
誕生当初の高速ツアーバスには、既存の高速乗合バスと比べると、おおむね以下の点で違いがみられた。
既存高速乗合バスは、東京―大阪など長距離夜行路線においては、横3列シート、トイレ付きの夜行高速バス専用車両が導入されていたが、高速ツアーバスは貸し切りバスをチャーターして運行するため、修学旅行やバスツアーでも使われる汎用的な4列シート、トイレなし車両であった。そのためもあって、価格設定は3~4割程度、低く抑えられた。
既存高速乗合バスは、バス停の権利関係から、例えばJRバスなら東京駅、京王バスなら新宿というふうに発着場所が制限されていたが、高速ツアーバスは法的には旅行商品であり、バス停の権利は関係なく公道上などで乗降可能であるので、テーマパークや大型ターミナル駅周辺など、集客を見込める発着地を多数設定することが可能であった。
既存高速乗合バスは、ほとんどが鉄道系など老舗のバス事業者が運行しており、人件費などコストが高めであったのに対し、高速ツアーバスは、ちょうど規制緩和直後で続々と新規参入が続いていた中小の貸し切りバス事業者に運行を発注していた。
当然、コストは低く、この点でも低価格を可能とした。もっとも、そのような新規参入者の運行管理体制は十分とは言えず、なかには、法令順守さえままならない者がいたことも否定できない。いずれにせよ、誕生当初は、中小旅行会社によるニッチ商品に過ぎなかった。
とはいえ、既存の乗合バス事業者らが、本業である地域の路線バス(公益性が大きく、かつ競争が存在しない)同様に、高速バス分野においても「バスさえ走らせておけば乗客は勝手にバス停まで来てくれる」とばかりにプロモーションをほとんど行わなかったのに対し、中小旅行会社らは貪欲に販売代理店を増やすなど積極的な販売促進を実施し、着実に需要の掘り起こしが進みつつあった。
そして、彼らの事業がようやく軌道に乗り始めた2005年、高速ツアーバスは、ウェブマーケティングとの運命的な出会いを果たす。
(高速バスマーケティング研究所代表)