【山崎まゆみの「ちょっと よろしいですか」51】誰がお風呂を必用としているか 温泉エッセイスト 山崎まゆみ


 コーディネーターを務める「アフターコロナ・ウィズコロナ時代の観光」対談が4回目となりました。10月はピンクリボン月間ですので、2017年に乳がんを患い、ご自身の闘病体験から乳がん啓蒙(けいもう)活動をされている歌手の麻倉未稀さんをゲストにお招きしました。

 実は麻倉さんとはお会いするのはこの対談が初めてでした。日本を代表する傑物の評伝で著名な作家・北康利さんがご自身のFacebookで拙著「バリアフリー温泉で家族旅行」を取り上げていただいたときに、北さんの同級生である麻倉さんがコメントを入れてくださったことが知り合うきっかけでした。

 「乳がん患者である私が行きやすい旅館はありますか?」そんな質問をいただいたことから交流が始まったように記憶しています。

 麻倉未稀さんのファーストインプレッションは小柄でかわいらしい女性! 

 麻倉さんの魅力は、まるで体が楽器と化したかのような、全身から発される迫力ある歌声です。その圧倒的な表現力から、私には大柄なイメージがありました。ところが、身長164センチの私が麻倉さんの横に並ぶと、私の方がノッポです。

 そして麻倉さんは癒やしの人でした。高音でささやくように、歌うように滑らかに語る言葉はあまりにも耳に心地良く、ずっと聞いていたかった。

 対談記事にもありますが、麻倉さんは繰り返してこうおっしゃいました。

 「体に傷がある人は大浴場を貸し切りたい願望がある。人目を気にせずに、大きなお風呂に入りたい」

 温泉は誰のためにあるのか? 最も必要としているのは誰なのか?

 麻倉さんの話をうかがいながら、私は終始この疑問を浮かべていました。その答えがある温泉に、お客さんが向かうのではないか―。

 私も子宮内膜症の手術後は腹部に縦に15センチの傷が残りました。手術から5年もたちましたので、傷がある体でも入浴に慣れてきましたが、傷がついたばかりの頃はお風呂に入ることが仕事である私でさえも全裸になることにちゅうちょしてしまったのです。でもどうしても大きなお風呂に入りたいので、手で傷を隠して大浴場に行きました。

 父が半年ほど入院した後、リハビリを兼ねて一緒に温泉へ行ったとき、私は父の入浴を見守れるように貸し切り風呂を予約していました。父は大きな風呂に手足を伸ばしてのびのび入りたいと言い張り、足元がおぼつかずつえをつきながら、ひとりで男性の大浴場に向かいました。その結果、「大浴場でぷかぷか浮かんだ」と満面の笑みを浮かべて、湯上がりの顔はつやつや。脱衣所につえを忘れてきてしまうというオチまでつきました。

 そう、入院中はお風呂に長い間入れないからこそ、術後の回復期は大きなお風呂を切望するのです。

 これからは病気中でも、病後の回復期にも、気軽に温泉に行きやすいように、旅に行きやすいようにハードルを低くする。それが旅館ホテルの大切な課題になるのではないでしょうか。

 麻倉さんのお話はそうしたお客さんへのもてなしの参考になるのではと感じました。

(温泉エッセイスト)

 
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