
オミクロン株による感染が広がり、世はまたしても先の見通せない状況となった。ようやくトンネルの出口が見えてきたところで、また次のトンネルが現れたようなものだが…いかなる状況下でも、客商売の原理原則は変わらない。
さて、繰り返し述べているが、お客さまを「顧客」として取り込むには、お客さまの「心」の取り込みを図ることだ。その方法として、(1)「…以外」のところで勝負する、(2)スキマ時間を生かす、という着眼点をこれまでお伝えした。
(3)接客に心を添える
サービスとホスピタリティは違う。サービスとは「役務の提供」であり、「仕事」の意味に近い。機械でできることもある。一方、ホスピタリティとは「もてなすこと」である。辞書には「歓待」「厚遇」といった訳も示されている。ホスピタリティの言葉には「親切な心、温かい気持ち」が含まれている。生きた人間にしか当てはまらない。
接客行為はこの二つにまたがっていると言えるが、業務的観点からは、ともするとサービスの面だけにとらわれている場合がある。ここに「心」を添えることを考えたい。
ただ、この「心」という言葉、気軽に使われているわりに漠然としている。これを接客行為に転化するためのカギは、次の二つだと筆者は考える。
一つは「ヒューマン(人間の、人間らしい)性」である。笑顔、気遣い、心配り、声がけ…人間が人間に対して、人間として放つこうしたストロークの効果をもう一度見直そう。
例えば料理の説明―「これは○○の○でございます」だけでは、サービスとして成り立っても心は感じられず、何の印象も残らない。しかしそこに「語り草」を添え、さらに提供者(=自分)の「思い」を伝えれば、同じ料理でもまったく違ったものになる。「私は大好きです!」。この一言がどれほど料理の価値を高めるか、またお客さまの心を自館に近づけることになるか、計り知れない。
キーワードのもう一つは「パーソナル(個人的)性」である。どのお客さまに対しても公平に行うサービスとは別に、「あなたに」してあげること、そして「私のためにわざわざ」してくれたと思ってもらえることはないか。
誕生日などのお祝いにケーキ―はよくある手だが、近ごろはファミレスでも似たようなことが行われている。「ここでは誕生日の客にはケーキを出すことになっている」ぐらいにしか思ってもらえないかもしれない。それよりも…例えばふたもの料理の中身に、その慶事にふさわしい、気の利いた「あしらい」をトッピングしてみるのはいかがだろうか。「当館の板長に伝えましたところ、作ってくれました」。
「パーソナル性」を添えるには、そのお客さまならではの情報を手掛かりにすることだ。「今日は何の日」といったこと以外にも、相談、困りごとなどがあれば、それはチャンスと言える。お体の不自由な方、帰りの交通、立ち寄るべき見どころやランチのお店、悪天候の際の不自由・不安、忘れ物・落とし物など…。
チャンスとして生かせるかどうかは人的余裕にもよるが、「そういう場合にどう対応するのがよいか」ということを、日ごろから話し合い、備えておくだけでも、全然違うはずだ。
(リョケン代表取締役社長)