【専門紙誌5社共同企画】各紙誌の視点で見る熊本地震からの復興 観光経済新聞 地域一体で観光復興 阿蘇に新たな観光連盟設立


「ASOブランド確立プロジェクト」の事業説明会(2019年1月25日、前列中央が稲吉会長)

 2016年4月に発生した熊本地震で、震源地とその周辺の観光地は直接、間接の大きな被害を受けた。

 阿蘇山の麓、熊本県内牧温泉の阿蘇プラザホテル。「前震」が発生した4月14日は熊本市内の高校による全館貸し切りで、生徒約400人が学校行事のオリエンテーションで宿泊していた。

 地震が発生した午後9時26分。「震度5ぐらい。大きく揺れて、泊まっていた生徒さんがロビーに集まったが、皆無事で、館内を点検しても異常がなかった。しかしテレビをつけると熊本市内で火災が起きたり、家が崩れたりするなどの被害が出ており、次の日の朝いちばんで皆さんお帰りになった」と同ホテル社長の稲吉淳一さん。

 翌15日も別の高校が全館貸し切りで利用する予定だったが、これらの状況によりキャンセルとなった。被害が大きかった熊本市内のホテルから宿泊客の受け入れを要望されたものの、諸事情によりその日はやむなく休館とした。そしてその晩、日付が変わった16日の午前1時25分、熊本県益城町と西原村で最大震度7を記録する本震が起きた。

 「地鳴りのような音が聞こえて初めは阿蘇山が噴火したのではないかと思ったが、すぐに地面が揺れだして、それが体感的に1分ぐらい続いた」(稲吉さん)。

 宿の館内を確認すると、骨董(こっとう)品のつぼや料理で使った皿千枚が割れたり、壁や天井の一部がはがれたりするなどの被害が確認された。さらに電気がつかず、水が出ない。明るくなり、同業者が集まったところ、温泉旅館の生命線ともいえる温泉が出なくなっていることも分かった。地震で地層がずれたことにより、地中からくみ出す温泉の配管が切れたのだ。

 温泉街の旅館は営業ができなくなり、入っていた全ての予約がキャンセルされたほか、新規の予約も入らなくなった。さらに熊本市内と阿蘇を結ぶ幹線道路の国道57号線やJR豊肥本線が大規模な斜面崩壊で通行不能に。国道57号線と325号線の分岐点にある阿蘇大橋が崩落したことも、関係者にとってショックな出来事だった。

 内牧温泉は平成以降、大規模災害にしばしば見舞われている。2012年7月の九州北部豪雨で阿蘇プラザホテルは1階が高さ1.5メートルまで水に漬かり、3カ月半の休業を余儀なくされた。豪雨災害は1990年にも起き、地域一帯が被害を受けている。

 地震で一帯が停電したものの、同ホテルは震災4年前の水害を教訓に自家発電機を導入しており、館内の電気はしばらくそれで賄った。電力会社の「発電トラック」も訪れ、同ホテルの駐車場を拠点に地域に電気を供給。ホテルは作業員に料理をふるまったり、客室を提供したりするなど地域のインフラ復旧を後押しした。電気は震災後約5日で復旧した。

      ◇

 宿の営業再開、阿蘇観光の復興に向けた第一歩として、まず、温泉を元通りにする取り組みを行った。

 「グループ補助金」という制度を活用した。2011年の東日本大震災をきっかけにできた制度で、被災した中小企業の施設復旧などの費用の一部を国と県が補助するもの。まず、中小企業がグループを形成して復興計画を作成し、その計画に対して1事業者当たり補助率最大4分の3、限度額15億円を補助する。内牧温泉は旅館組合加盟19軒と公衆浴場でグループを形成。新たに温泉を掘削するのではなく、切断された配管を修理するとの名目で補助金の交付が認可された。

 阿蘇地域7市町村が一体となった観光復興にも努めた。同地域は阿蘇市、小国町、南小国町、高森町、産山村、南阿蘇村、西原村と七つの自治体に分かれ、それぞれが観光協会を持つなど独自の観光振興に向けた取り組みをしていた。

 ただ、温泉が再度湧出し、徐々にインフラが整備される中でも観光客数は震災前に戻らない。道路や鉄道が寸断されたことで、「阿蘇は行きにくい」とのイメージが広がっていた。内牧温泉がある阿蘇市の宿泊施設36軒で、震災前の2015年度に宿泊客数延べ60万1655人。2017年度は48万2321人と、震災前の8割にとどまる。

 危機感を持った関係者は、「阿蘇が一つにまとまり、復興を加速させよう」と、7市町村による広域の組織「阿蘇広域観光連盟」を2018年4月に設立した。会長には阿蘇市観光協会会長で阿蘇プラザホテル社長の稲吉さんが就任した。

 7市町村合同の観光プロモーションや、「阿蘇ボルケーノトレイル」など一般向けイベントを展開。地域全体を網羅した観光地図を作成し、熊本空港などで配布を始めた。阿蘇の世界的知名度アップに向けた「ASOブランド確立プロジェクト」も現在進めている。

 これらの取り組みで2023年度は阿蘇市で56万5361人まで宿泊客数を回復させている。 

(観光経済新聞)


2016年4月に発生した熊本地震で、震源地とその周辺の観光地は直接、間接の大きな被害を受けた。  阿蘇山の麓、熊本県内牧温泉の阿蘇プラザホテル。「前震」が発生した4月14日は熊本市内の高校による全館貸し切りで、生徒約400人が学校行事のオリエンテーションで宿泊していた。  地震が発生した午後9時26分。「震度5ぐらい。 …

 
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