先週述べたレベニュー・マネジメント(RM)が高速バスで可能になったのは、2013年の制度改正により「幅運賃」制度が導入されたからである。それまでは、募集型企画旅行形式で営業していた「高速ツアーバス」のみで価格を変動させることができたが、その高速ツアーバスと従来の高速乗合バスを一本化させるタイミングで、高速バス全体でRMを活用できるようにと「幅運賃」制度が導入された。
制度的には、全ての高速バスにおいて、既に航空やホテルなどと同等の運賃変動を行うことができるようになっている。だが、短・中距離の昼行高速バスにおいては、本格的な運賃変動はいまだ行われていない。
短距離路線の多くは、そもそも予約制ではないので、RM導入が困難なのは仕方ない。だが、予約(座席指定)制を採る中距離路線においても簡単ではないのだ。航空やホテルの場合、チェックインや支払いを行うのは窓口(フロントなど)である。それなりの要員がそろっていると共に、ITシステムを利用し手続きを行う。
また、高速ツアーバス(当時)は、募集型企画旅行形式であったために事前にウェブ上でのクレジット決済などにより支払いを済ませていることが必須とされていた。高速ツアーバスは長距離の夜行路線が中心であるため、事前決済を前提としても利用者の大きな不満は招かなかった。
それに対し、中距離の高速バスの場合、予約を受け付けても運賃の支払いは当日、というケースが多い。事前に予約せずとも、当日、空席があれば乗車可能でもある。30分間隔などの高頻度で運行される路線では、競合する鉄道の自由席に対抗するためにも、なるだけ気軽に乗車いただくことを目指している。
ところが、もし、本格的な運賃変動が導入され、乗客一人一人で金額が異なるという環境になれば、乗務員(運転手)がそれぞれの乗客から正しく運賃を収受しなくてはならない。ホテルでも、チェックイン時に「金額が認識と異なっている」と指摘され、予約通知などを見せて納得してもらうことがあるが、乗務員1人でそこまで対応するのは難しい。
(高速バスマーケティング研究所代表)