【旅館はもっと良くなるべきだ 旅館経営 タテ・ヨコ・ナナメ 121】新型コロナウイルスへの経営対応8 今取るべき販売政策 リョケン代表取締役社長 佐野洋一


 前回は「運営のシフトチェンジ」ということについてお伝えした。今回は販売政策のポイントを述べたい。やはり、しばらくは以前のような売り上げが見込めないという想定のもとに考える。

 (1)安売りに走らない

 地を這(は)うような業績低迷の中で、少しでも売り上げを確保したいのはやまやまだが、だからといって、やみくもな低価格販売に走るのは踏みとどまるよう進言したい。ビジネス利用は別だが、観光に軸足を置くリゾート旅館では、安くしたからといって集客が見込めるとは限らない。それでなくても低稼働でコスト率はアップするのだから、安く売っていたら利益確保はおろか、営業するだけ赤字を生むことにもなりかねない。また1度下げた価格を元に戻すには多大なエネルギーを要する。さらに、低価格での利用客が、通常価格に戻したときに顧客として定着する可能性は低いと思ってよい。

 幸い、国では「Go Toトラベル」キャンペーンが計画されており、自治体によっては、すでにその先取りとなる企画も実施されている。「割安感」による需要喚起はそこに委ねてはどうだろうか。

 (2)今こそ直販を

 今や旅行会社やネット予約サイトなども売り上げの確保に躍起であり、そのための対策に余念がない。需要の回復をにらんで、「売れやすい日」から客室の押さえや特集企画の参画募集にかかってくる。安易に飛びつくと、気付いたら売りやすい日、高く売れる日ほど、手数料のかかる売り上げで満たされてしまうことになるので注意いただきたい。

 今こそ直販(=自館の顧客)を取り戻すことを考えよう。予約の出足に伸びが見られる時期や日は、極力直販先行で埋めていくハンドリングを。また今こそ、顧客リストを最大限に活用する時である。

 (3)利用目的別アプローチ

 これまで大づかみに見ていた利用目的に虫眼鏡を当てて、もう少し細かく捉えてみよう。「宴会」「観光」といった単純な仕分けでなく、「子供の進学祝い」「夫から妻へのねぎらい旅行」「久しぶりの3世代旅行」というふうに。そして顧客リストをもとに、ターゲット別にDMを作って呼び込む作戦を展開してはどうか。その際、自館がどんな価値を提供できるのか、ターゲットごとにセールスポイントを変えてみよう。商品要素はそのままでも、表現によってはツボを突くことができる。例えば同じ風呂でも、相手によっては、到着直後、夜、早朝、出発前の入浴で「1泊4度の温泉三昧(ざんまい)」というようなアピールもあり得よう。

 (4)企画商品を増やさない

 十分な売り上げが見込めない中では、なるべくシンプルな運営で切り回していく必要がある。ついては集客を急ぐあまり、いたずらに企画商品のバリエーションを増やすことのないよう留意いただきたい。料理献立数などは、むしろこの機に思い切って絞ることをお薦めする。

 どこの旅館にも連泊客があると思うが、1組か2組の連泊客のために料理オペレーションを複雑にする無理もできれば避けたい。周辺にしかるべき飲食店があれば、そこでの食事、あるいは仕出し、出前を組み込む滞在スタイルの提案も検討しよう。新しい滞在型商品の開発にもつながるかもしれない。

(株式会社リョケン代表取締役社長)

 
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