
「何とか光が見えてきました。ウイルス騒動下の金融支援策はすべて導入しました。劣後ローンについても悩んだのですが限度いっぱいやりました。あとは何としても今期黒字化を実現するだけです」。全国で2千ルーム以上を運営する旧知の社長。1年半前の思いつめた姿はそこにはない。ぎりぎりのリスクマネジメントが功を奏した格好だ。
しかし巷(ちまた)では、過去を検証することのないウイルス騒ぎ、子供でも分かるお粗末な対応しかできない議員、有権者を無視した野党の合従連衡、取りあえずのバラマキ政策、などなど危機的状況との認識があるのか疑わしい対応が目立つ。喉元過ぎれば熱さを忘れるのが人の常ではあるが、生きていれば予想もしないことが起こるのが人生だとすれば危機管理について考えることは無駄ではない。特に経営者にとっては避けては通れないのだが、年末・年度末を目前に控え資金的側面において訪れる可能性のある危機にどれだけの経営者が準備をしているのか疑問を抱かざるを得ない。
危機管理とは「管理困難な状況(危機)を管理すること」なので容易ではない。気を付けていればいいというものでもない。
(1)「危機」の対義語が「安全」だとすると、観光事業者、なかでも旅館ホテル経営者にとって最も大切なことは「清潔」だ。自分の館、働く人の心を何より清潔に保つことが肝要だ。
(2)経営者自らの陣頭指揮。そのためには「人心と金の掌握」が必要だ。人事や資金繰り、銀行交渉は人任せなどありえない。
(3)「危機=リスク」だと仮定する。リスクの語源はラテン語のRISICOで「断崖絶壁の間を縫って航行する」という意味がある。現実を正面から見つめ周到な準備と勇気を持った行動が求められる。切り抜けた先には好機が訪れる。
パラダイムシフトと言われて久しくはあるが、前を向いて転換しなくてはならない現実がそこにある状況は続いている。自らゲームチェンジャーになるという思いが必要だ。
次に具体的な危機管理の方法を三つの段階に分けて考えてみる。
(1)「危機の想定」。危機の状況をさまざまかつ具体的に思い描くこと。次のウイルス禍はもちろん、火災、食中毒、労働問題、資金ショート、経営陣の不祥事など。
(2)「危機への準備・訓練」。真剣に真面目に行うこと。経営陣のみならず全従業員への周知徹底が必要だ(好例は命がけの訓練を行っている自衛官や消防士)。そのうえで、「想定・準備・訓練」を繰り返し行う。環境は常に変化するので柔軟な想定変更を忘れないように。
(3)「危機対応」。それでも危機は必ず起こる。その時には「拙速」を心掛けること。「巧遅」になっては元も子もないと心するべし。取り返しのつかない状況にだけは陥りたくない。
世間を見渡せば、身近なことから国家問題に至るまで「拙速」な対応ができなかったばかりに、無駄に傷口を広げてしまい取り返しのつかないことになってしまっていることのなんと多いことか。
気を付けましょう。スマホやパソコンの危機管理を怠ったばかりに人生の危機に直面してしまうこともありますので。
(EHS研究所会長)