【新春特別インタビュー】旅館業を振興、次世代に継承 日本旅館協会 北原茂樹会長に聞く

  • 2019年1月10日

北原会長

外国人材の活用へ準備 受け入れ環境が重要に

 2018年は、住宅宿泊事業法の施行による民泊のスタート、観光需要に大きな影響をもたらした自然災害の多発、人手不足に伴う外国人材の就労拡大に向けた法改正など、旅館・ホテル業界にとって大きな動き、出来事が多い年ではなかったか。新しい年、19年に引き続いて対応を求められているテーマも少なくない。旅館・ホテル業界の現状や課題、今後の展望について日本旅館協会の北原茂樹会長(京都市・旅館こうろ)に考えを聞いた。【聞き手・向野悟】

 ――外国人材の就労を拡大する新たな在留資格「特定技能」の創設を盛り込んだ改正出入国管理法が臨時国会で18年12月8日に成立した。

 北原 宿泊業界はこれまで外国人材の雇用について専門的・技術的分野の在留資格を活用してきた。ただ、いわゆる「通訳」などとしての就労であり、任せられる業務は限られていた。現在、地方の旅館・ホテルでは、深刻な人手不足によりシフトが組めず、部屋が空いているのにお客さまをお迎えできないといった機会損失も生じている。こうした状況を踏まえ、従来よりも幅広い業務を担う現場の即戦力として、外国人材活用の道が開かれたことは大変ありがたい。宿泊業を受け入れ業種の一つとして検討する政府の動きに合わせて、全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)、日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟と連携して準備を進めている。

 ――新たな在留資格の取得に必要とされる外国人向けの試験を実施するため、宿泊業4団体で「一般社団法人宿泊業技能試験センター」を18年9月に設立した。

 北原 4団体それぞれの考え方があったが、その中でも共通していたのが人材の確保が重要な課題であり、外国人の力を借りる必要があるということ。4団体で構成する宿泊業外国人労働者雇用促進協議会では、観光庁にもアドバイザーとして参加してもらいながら議論を重ね、技能試験センターの設立に至った。センターは新たな在留資格のための試験実施に関連した業務を担う。また、技能実習生の受け入れに向けて「技能実習2号」移行対象職種への宿泊業の認定申請を進めており、こちらに必要な試験についてもセンターが担当する。

 ――外国人材の就労受け入れについては、労働環境や制度上の問題などさまざまな課題が指摘されている。

 北原 政府も具体的な方針、施策を打ち出すと思うが、宿泊業界としてもしっかりとした受け入れ環境を整備しなければならない。もちろん外国人労働者の雇用について、最終的な決定権を持つのは旅館・ホテル個々の経営者だが、雇うからには賃金などは日本人の従業員と同等として扱わなければならず、安価な労働力の確保という捉え方ではいけない。万が一、賃金や雇用環境などで問題が起きれば、宿泊業界のイメージが傷付いたり、国際問題にも及びかねない。協会としても制度の趣旨を業界全体に周知していく。

 同時に外国人労働者の受け入れは、職場だけでなく、地域を含めた環境が重要だ。旅館・ホテルの従業員というのは、地域の方々と接する機会が多い。地域の祭りや行事に従業員の参加を依頼されることもある。そうした場に外国人労働者を参加させることで、地域になじみ、地域の方々にも安心して受け入れてもらえる。旅館・ホテルが地元の信頼を得て、地域を挙げて外国人労働者を受け入れられるようにしたい。

 ――宿泊業の現場で外国人材に期待することは。

 北原 法改正の国会審議では、宿泊業のベッドメーキングや料理の配膳などが技能にあたるのか、といった議論もあったようだが、ベッドメーキング、配膳などの業務は、誰でもできるといえばできるが、お客さまに満足してもらうには相当な技能が必要だ。いずれもクレームが出やすく、旅館・ホテルの中では重要な業務だ。もちろんフロント、接客、マーケティングなどに外国人スタッフが入ることで、旅館・ホテルのインバウンドへの対応が向上することも考えられる。従業員教育を充実させ、外国人労働者にプライドを持って働いてもらえるようにしたい。日本の旅館・ホテルで働きたいという外国人が増えるのはいいことだ。宿泊業だけでなく、介護などの分野にも外国人労働者が入ってくる時代になり、外国人が働く光景は日常的になる。訪日3千万人時代を迎え、旅行者だけでなく、一定の制度の枠組みの中とはいえ、外国人とともに暮らしていく時代が来ている。将来、さまざまな形で外国人と共存共栄していけるようにすることは、平和産業である観光産業の使命とも言える。

 ――18年を振り返ると、自然災害の多い年だった。

 北原 自然災害については、今後もこうした災害が発生するという前提の上で、リスクを最小限に抑えるための備えを充実させるしかない。過去の災害の経験を業界全体で共有し、旅行者の安心安全の確保にさらに力を入れる必要がある。災害復旧に続く観光の復興に関しては、協会としても政府や国会議員への陳情を行い、西日本豪雨、北海道胆振東部地震に際して政府が「ふっこう割」などの施策を迅速に打ち出してくれた。地域にとって観光が重要な産業となる流れの中で、観光によって地域の復興を支援するという認識が社会に定着しつつある。

 ――18年6月には民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行された。

 北原 政府が実質2%の経済成長を目指す中で、遊休資産をどう活用するかは確かに課題の一つだ。全国には820万戸といわれる空き家があり、市場の注目も不動産投資に集まっている。こうした状況下で、こぞって民泊に走る流れが出てきている。国際交流などを目的としたホームステイや地域活性化のための民泊はほんの一部で、投資やサイドビジネスがほとんどだろう。とはいえ、民泊新法ができ、一定のルールがかかったことは良かった。観光庁も仲介業者に違反物件の削除を指導するなど、プラットフォーマーもいい加減なことはできなくなってきた。施行から半年で1万件を超える民泊の届け出があったが、法律の下で適正に運用されているか、引き続き注視していく必要がある。

 ――改正旅館業法も施行された。営業軒数では簡易宿所の増加も目立つ。日本旅館協会にとって19年の課題の一つに会員資格の改定がある。

 北原 改正旅館業法で旅館とホテルの営業種別が「旅館・ホテル営業」に統合され、最低客室数の規定が撤廃された。他にも設備構造の基準が緩和された。その中で会員資格をどうするか。国際観光ホテル整備法の趣旨などを踏まえながら、外国人旅行者の受け入れや観光立国の推進に寄与する経営姿勢、一定の基準を満たす施設については、協会員として迎え入れる方向で議論を進めている。一定の条件を満たす簡易宿所の入会を認めるか否かを含めて理事会、総会で審議していく。会員資格についての議論は、将来の旅館・ホテルの社会的立場を考える機会にもなっている。最終形には至らなくとも一つの形を作り、次代の経営者たちがそれぞれの時代にふさわしい規程にしていけばいい。旅館・ホテルを担う次世代の人たちが、これからの宿泊業に理想を描いて、意欲を持って取り組んでいけるよう引き継いでいきたい。

 ――テーマ別の委員会の活動が担当副会長の下、若手メンバーを中心として活性化している。

 北原 先ほどお話しした外国人雇用や人手不足は労務委員会に、会員資格の見直しは政策委員会に取り組んでもらっている。IT戦略委員会は、ネット直販事業「DRS」やOTAに絡む問題を担当している。OTAに関しては、一部で消費者の誤解を招く表現を用いて料金を表示しているという問題がある。個々の旅館・ホテルの意見を聞いた上で、システムや売り方を考えてもらいたい。公正かつ対等な取引ができるよう関係者に改善を働き掛けていく。新たに立ち上げた電子決済委員会は、キャッシュレス決済への対応、会員施設への普及を検討している。生産性向上委員会は人手不足とも関連する分野だが、観光庁などと連携して業務の改善方法を普及しているところだ。

 このほか18年5月のバリアフリー法の改正では、新設の旅館・ホテルでバリアフリーに対応した客室の設置基準が強化されたが、既存の施設についても、高齢者や車いすのお客さまへの対応は必須である。支援措置の拡充も要望していきたい。また、19年10月には消費税率の引き上げが予定されている。宿泊業界として対応すべき部分には対策を講じていく。いずれの課題についても会員の皆さまにご協力をお願いし、解決に努めてまいりたい。

北原会長

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