高速バスと観光の関係について、ここまで考えてきた内容をあらためて整理すると以下のようになる。
現在、高速バスの年間輸送人員は1億人を超え、国内線航空を上回っている。さらに成長基調が続く「鉄道に次ぐ第2の幹線輸送モード」である。だが、その中の多くは地方在住者の「都会への足」としての利用であり、観光客の利用はごく一部でしかない。
もっとも、鉄道の直通がなく、かつ1カ所滞在型のデスティネーション(テーマパークやアウトレットモールなど)を中心に、観光客に支えられている高速バス路線もある。既に地方在住者の市場を掘り起こし終えている以上、こういった流れを拡大することが高速バス市場の拡大につながる。そのためには、1カ所滞在型の旅行だけでなく、周遊型の旅行においても高速バスのシェアを引き上げることが必要となる。
タイミングよく、旅行市場(国内および訪日の両方)が、着実に個人旅行にシフトしている。そのうちクルマ旅行の分野は、旅程作成が簡単で柔軟であることから先行して変化が進み、旅行者一人一人の興味関心に基づいた「パーソナルな旅行」を楽しむ環境が整った。
だが公共交通を乗り継ぐ旅行については、旅程作成段階、および旅行中の移動(乗り換えや手荷物)においてストレスが大きく、個人旅行のハードルは高いままである。
むろん、クルマ旅行の柔軟さと同等レベルは望むべくもないが、非クルマ旅行の分野でも、ますます多様化する旅行ニーズに応えられるよう、そのストレスを軽減する環境づくりが求められている。
その意味で、商品を比較的柔軟に設定でき、例えば観光施設や宿泊施設、国際空港などに直接乗り入れることができる高速バスは有望な輸送モードである。だが、単純に直行の高速バス路線を設定したから観光客が増えるというものでもない。
高速バスに求められていることは、具体的には何だろうか。
(高速バスマーケティング研究所代表)