前回は今年初めに起きた本白根山噴火に対して、草津温泉では噴火翌日に黒岩町長が包み隠さず正確な情報のみを文書で発表し、町役場や観光協会、旅館組合も情報を統一して発信することで協力してくれる人たちが現れたというエピソードをつづりました。
ちょうどこの原稿を書いている時に北海道の地震のニュースが入ってきました。いまテレビレポーターは「震災大国」という言葉を使い中継をしています。
改めて、本白根山噴火の報道による自然災害に対応した具体的な草津温泉の策について記します。先月、草津温泉ナウリゾートの小林恵生社長がNHKラジオで「草津のいま」をお話しされていましたので、一部、ご紹介します。
噴火が報道され、その直後のスキーやスノボ客、そして日帰り入浴客は大幅に減ったそうです。今年中頃には回復の兆しを見せているそうです。小林社長は「温泉の泉質や湯量は全く影響なく、今日も毎分3万2300リットルが湧出しています」と話されていました。こうして自ら事実を公にすることで信頼が生じます。
最もお客さんが落ち込んだ時期には「私たちは草津での生活の風景をSNSに発信しました。皆さん、目で見ると安心されます」とのことでした。
そしてSNSに敏感に反応する若い女性に向けて「女子旅」「親子旅」というキーワードを付けてインスタグラムやツイッター、Facebookで発信。また湯畑周辺にキャンドルをともし、イルミネーションを演出して、湯畑広場で大道芸人のショーを開催し、絵になる場面を多数つくったそうです。そうすることで、実際に訪れた女性たちが楽しみながら、リアルな草津温泉をSNSで拡散してくれました。
その結果、「従来は、高齢のお客さんが多かった草津温泉ですが、最近は若い女性客が増えました」と小林さん。新しい客層の確保であり、新たな草津温泉ファンを増やしたことになります。まさに、ピンチをチャンスに変えた好事例です。
もうひとつ付け加えるならば草津温泉奈良屋の石和支配人の言葉が忘れられません。
「うちはリピーターさんに助けていただきました。噴火の騒動を知った常連のお客さまが“静かならいいじゃない、行くよ”とお泊まりくださいましてね。東日本大震災の計画停電の時も同じようなことがありました。常連のお客さまのありがたみを痛感しました」。
憶測だけが広がらぬように、SNSを活用してリアルタイムで正しい情報を発信する努力に加えて、旅館、ひいては温泉地や観光地に、ひとりでも多くの応援して下さるファンを増やしていくことが最も大切です。
私が愛する温泉は火山のマグマの熱によりつくられます。それら自然に敬意を払い、一概に危険とみなすのではなく、火山大国日本における観光への知恵を育てていきたいものですね。
(温泉エッセイスト)