【新春総支配人座談会】ハイアットリージェンシー東京 × ホテルメトロポリタン × セルリアンタワー東急ホテル


コロナに学び「新境地」へ

 順調なインバウンド拡大と東京五輪開催への期待でわが世の春を謳歌(おうか)していた東京都内の総合シティホテル。2020年は、年初からのコロナ禍で状況が一転。深刻な打撃を受けた。ハイアットリージェンシー東京・常務取締役総支配人の稲葉雅之氏ホテルメトロポリタン・取締役総支配人の杉山起良氏セルリアンタワー東急ホテル・執行役員総支配人の八木進午氏の3人に、20年の振り返り、21年以降のアフターコロナ戦略などについて語り合っていただいた。座談会のファシリテーターは、立教大学観光研究所特任研究員の玉井和博氏。総合司会は観光経済新聞社企画推進部長の江口英一。(11月26日・東京都渋谷区のセルリアンタワー東急ホテルで)

 

コロナ下の集客、運営

 玉井 2020年はどのような年だったか。

 

ファシリテーター 立教大学観光研究所 特任研究員 玉井和博氏

 

 稲葉 2020年の話をする前にその前年の話をすると、ラグビーワールドカップで予想以上の集客があり、即位の礼では都内に海外の賓客の方々が宿泊するなど、2019年はいい1年だった。さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて勢いをつけようと、好調が続いていた。ところが2020年に入ると、1月末から新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた。年明け早々の時期はまさかここまでの大事になるとは想像もしなかった。しかし実際には感染の拡大は止まらず、状況は日々深刻さを増していった。

ハイアットリージェンシー東京 常務取締役総支配人 稲葉雅之

 

 杉山 2020年は1月から6月までひどい状況が続いた。2月に関してはまだ欧米からのインバウンドが動いていたが、宿泊客が激減したのは全てのインバウンドが止まった3月からだ。国内需要についても同じような動きが見られた。宴会についても3月の歓送迎会、謝恩会が軒並みキャンセルになり、そこから状況は悪化していった。宿泊が動きだしたのはGo Toトラベルが東京で始まってからだ。

ホテルメトロポリタン 取締役総支配人 杉山起良氏

 

 八木 セルリアンタワー東急ホテルが立地する渋谷の街は、100年に一度の再開発が一段落した時点でコロナ禍に見舞われた。東急グループ全体として大きな痛手を受けている中で、ホテルも苦しみながら営業しているというのが2020年の状況だった。

セルリアンタワー東急ホテル 執行役員総支配人 八木進午氏

 

 稲葉 当社にとっての2020年はオリンピックと同時に、開業40周年という節目の年でもあった。さまざまなイベントも計画していたが、到底実施できる状況ではなくなってしまった。もともと外国人比率が80%前後のホテルなので、海外マーケットが閉じると同時に宿泊客がほぼいなくなるという事態に陥った。その後は営業時間の短縮、社内の衛生管理などの業務に追われた。

 杉山 4月11日から帰国者の一時待機とそのルームサービスのみの営業で、基本的にクローズしていた。緊急事態宣言後にレストランをランチのみ開けた初日は席数を減らした上だが満席になった。地元の期待値が非常に高いことをあらためて実感し、地元の人々にしっかりと料理を提供することがいかに重要なのか再確認できた。レストランは9月にはランチ、ディナーとも売り上げが戻り始めた。

 八木 全体的に業績が厳しかったことは言うまでもないが、最も心配していた婚礼は4月から6月までの3カ月間で1件だけだった。コロナ発生後に受注した披露宴の1件当たりの平均人数は11人。コロナ以前は平均70人で、ここまで落ちてしまうのかと愕然(がくぜん)とした。人数が少なくても同じように手間は掛かるし、料金も割引せざるを得ない。今後の婚礼についてどうしていけばいいのか分からない状況は今も続いている。

 稲葉 新入社員をどのように迎えればいいのかという大きな問題もあった。4月1日に入社式を開催できる状況ではなかったので、6月まで延期して、それまでの期間は通信教育等を実施した。基本的にホテルの仕事はフェイス・トゥ・フェイスの業務が多かったが、採用活動や社内会議がいきなりオンラインになったことに戸惑った。採用活動もすっかり様変わりし、応募者側も大変苦労していた。

 八木 私が最も気になったのは新入社員のことで、この状況において彼らをどう育てていけばいいのか、そのことばかり考えていた。緊急事態宣言とともにホテルにリブインして、夜はスタッフたちとさまざまな話をした。いろいろなことを教わったいい時期だったとポジティブに捉えることにしている。6月1日に新入社員を呼び戻して入社式を実施したが、そのときの彼らの安堵(あんど)の表情を私は一生忘れることができないだろう。「ウェルカムバック」という気持ちが心から湧いて、ホテルはやはり人で成り立っているのだと実感できた。

 杉山 婚礼については大半が9月以降に延期となった。8月までで4件だったが、9月、10月と10件ほど挙式があり、11月は19件で2020年の月間最多件数となった。挙式する/挙式しないの判断は新郎新婦次第で、考え方は個々で明確に分かれる。基本的には少人数の家族婚が多いが、100名以上の婚礼も若干だが始まっている。ホテルメトロポリタンのチェーン力を生かし、地方と東京の両会場をつなぐリモート挙式を実行したケースもある。テーブルごとにタブレット端末を置き、バーチャルでチャペルを体感していただくなど新しい形を提案できた。

 八木 宿泊については2020年4月以降で最も稼働率が高かったのは11月で、約34%となっている。レストランは好調に推移していて、ランチは前年を上回る月もあった。ホテルのレストランは安全・安心だという人々の意識の表れだと思うし、そう感じてもらえるのは東急を親会社とするメリットでもあるだろう。

 稲葉 2020年の業績は、全体で前年比80%前後の減少で推移した。緊急事態宣言下では、稼働率が10%前後という日が続き、宴会は3月あたりから影響が大きくなり始め、4月以降は一部を除き大型宴会はほとんどなくなった。ハイアットリージェンシー東京が立地する新宿地区は「夜の街報道」の影響もあってか戻りが遅く、他のエリアに比べて苦戦している。レストランについてはディナーと法人需要が激減している。ただしランチに関しては秋以降、ファミリー層や主婦層が動きだし、特に土曜日、日曜日はソーシャルディスタンス確保のため席数を減らしているものの、満席になる日も多い。ホテルということで安心感を持っていただけているのかもしれない。

 杉山 コロナ感染対策については、1月31日に日本ホテル本社に対策本部が立ち上げられた。親会社のJR東日本からマスクを提供してもらい、サービススタッフに一定量を配布した。3月からは在宅勤務と自宅待機が始まった。基本、本社営業部のスタッフは在宅勤務とし、インバウンドチーム1名と国内チーム1名の計2名だけが出社という形が続いた。

 稲葉 ハイアット本部からの指示で、感染症予防対策で国際的な衛生基準を満たした施設であることを証明する「ジーバック・スター・ファシリティ・アクレディテーション(GBAC STAR認証)」を取得した。膨大な英文資料が届き、その対応に大変苦労した。

 

GoToトラベル事業

 玉井 Go Toキャンペーンをどのように捉えているか。

 杉山 2020年9月にグロスのレベニューをしっかり取っていく方向性にシフトチェンジして、価格の制限は付けずにとにかくレベニューを上げてほしいという指示を出した。そこから価格は心配になるほど下落したが、その分稼働は戻り始めた。10月に東京でGo Toトラベルが始まらなければ、ここまでの復調はなかっただろう。10月、11月ともに宿泊に占めるGo Toトラベルの割合は90%以上になっているので、このキャンペーンがなければ今の稼働率に届かなかったのは間違いない。10月1日の解禁から一定量で宿泊の稼働率が上がったことは、本当にありがたかった。

 八木 Go Toトラベルがなかったら、もっと大変なことになっていたとは思うが、その一方で休前日と平日の格差に問題意識を持っている。日曜日から木曜日は宿泊がほとんど動かず、金曜日、土曜日で稼働が上がるのは、シティホテルがリゾート化しているからだと思う。週に2日だけ稼働が一気に上がると、清掃係の人数も制限している今の現場は混乱の中で動くことになる。セルリアンタワー東急ホテルのような408室のホテルでも、金曜日が50%、土曜日が70%という稼働率になると、平日との格差によって運営が大変になってしまうのだ。

 稲葉 Go Toトラベルは非常に効果があり、キャンペーンがなければさらに厳しい状況に陥っていた。課題としては「分かりやすい制度設計」が挙げられる。ホテル側から見てもそうした部分があるし、利用客からするとさらに複雑だろう。そのためチェックイン時間が掛かるようになった。検温や本人確認に加え、Go Toトラベルの説明もしなければならず、現場には大きな負担となっている。

 杉山 地域共通クーポンについてあえて意見を言わせてもらうならば、電子クーポンの確認を最後まで取れたのか分かりづらい、エージェントで申し込んだ人が電子クーポンだけ手に入れて実際には泊まりに来ないといったパターンが散見された。そうした悩みはあったものの、ホテルメトロポリタンで出した地域共通クーポンの60%が館内で使われ、そのうちの90%がレストランで使用されていることを考えると、FB(料飲部門)に対するGo Toトラベルの貢献度も非常に高いと思う。

 八木 Go Toトラベルを通じて、東京と地方の格差をより意識することになった。地方を旅行しても地域共通クーポンを使えるところは少なく、土産物店以外はコンビニやガソリンスタンドで使うしかない。電子クーポンについては東京と地方のIT格差を埋めない限り、地方が潤うところまで至らないのではないか。結局、勝ち組と負け組が明確に分かれる気がする。また、Go Toイートのクーポン販売初日には、セルリアンタワー東急ホテルのフロントでは200人ほど並んでしまい、しかも24時間受け付けということで現場は混乱した。ただ、私も家族旅行に使ってみたが、ホテルのチェックイン時にクーポンがあることで「何に使おう」とわくわくした気持ちになった。課題はあるものの、Go Toキャンペーン自体はとてもいい考え方だと思う。

 稲葉 Go Toキャンペーンのメリットを享受できる人とできない人の間の不公平感が透けて見えるのも確かだ。一方、来館する客層に変化がみられ、今まで少なかったファミリー層も入ってきてくれるようになった。もちろん新しい客層が来館してくれることは、私たちにとって大きなチャンスでもある。Go Toトラベルがもたらした大きな変化をホテルがどのようにキャッチして、新しい顧客づくりにつなげるかが今後の課題だろう。

 杉山 Go Toトラベルから東京が再び除外となれば、2020年8月、9月のレベルまで数字が戻ってしまうと思うのでキャンペーンの延長はありがたい。Go Toイートの食事券も販売しているが、1500枚のうち80%程度を販売できている。レストランはランチ、ディナーともに10月には80%以上戻ってきている。席数を減らしているので、2019年よりもテーブルが回転しているのは間違いない。今のところランチ、ディナーは問題ない状況になっていると見ている。一方でGo Toトラベルの終了後に反動による大きな衝撃に襲われる覚悟をしておかなければならない。

 

アフターコロナの戦略

 玉井 アフターコロナの戦略をどのように考えるか。

 八木 ホテルはPCR検査をイベントに活用する方法を考えていくべきだと思う。例えば数百人規模のディナーショーの場合、その参加条件として「PCR検査の陰性」を加えてチケットを販売する仕組みを構築する必要があるのではないか。そのような取り組みを推進しない限り、多人数を集めるというホテルの文化は滅びると思う。それができるパートナーを探している。

 また、アフターコロナに向けて、オンラインセールスをしっかりと磨いておくべきだ。非常事態宣言が出ても、メールは世界中に送ることができる。コロナ禍だからこそ、海外に向けて渋谷や日本の状況を発信するように私はスタッフに伝えてきた。ポジティブ、ネガティブ含めて今できる的確な情報発信が、いつか花開くと信じて取り組むしかない。

 稲葉 当社は小田急グループの傘下にあるが、鉄道会社は観光やサービスを主体に事業展開しているため、人の移動が制限されるコロナ禍は、グループ全体の危機であるという意識を持っている。その中で今後のホテルの役割は従来とは違った形へと変化するのだろう。

 杉山 2020年のノーベル賞の受賞パーティーが中止になったとき、「世界的にまずいことになった」とまず思った。「宴会をやらなくても、1年間普通にやれた」と感じている企業はたくさんあるだろう。「この宴会は必要なかった」と判断する経営トップが出てくるかもしれず、ホテルビジネスにとって逆風であることは言うまでもない。現状を打破するためにも、日本ホテル協会が春季総会を開催することに期待したいと私は考えている。コロナ禍でもしっかりと対策すれば安全・安心な宴会ができることをホテル業界が率先して宣言しない限り、一歩前に踏み出すことはできないだろう。

 稲葉 宴会をやめても1年間問題なくビジネスをまわせたという企業の経験に対して、大きな危機感を持っている。アフターコロナの世界で宴会をやらないことがスタンダードになる可能性を考えると大宴会場をどのように活用していくのかは重要な課題になると思う。

 八木 コロナ禍にあっても渋谷ではさまざまな店舗が生まれたり、消えていったりを繰り返しながら新陳代謝している。私たちのホテルが立地する渋谷の街の魅力とは何なのか、あらためて考えさせられた。東急は渋谷を売り込む活動を推進している。具体的には2019年に立ち上げた一般社団法人渋谷MICE協会を通じて、インキュベーター事業におけるモデル事業や東京ビジネスイベンツ推進エリアとして認めてもらった。コロナ以前から「ホテルがもうけるのではなく、渋谷でもうけよう」という基本姿勢で渋谷に拠点を持つ各企業と情報交換してきたことは、今こそ役に立っている。

 杉山 これからの時代は人々が安全・安心を第一に求める傾向が加速するのは間違いなく、アフターコロナ戦略ではその部分を強く訴求する必要がある。コロナの発生直後はホテルがアクリル板を置くのはどうかという風潮だったが、私たちはその後アクリル板の設置をスタンダードにして、ゲストに「必要ない」と言われたら外すスタイルに変更した。マスクを外して会話をするゲストを止めることはできないが、ホテルとしては対策をしっかり講じて臨んでいく。クラスターが発生すればホテルが被る打撃は計り知れないほど大きいと思うが、できる準備は全てやって、後はゲスト次第というところに懸けるしかないと考えている。ゲストから「ホテルは対策を講じていなかった」と指摘される場面をなくさなければならない。

 八木 渋谷でビジネスを展開する企業や人は、総じて「渋谷LOVE」が強い。こんな街は他にないと、渋谷に誇りを持ちながら仕事をしている。1回の青信号で多い時は3千人の人々が行き来するスクランブル交差点は日本最大の観光地だと思う。早期に以前のようなにぎわいを取り戻していきたいと願っている。そのためにも今一度足もとを見直すことが大切で、ホテルに転じて言えば、顔が見える顧客や東急グループ各社に向けてしっかりとアクセスすることが最善策だと考える。

 杉山 ホテルメトロポリタンは3千平方メートル以上の建物なので、建築基準法から言っても常に適切な換気の状態が保たれている。そういった情報を分かりやすく伝えられる方法も模索している。そしてホテルは地域の人々にとっての憩いの場であることを訴求していくべきだろう。「安全・安心」「憩い」について考えを巡らせて、最終的に「集う」ための形をどのように構築するかがアフターコロナに向けた宴会ビジネスのポイントになると思う。

 玉井 やらなければならない喫緊の課題についてどう考えるか。

 稲葉 ホテルとして生き残るためには、さらに経営効率を上げていくことが必要だ。収入が大きく落ち込み、回復の見込みも短期的には立たない中で、これまでのビジネスモデルをそのまま踏襲継続していくことは難しい。その一方でインバウンドの受け入れができるようになったときに、即座に対応できる体制を整えておくことにも取り組まなければならない。

 杉山 2021年度の黒字化は会社の命題になる。2020年度下期はそのための準備期間であり、「仕事」「作業」「無駄」の三つに業務を分類し、「仕事」の部分を増やし、「無駄」の部分を止めるという仕分けに入っている。地方のホテルやリゾートホテルで当たり前に行われているマルチジョブやマルチタスクといった仕組みをシティホテルで構築するのは難しいが、今回はチャレンジすることにした。現在は部門の数が多いと感じているので整理した上で、業務を見直すことができればスリム化できると考えている。部門ごとの論理で話をしていては改革できない。私は今、約450名の社員のシフトを見直す作業を進めている。全てのシフトを俯瞰してみてスリム化できないか徹底的に見直してみたい。スリム化されたシフトを4月にはスタートさせる必要がある。

 八木 コロナによって崩されたマーケットで、一つのホテルだけが爆発的にもうかることはもうないだろう。複数のホテルがアライアンスを組んで事に当たらなければ危機を乗り越えられないのではないか。従来の常識を壊さない限り、ホテル業界に将来はないと思う。2020年は本当に苦しい経験をしたが、「コロナに学ぶ」という姿勢を持つ必要もあると思っている。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」にならないように、コロナに学んだことをしっかりと胸に刻み続けたい。私たちがホテルビジネスに携わっている間におそらくもう一度、別の形でクライシスは起こるだろう。そのときにうまく立ちまわれるように、IT化、地方格差の是正など先送りにしてきた問題を解決するための準備を進めておくべきだと考えている。

 玉井 首都圏の総合シティホテルは観光、ビジネス両面において日本のショーケースである東京を、世界に発信する核として新たな複合価値の創造を大いに期待する

 

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