【新春特別インタビュー】「くまモン」生みの親・小山薫堂氏に聞く

  • 2019年1月4日

小山薫堂氏

観光立国・日本の在るべき姿

 ――小山さんがプロデュースした熊本県のPRキャラクター「くまモン」が大ヒット、観光業界にも名が知られるようになった。きっかけは。

 「九州新幹線の開通で福岡と鹿児島は盛り上がっているが、熊本は恩恵もなく蚊帳の外でした。危機感を持った県から観光キャンペーンを考えてくれないかと依頼がありました。2010年の話です」

 「従来の観光キャンペーンは行政主導で、一般の人は無関係でした。住民が自ら動き出すような仕組みが必要。そのため、住民の周辺にあるびっくりするようなもの、外の人が見るとびっくりするほどの価値のあるものを再発見し、まず自分たちが楽しんで、幸せな気持ちになること。熊本に誇りを持ち、熊本に生まれて良かったという風潮が広がり、それに人が共感、くまモンブームを作り出しました」

 ――キャラクターありきですか。

 「『くまもとサプライズ』というロゴを作り、ロゴのおまけでくまモンができた。くまモンは県民の思いを一つにするための運動の象徴にすぎない。NHK大河ドラマとゆるキャラに頼ってはいけない(笑い)。その時は盛り上がるが、必ず反動があります。くまモンに頼ったキャンペーンはしたくなかった」

 「観光は地域を良くするといわれるが果たしてそうでしょうか。観光に向いているところもあれば、観光じゃないことをやった方が結果として人が集まることもあると思う。地域全てが名所を作る必要はありません」

 ――ヒットに結び付く仕掛けはどう作っていけばいいのでしょう。

 「ヒットを狙うよりは、どうすれば人が面白がってくれるかを考える。自分のやることに人が共感してくれる、ウィン・ウィンの関係が構築できればいいですね」

 ――最近気になった作品は。

 「作品といえるかどうか分かりませんが、英国の覆面アーティスト・バンクシーの作品がオークションで落札された直後にシュレッダーにかけられたのが印象に残っている。バンクシーの映画『イグリットスルー・ザ・ギフトショップ』も素晴らしい作品で、お薦めです」

 ――観光との関わりはくまモンが最初?

 「いや、06年ごろに日光金谷ホテルのブランディングの手伝いをしたのが最初です。当時、創業者のひ孫の方が社長を務めていたが、元々教育者でホテルは未経験だった。非常にご苦労なされ、お話をする機会があり、その時に『ホテルの何が悪いのか指摘してくれ』と言われ、私も感じたことを率直に言いました。今思えばクレーマーですね(笑い)。ただ、クレームととるか助言ととるかで人としての器量が出ると思いますが、社長は助言と受け止め、経営に生かしてくれました。それから関係ができ、顧問の立場でホテル運営に関わっています」

 ――政府は観光立国を標榜(ひょうぼう)し、外国人観光客の誘致などに取り組んでいます。

 「観光は国を振興させる上でとてもいいキーワードだと思うが、打ち出の小槌のように扱うのはどうでしょうか。何がなんでも観光というのは誤りです。観光業に携わっていない人が観光を意識し始めた時に初めて観光立国という言葉が重みを増すと思う」

 「訪れて感動する観光地というのは、観光に関係のない人たちが観光客を温かくもてなし、素敵な体験をさせてくれた時です。住民が無意識に観光を意識し、よく来てくれたと歓待することができればその国は魅力ある国といえる」

 ――例えば。

 「理美容師が客の髪を切るだけでなく、われわれは観光業なんだという気持ちで仕事をしたらどうでしょう。髪を切っている時は理美容師さんを独占できる。そこで会話をし、地元の魅力とか知られていない観光地を聞くと面白い」

 「これが発展して、理美容師が『旅先で髪を切ろう』的なキャンペーンを展開したらいい。理美容師自身が地域の良いところ、面白い場所を発見し、お客に伝えなければならない。そうすることで今まで気付かなかった良さが分かり、地元への愛着もわくのではないでしょうか。また、ふるさと納税のような仕組みを使って町の活性化に貢献できないかと考えています」

 ――具体的には。

 「当社は毎年社員旅行に行きます。いろんな経験を積ませるのが目的で、福利厚生費をふんだんに使って社員をねぎらっている。これを地方のために使おうと思い、18年11月に熊本県天草市に社員旅行をしました」

 「市にはコミュニティFM『みつばちラジオ』があり、社員旅行のアトラクションの一環でここをジャック、8時間の生放送を行いました。題して『あまくさハッピーハンティング』。社員旅行が地域活性化につながる、新たな可能性を探ろうという試みです」

 「番組中、社員が3人1組となって天草にあるさまざまな“幸せ”を求めて駆け回り、私がパーソナリティとなってその模様を番組内で紹介するといった内容。幸せの中には隠れた観光資源もある。社員が集めた動画を1本のムービーに編集し、上映しました」

 「天草にはMICEの施設がなく、概念もないが、映像を観るのは地元の映画館、講演会は市民センターでできる。それらをラジオを使って放送すれば天草全体がMICEの拠点となる。こうしたことを市の観光協会が気付いてキャンペーンをやってくれたらいいですね」

 ――小山さんにとって企画力とは。

 「企業の力で新しい観光のスタイルができないかと常に考えていますが、企画する上で心掛けていることは、(1)その企画は新しいか(2)自分にとって楽しい企画か(3)誰を幸せにするのか―です」

 ――旅行は好きですか。

 「もちろん(笑い)。出張を含めると、年に飛行機に100回以上乗っています。海外は月1回程度、国内は週に1~2回は行っている」

 ――小山さんは「湯道百選」を執筆していますね。

 「茶が道になったように、日本特有の入浴文化も道になるかもしれないと思い、『湯道』と名付けました。湯に浸かり何を思い、何を得るかが大切。湯道の本質にたどり着くにはいい湯に浸かり、そこでひらめいた文言を積み重ねていく。湯は温泉だけでない。銭湯もそうだし、各家庭にも湯はある。あらゆる湯に浸かるのがモットーです」

 ――印象に残っている湯は。

 「北海道ニセコにある黄金温泉。田んぼの中にあるとても居心地のいい温泉です。湯主はかつて農家を営んでいた林勝郎さんで、自分が楽しむための温泉でもある。500円で利用でき、ニセコアンヌプリの頂を眺めながら炭酸泉に身を沈めると何ともいえない幸福感に包まれる」

 「山形の銀山温泉もいい。特に冬景色は素晴らしいものがあります。また、赤湯温泉の瀧波は主人の食のこだわりが伝わってきます」

 ――旅館に泊まる機会も多いと思うが、気になることはありますか。

 「ルールを決めすぎというか、旅館の都合が目に付く。旅館に着いた途端に夕食と朝食の時間が決められるのが嫌ですね。旅館の事情も分かるけど、もう少し余裕がほしいと思います」


こやま・くんどう 放送作家、脚本家。日大芸術学部卒。大学在籍中に放送作家として活動。テレビ番組では「料理の鉄人」や「カノッサの屈辱」などがヒット。映画の「おくりびと」では脚本を手掛け、第81回アカデミー賞外国語映画賞、第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。「考えないヒント」など著書多数。株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ社長。熊本県出身、54歳。

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