先日、「ピンクリボンのお宿ネットワーク」主催のシンポジウム(会場・佐賀県嬉野温泉)に参加してきました。この「ピンクリボンの宿ネット」は、乳がんを患い、手術を受けて回復の道を歩みながらも、術後の傷痕を気にして旅を諦めてしまっている方に、もう一度、気兼ねなく、旅館での入浴を楽しんでもらいたいという目的があります。
シンポジウムでさまざまな取り組みを知りましたのでご紹介します。
和倉温泉の加賀屋さんでは、薄い紫色のシルクのショールが脱衣所に置かれてあり、傷痕を覆えるようにしているそうです。そのショールはマフラーほどの大きさで、軽く、さらりとした肌触り。きっと水に濡れても重たくならずに、浴場で羽織ることも苦にならないのだと思います。それにさほど目立たないように、肌の色に近い色というのも素敵な配慮です。
大会に参加された女将の中には、ご自身も乳がんを患った経験から取り組んでいる方もいました。長野渋温泉湯本館の女将の湯本英里さんは10年前に乳がんが発覚し、手術の後、自宅である湯本館に戻りました。その翌日から温泉に入り始めたそうです。
手術で胸や肩が突っ張る感覚が残るためにリハビリが必要と医師に告げられたそうですが、毎日温泉に入り、腕を回しているうちに、突っ張り感がなくなり、リハビリをすることもなかったそうです。もちろん、復調までは個人差がありますが、女将は自身の経験から、現在は、毎月の第3金曜日はピンクリボンのお客さんだけで貸し切りにしています。
「傷痕がある女性も、同じ傷痕がある女性同士なら温泉も入りやすいし、パートナー同士も話をするきっかけになりますからね」という理由からでした。また、1泊2食9千円の「ピンクリボンプラン」も大人気。館内に、女将の経験談が掲示されてあり、それを見たお客さんが、チェックアウトの時に話しかけてくれるとのことでした。「私は話を聞いてあげることはできるけれど、とにかく、まずは温泉に入ってほしいですね」。
私がこれらの取り組みを取材するきっかけも、自身の経験にあります。2016年に子宮内膜症の手術をして、術後、湯治をした時に、温泉は傷を治癒させる効果以上に、心も癒やすものであるということを実感したからです。自宅療養をしていても、傷痕が治るか不安。そんな中で同じ傷を持つ湯治客との会話に救われた思いでした。また湯治宿のご主人や女将も話を聞いてくださり、いわば私にとって“第2の主治医”だったのです。
女性特有の病気はとてもデリケートです。目に見える傷以上に、心の傷も大きい。失ってしまったモノが大きければ大きいほど、その傷を癒やし、穴を埋めてくれるかのように寄り添ってくれるのが温泉です。
(温泉エッセイスト)