本紙でも取り上げていただきました、星野リゾートさんと取り組んでいます、旅館内のバリアを軽減する「バリアレス」企画。現在も前進しています。
そもそもスタートは、2017年の暮れ。以前からよく存じ上げている星野佳路代表に「バリアフリーというと、旅館さんが途端にひいていくのがよく分かるんです」
とこぼすと、
「山崎さん、旅館の立場だと、旅館は段差があるのが大前提で、『バリアフリー』と言われるから『無理だ』と思ってしまうんだよ。比較的段差を軽減した『バリアレス』くらいだったら、やれるかもしれない。『バリアレス旅館』なら、ぜひ、星野リゾートで実施してみたい」と答えられて、ハッとしたのです。
お客さまも旅館に必ずしも完全なバリアフリーを求めているわけではないのです。段差や階段が旅館としての形状の美しさを醸し出します。それが温泉旅館にやって来たという実感につながります。
もしかすると多少の段差は、非日常を体験している高揚感で乗り越えられるかもしれません。「旅はリハビリ」なんていう言葉もあるほどです。
最も必要なのは、旅館のスタッフさんの適切な対応、そしてどうしても乗り越えられない階段や段差を解消する備品です。温泉でくつろいでいただけるためには、お風呂用の備品も必要ですね。
これらの考え方を星野代表にお話ししまして、1年近く準備をして、今年の春の発表会で「バリアレス」への取り組みの発表になりました。
星野リゾートの中でも、全国15カ所ある温泉旅館ブランド「界」で実施していき、23年までには全施設をそろえる目標で、鋭意進行中です。
まずは第一歩、モデル施設として、静岡県伊東温泉にある「界 伊東」でスタートしました。備品をそろえ、「界 伊東」の全スタッフに介護事業者による研修を受けていただきました。旅館内の段差や階段の形状を公式サイトに公表しました。
今年の夏休みくらいから、お客さまの声も集まりそうです。それらの要望を踏まえて、次のステップを考えていきます。
さらに本年度中に、あと数カ所の「界」で展開していきます。私は、その準備のために各地の「界」の施設見学をしていますが、難点も多数あります。リニューアルしても、構造上、どうしても階段が解消できない。客室に露天風呂が付いていても、その露天風呂までに3段の階段がある。客室のドア幅が狭くて、車いすの使用が難しい。エントランスからバリアレス対応の部屋までの距離が長い。
これらをいかに、使いやすくするかが課題。星野リゾートさんは知恵を絞りながら、果敢に取り組んでいます。
この「バリアレス」への取り組みは、旅館の皆さんの悩みを解消するノウハウになり得ると考えています。
行動力があり、財力もある旅好きな団塊の世代がいまの宿泊産業を担っています。その方々が5年後、10年後にはまず間違いなく、必要とされるのが「バリアレス」です。超高齢化社会に向けて、旅館のバリアレス化は、今後、注目されることになるでしょう。
(温泉エッセイスト)