【旅館はもっと良くなるべきだ 旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 122】新型コロナウイルスへの経営対応9 「もがく」が大切 リョケン代表取締役社長 佐野洋一


 先日、滋賀県彦根市にある「彦根キャッスル リゾート&スパ」さんをお訪ねした。その際休業中や営業再開後にやってこられた対策などについて、一圓社長さまはじめ幹部の皆さんからお聞かせいただいた。素晴らしいと思ったので、お許しを得てご紹介したい。

 まずテイクアウト。4月中ごろから休業に入ったが、使う当てのなくなった食材を一掃するため、テイクアウトのランチ(弁当)販売を開始した。「近江牛そぼろ丼」640円(税込み)から「牛ロースカツサンド」1200円まで9品目。在庫を使いきることが目的なので、リーズナブルな価格設定で「売り切れご免」で始めたが、好評だったため、途中でメニューを追加して、5月31日まで販売した。多い日には160食売れたという。

 またこれと合わせて、自家製キーマ風カレールーとハヤシソースの「鍋売り」も行った。お客さまに鍋を持参してもらい、レードル1杯(2人前)300円という格安! ホテルの玄関前にテントを特設して、車で通りがかりの人が気軽に買えるようにした。まさにドライブスルーである。この時点で累計1300食売れているとのことであった。

 いずれも調理人が表に出て販売することで、彼らのモチベーションが大いに上がったそうだ。これまで客前に出ることをためらっていた若い板前さんなども、「売る喜び」に触れて心のバリケードがすっかり取り払われたという。

 6月からは、テイクアウトと入れ替えに、「まごころのお届け おもてなし折膳」と題してデリバリー(仕出し)を始めた。これまで仕出しはやってこなかったが、コロナを機に始めたとのこと。大人向けメニューとしては、1350円から3500円までの6品目。お届け距離圏を2区分し、それぞれ一定額以上の注文で無料配達を行う。

 運営面では、感染防止対策も一通りのことが行われているが、それだけではない。収束後にも有効な対策が着々と進められている。

 幹部をはじめ社員が、客室や大浴場など館内外の清掃や消毒作業を「パートさんに教わって」スキル習得し、やっている。その結果、誰でも常に対応できるようになった。また、レストランや宴会のサービスに配膳スタッフを入れず、基本的に他部署社員の応援でまかなえる態勢を整えた。

 厨房(ちゅうぼう)はこれまで、宴会などのため比較的広く構えていたが、動き回る無駄を省くため、総料理長の発案によりリサイズした。熱器具などの中枢機能をコンパクトなエリアに集約して、効率よく作業ができる。

 フロントカウンターには飛沫(ひまつ)防護スクリーンが立てられているが、そのフレームは内装に合わせた色調で仕上げられて上品だ。聞くと、これも大工仕事の得意な社員の手製だという。

 テイクアウトやデリバリーは、都市型立地だからこそ打てた対策とも言えるが、一方では総菜などのネット通販を始めたところもある。いずれも本来の売り上げとは比較にならないだろう。しかしそれでも、思考力と行動力をふり絞るかどうか、この違いは大きい。今この条件下でやれることを考え、諦めずに「もがく」ことが、またとない社員結束の機会となり、強い経営体質につながることを確信した次第である。

 (株式会社リョケン代表取締役社長) 

 
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