
高速バス市場の「本丸」と言っていい、地方と都市を結ぶ短・中距離の高頻度昼行路線の事業環境は安定しており、脅威を強いて挙げるなら、「競合する鉄道が本格的な運賃変動を導入すること」であると述べた。
だが、長いスパンで見ると他にも大きな課題がある。一つは、言うまでもなく、沿線人口の減少である。市場自体が縮小するのだ。もう一つ、それに加え、地方から都市へ向かう流動量も減少が予想される。
情報通信手段の発達により、例えば、ビジネス客が出張し、対面で打ち合わせをしなくても、メールやテレビ会議システムなどを活用して業務を進めることができるようになっている。また、都市部の有名店舗などでのショッピングを目的としていた乗客も、ウェブ通販の普及によって自宅に居ながら好みの品を購入できるようになった。
高度経済成長期には、地方部から大都市へ大きな人口移動が起こり、そのような「都会に出た第1世代」は頻繁に実家に帰省したが、第2世代以降になると「親の実家」への帰省の頻度は低下している。
そのように、足元の環境がいくら安定していようとも、中長期的にみると市場は着実に衰退に向かっている。
だからこそ、本格的なレベニュー・マネジメント(RM)導入を中心に、現有顧客基盤においていかに収益性を高めるかが鍵になる。その収益を、まずは品質のさらなる改善に再投資し、顧客基盤を強固にしておくことが重要だ。安全性の向上は最大の品質向上であるし、遅れがちと指摘が多いウェブ予約のユーザービリティには大きな向上余地がある。
そして、新たな収益のもう一つの再投資先として、これまで高速バスがうまく掘り起こせていなかった観光客の取り込みがある。旅行形態は着実に団体から個人へとシフトしており、高速バスにはチャンスである。その分野については「第3の市場」の項で説明する。
(高速バスマーケティング研究所代表)