【山崎まゆみの「ちょっと よろしいですか」34】ひとり旅ブームはこのまま定着していくでしょう 温泉エッセイスト 山崎まゆみ


 いま書店で旅を誘う雑誌コーナーに立つと、当たり前のように目に入るキャッチコピーが「ひとり旅」。

 これまでも可能性は秘めていました。「旅行読売」はずいぶん前から「ひとり旅」ムックを出していましたし、ガイドブックを出している出版社からも「ひとり旅」マニュアル本は出ていました。

 かくいうこの私も、2012年に「おひとり温泉の愉(たの)しみ」(光文社新書)を出版しました。この本を書き始めた11年の時点ですでにニーズはありました。ちなみに付けた帯文句は「プチ蒸発」。現実逃避して温泉へと誘うことを目的とした言葉です。

 それが現在のように広く市民権を得たのは、ここ4~5年でしょうか。

 具体例を挙げれば、文藝春秋から出ている女性誌「CREA」は17年1月発売の2月号以降、4年連続で毎冬、ひとり温泉特集が組まれ、私も毎年参加しています。

 初めてひとり温泉特集号が刊行された後、「CREA」編集部の担当編集者からこんなことを聞きました。

 「社内では『ひとり旅に絞らずに、温泉特集の方がいいのではないか』という見方もありました。ただ発売してみれば、シングル女性だけでなくて、子育て中のママさんからも“いつかひとり温泉”というSNSへの投稿や読者の反響がありまして、完売。1年で一番売れた号となりました」

 今年発売中の「CREA」では、私の「ひとり温泉」2泊旅の様子をルポしています。温泉宿をはしごするわけです。

 タイムスケジュールも載せて、わかりやすくひとり旅を伝えています。

 「ひとり温泉」に引かれる理由をつづってみたいと思います。

 旅に出る時は、まだまだ日常の疲れがたまっている体は重たいけれど、その重みを一気にふっ飛ばしてくれるのは、旅の1湯目のお風呂。全身をお湯につけると「うぅ~」。呻(うめ)き声が止まりません。

 なぜ、人はお風呂に入ると呻くのでしょうーー。

 翌日は朝湯も楽しみます。朝食を食べて、チェックアウトまでうとうとと一休み。この朝寝が至福なんだなぁ。

 その後、電車とバスを乗り継いで、適当にアルコールも入れながら、次の宿へと移動。昼のお酒は背徳感との相乗効果で多幸感が増しますねー。

 2泊目の宿でもお湯にとぷんっと漬かります。それも誰もいない静かな深夜に、ひとり「ざぶ~~~~ん」とお湯があふれる音を浴場に響かせながら。お湯があふれ出す音は贅沢(ぜいたく)さを与えてくれる。

 し・あ・わ・せ。

 そして最終日、3日目の朝に鏡を見ると、顔がいい感じなのです。少しだけゆるみ、すっきりとしています。余裕のある顔をしているのです。

 温泉のプロとしては、1泊目の温泉は皮脂を洗い流す作用のある湯を選び、2泊目の宿に保湿効果があるお湯を読者に案内しました。初日で肌に刺激を与えて、2日目で肌を落ち着かせるのです。

 山峡のいで湯の宿にこもり、自分と対話する旅。渓流沿いの開かれた環境に身を置いて、自分を解き放つ旅。この二つのパターンも紹介しています。

 全ては心と体を整えるための旅です。

 そして、いまは某鉄道会社の会員冊子に掲載される「ひとり旅」特集の原稿を書き終えたところです。今年も「ひとり旅」が求められそうです。

 私自身、年老いた親と一緒に温泉に行くことは、大切な尊い時間だと思っています。きちんとその時間は取るようにしていますが、ひとり温泉は別腹のようなものです。

(温泉エッセイスト)

 
 
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