【旅に出よう~温泉はにっぽんの宝~82】アメリカの観光プロモーション 山崎まゆみ


 6月にアメリカのコロラド州で温泉巡りをしました。ロッキー山脈、通称“アメリカンロッキー”の裾野にまで点在する数々の温泉地は、どこを訪ねても息をのむ絶景がありました。“ビッグでワイルド”、それ以外に適した言葉が見つからないほど、野趣あふれる環境でしたが、その実、練られた戦略で温泉リゾートを経営していました。

 マウントプリンストンも、アメリカンロッキー山系のひとつで、その山の中腹、標高3千メートルに750エーカーを保有する巨大リゾート・マウントプリンストンホテルがあります。ホテルの収容人数は250人。キャビンは32室もあります。宿泊料金は1泊150ドルから、キャビンは320ドルからという価格帯。美しい山々を眺める宴会棟では、ガーデン結婚式も行われています。

 訪ねた日、夕食をご一緒したのはホテルオーナーではなく、戦略広報官のような立場の男性のスコット氏でした。郡の広報も兼ねており、通常は自宅で仕事をしています。スコット氏は、「お客さまの80%はコロラド州から、20%が外国人観光客です。ウェブ予約からのお客さまの属性や趣味嗜好を調査し、それに基づきメールでの販促をしている。メールでの販促ならお金もかからない。集客は伸びています」と自信に満ちた表情で語られていました。実際、私が宿泊した日も満室。これから150室の新規ホテルを作るのだと言っていました。そう、マーケティングのプロなのです。

 コロラドでは4カ所の温泉を取材しました。それぞれ取材窓口は町や温泉ホテルの広報担当でしたが、そのほとんどは外部委託されていました。外部委託により、地元人間関係のしがらみもない。「前年度、先月のお客さまデータで次の策を講じる」という話をたびたび耳にしました。

 アメリカが本格的に観光プロモーションに力を入れ始めてからさほど日はたっていません。インバウンドによる経済成長や雇用促進のために、2010年に「ブランドUSA」が設立されました。その背景には、9・11以降、外国人旅行者が激減したことを境に、観光業を国の産業にという目標を掲げたことがあります。プロモーションにかける財源は、旅行業界からのお金とESTA料金から。アメリカ入国にあたり14ドルのESTA料金を払いますが、10ドルがブランドUSAの資金にあてられます。入国したお客さんからのお金をプロモーションに回すというストレートな方針。総花的な考え方を捨てられ、外部のマーケティングを入れ、徹底した市場調査により、戦略的な観光プロモーションを行っていました。

   (温泉エッセイスト)

 
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