高速ツアーバスの取り扱いを始めた「楽天トラベル」の高速バス予約事業は、その後、急速に成長する。具体的な成長戦略の内容は別途ご紹介するが、その戦略は、以下の三つの分野をバランスよく加速させることであった。
つまり、(1)会員向けメールマガジンや検索エンジン対策、ポイントプログラムなどを活用したサイトの集客力強化(2)これまで高速バス業界には存在しなかった「空席横断検索」(乗車区間や乗車日を指定することで複数の会社の空席を一元的に表示し比較させる)に代表されるユーザビリティ強化(3)新興・中小規模の会社が多い取引先への積極的なコンサルティング―である。
2007年には、中堅旅行会社であるホワイト・ベアーファミリーが、同様の予約サイト「高速バスドットコム」を開設。MSNやヤフー、さらにはじゃらんなどとの提携を進め、先行する楽天を追いかけた(その後、じゃらんは提携を解消し独自サービスを開始)。また、各企画実施会社自身も、公式サイトからの予約にも注力し始めた。
つまり、営業主体(企画実施会社)同士のみならず、予約ソース同士の競合も始まったのだ。これまでの高速バス分野には存在しなかったさまざまな競争が、各社の創意工夫を生み出し、さらに市場拡大につながるサイクルが回り始めた。高速ツアーバスは、まさに、ウェブマーケティングと競争、この二つの要素によって成長したのである。
なお、楽天トラベルとしては、必ずしも高速ツアーバスのみを成長させることを目標とはしていなかった。同サイトで、高級ホテルからビジネスホテル、観光旅館まで宿泊予約できるのと同様に、高速ツアーバスに加え高速乗合バスの取り扱いも目指していた。
ところが、高速ツアーバスが成長すればするほど、既存の高速乗合バス事業者らはそれを快く思わない。業界であまりに目立ちすぎることは、率直にいって複雑な心境であった。
その急成長のさなかの07年2月、大阪府でスキーバスがモノレールの高架橋に激突し1人が死亡、25人が重軽傷を負う大事故が発生した。
(高速バスマーケティング研究所代表)