本紙「本だな」で取り上げていただきましたが、12月8日に「女将は見た 温泉旅館の表と裏」(文春文庫)を出版しました。
覚えておいででしょうか?
今年の1月に本連載で「女将の素顔」と題して、「一般的には、絢爛(けんらん)な着物姿でお客さまにご挨拶するイメージでしょうか。でも、それはほんのごく表面上の姿。水面下では七転八倒。ドタバタあり、ハプニングあり、涙あり、笑いあり。予測不可能な出来事を難なくこなしていく強さを持つ女性、それが女将です。『女将』とは特殊なカテゴリーで、職業というより生き方なのかもしれません。唯一無二の存在。だからこそ希少価値がある。いつか書いてみたい」。
そんなふうにつづったことを。
「女将は見た 温泉旅館の表と裏」では、そんな女将の素顔や旅館の裏側を書きましたので、ここでは執筆の裏話を記してみたいと思います。
私は、女将だけでなく宿泊業について、いつか本を書いてみたいと思っていました。昨年の秋に、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長の鈴木治彦さんが、ご自身の宿である奥津荘から岡山空港まで送って下さる車内で「8室しかない小さな旅館の僕が青年部長になったのは、旅館の地位向上がしたいから」と話して下さったことも執筆の原動力となりました。個人的には、「地位向上」と言うほど、旅館のステイタスはそんなに低いだろうか疑問に感じる半面、共に歩んでいる自負がありますので、私ならどうすればお役に立つのだろうと思っていたのです。
すると文藝春秋でもう10年以上、私を応援し続けてくれている編集者が「女将について書いてみませんか」と打診して下さいました。まさに渡りに船です。その編集者からのオーダーが「旅館や女将の様子をのぞいてみたい」ということ。執筆中、私は「のぞく、のぞく、のぞく」と独り言をつぶやいていました。だから本のタイトルを考えるときに、すんなりと「女将は見た 温泉旅館の表と裏」というフレーズが出てきました。
編集者が提案してくれた「のぞく」という切り口には共感しています。このように女将や旅館のバックヤードを手軽に読める本があれば、女将や旅館のファンが増えるのでは、と思ったからです。
表紙は福島県岳温泉「お宿 花かざし」の女将・二瓶明子さんに飾っていただきました。また二瓶さんに生まれてから現在に至るまでを振り返っていただき、女将として過ごす24時間のルポも書きました。
女将の数だけ女将のスタイルがあります。全ての女将にはその女将でしか語れない物語があります。それではなぜ、二瓶さんにお話を伺ったのか。二瓶さんならではのご苦労をされておられることも理由の一つではありますが、「日本しか存在しない『旅館の女将』という階段を今、二瓶さんは登っている」と感じたからです。詳しくはぜひ文春文庫をご一読下さい。
本の発売日に本書に掲載した「ベテラン女将の匿名座談会」の一部を文藝春秋のWebサイト「文春オンライン」に公開したところ、直後にYahoo!ニュースにも転載され、あっという間にコメントが600件以上! 大反響でした。コメントを読んでみると「宿泊業って大変だな~」という好意的な意見と、宿泊業の方からの実体験投稿がとても多かったです。宿泊業の方は、お話ししたい欲があるのでしょうか―。そんな方はぜひ私にもお聞かせ下さい。
(温泉エッセイスト)