売った価値(額)」と「もとの価値(額)」の差額である。「売った価値(額)」とは売上高なので分かりやすいが、やっかいなのは「もとの価値(額)」をどう見るかだ。これによって、付加価値額の算出方法は異なってくる。代表的なものに「日銀方式」(加算法)と「中小企業庁方式」(控除法)と呼ばれるもの、またそのほかにもいくつかの方式があり、どれに従って計算するかによって結果も変わってくるが、おそらく「中小企業庁方式」が分かりやすい。これによれば、「付加価値額=売上高-外部購入費」で示される。「外部購入費」とは何か?…業種により異なるが、旅館業なら「売上原価」「外注委託費」「リネン費」がこれに当たるだろう。また「送客手数料」「客用消耗品費(厳密にはこのうち割箸、アメニティといった原価的性質のもの)」などもその一部と捉えられる。つまり、売上高からこれらの費用を引いたものが付加価値だ。
とはいえ…(ここで話を戻す)大事なのは「高付加価値化を図る、推し進める」ということであって、付加価値額を精確に算定することが目的ではないので、単純に売上原価だけを外部購入費と見る、つまり売上総利益を付加価値額と見る、でも構わない。そのようなわけで、テーマは冒頭に書いた「高付加価値化―粗利益率を高める」となる。さらに根元のところまで話を戻すと、コロナ禍の中であろうとなかろうと、「『…頼みの経営』から抜け出す」ために取り組んでいくべき原理原則の一つがこれである。
旅館業はもともと粗利益率の高い商売だ。仕入れの金額に比べて、かなり大きな売り上げが入ってくる。だがそこが落とし穴で、裏返せばその分、粗利益の中から出ていくお金が多く、しかもその大半が固定費である。しっかり粗利益を確保しておかなければ、たちまち赤字に陥ってしまう。ではそうならないためにどんな点に着目し、どんな方策を取っていくべきか…次回以降で展開していきたい。
(リョケン代表取締役社長)