【寄稿・学術論文】ユニバーサルデザイン、合理的配慮に関する一考察―障害のある人の結婚式を事例として― JTBトラベル&ホテルカレッジ講師・東洋大学国際観光学部非常勤講師 竹内敏彦


竹内敏彦氏

キーワード:障害者差別解消法、障害の医学モデルと社会モデル、法的義務と努力義務、共生社会、ブライダル産業

論文要旨

 ユニバーサルデザイン化された社会の推進が捗々しくない。その理由はどこにあるのであろうか。様々な理由が考えられるが、その理由の一つに合理的配慮の概念の差異があると考察される。合理的配慮とは、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の略称であり、一般的には無理のない調整と解釈されている。しかしながら、その概念により疎かになっている配慮があるのではないかと考える。本論は、ビジネス的見地より更なる合理的配慮の概念を提言することを目的とする。その研究方法は、先行研究として、合理的配慮の概念を検証し、さらに障害のある人の結婚式を事例として検証する。結婚式はハレの日の商品でありできる限りの希望を叶えたい。そのための配慮は一生ものであると解釈されるからである。本論により、観光関連事業者を含む多くの事業者が合理的配慮の概念を再認識することを望む。そして共生社会の実現に貢献することを期待する。

 

1.はじめに(研究の背景、目的、研究の方法)

 ユニバーサルデザインは、米国のロナルド・メイスが提唱した概念である。それは、文化・言語の違い、老若男女といった差異、障害・能力のいかんを問わずに利用することができる施設・製品・情報の設計(デザイン)をいい、デザイン対象を障害のある人に限定せず、すべての人に利用できるものとする共生をめざした考え方である 。観光は、生活水準を上昇させるための手段でもある。誰でも観光に参加することは、生活の質的向上を図り、より高度な福祉を実現するために重要だからである 。観光は一人ひとり幸福の追求である福祉の手段として、個人の嗜好を充たすことにより、その地域全体の生活の質的向上を図ることができる。すべての人の旅の目的をかなえることは、障害の社会モデルに基づいた共生社会の推進、つまりユニバーサルデザイン化された社会の推進に貢献することができるのである。観光産業は、旅のユニバーサルデザインを事業として取り組んでいる。しかしながら、障害のある人への商品提供に関しては苦手意識があることは否めない。旅行業であれば事故などのリスクが大きい。つまりクレームと責任に対する不安が、福祉的対応に取り組みきれない最大要因であると分析、報告されている 。さらにその促進を阻んでいるのが、合理的配慮という概念の解釈の差異であろう。合理的配慮とは、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の略称であり、民間事業者はその実施に努力義務を負っている。何が合理的配慮なのかは、国土交通省よりその具体例としての対応指針が示されている。観光関連事業者は国で定められた配慮と理解し、主体的に取り組んでいる。しかしながらここに概念の差異が生じている。例えば旅行業であればツアー中、エスカレーターやスロープのあるルートが付近にある場合に、添乗員等がそのルートを紹介することは合理的配慮であるが、実際に車いすを押す手伝いは定められていないので合理的配慮ではないという解釈である。この解釈の差異は旅行業に限ったものではない。観光関連事業者のみならず多くの事業者が、無理のない調整・できる限りのことをするという言葉の響きから、疎かになっている配慮があるのではないだろうか。2018年10月東京都は、東京都障害者差別解消条例により、都内で事業を行う民間事業者に対し合理的配慮の提供を義務化した。それは、努力義務という言葉を「やってもやらなくてもいい」だったら「やらなくてもいい」と解釈する事業者への抑制である。よってその条例の解釈は、無理のない範囲での調整を行わなければならないという義務化であって、合理的配慮の概念そのものに変わりはない。観光関連事業者の、無理のない調整という「心のバリア」を取り除かなければならない。

 本論では先行研究として、合理的配慮の概念を検証する。そして、ビジネス的見地より更なる合理的配慮の概念を提示すること目的とする。その研究方法は、障害のある人の結婚式を事例として検証する。結婚式は、一生のうちでコト消費として購入する記念すべき高額商品である。ハレの日の商品であるので思い入れも強く、できる限りの希望をかなえたい。そのための配慮は一生ものであると解釈されるからである。観光関連事業者を含む多くの事業者が合理的配慮の概念を再認識することを希望する。そして、共生社会の実現に貢献することを期待するものである。

 

2.先行研究 合理的配慮の概念

2-1用語の定義

 2016年4月「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(いわゆる障害者差別解消法)」が施行された。そしてこの法律の施行によって、障害を理由として正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為は、不当な差別的取り扱いとして禁止することが、行政機関等や事業者に求められる義務となった。併せてこの法律は、合理的配慮の提供の義務を課しており、その不提供により障害者の権利利益の侵害をもたらすことも差別的取り扱いとして禁止している。つまり障害者差別解消法は、「不当な差別的取り扱い」とともに「合理的配慮の不提供」をも禁止しているのである。国や地方公共団体などの行政機関等は、不当な差別的取り扱いと合理的配慮の不提供は、いずれも法的義務が課せられる。しかし、民間事業者については、不当な差別的取り扱いは法的義務であるが、合理的配慮の提供については努力義務とされている。

 それでは、この合理的配慮とは何であろうか。

 1990年に、「障害を持つアメリカ人法(ADA)」が制定された。その特徴は雇用慣行の分野において、障害者がその障害ゆえ仕事を進めていくうえで抱える様々な障壁を解消するための措置である合理的配慮の概念が示されたことである。アメリカにおいて合理的配慮とは、障害者の完全な参加を可能にするための機会の調整(ADJUSTMENTS)や変更(MODIFICATIONS)の全体を差し、調整は一人ひとりの能力・状態に合わせた個別の対応であり、変更は規則・規定の変更など、より組織的な対応を意味すると考えられている 。

 一方日本は、世界の潮流の中、2006年12月国連総会で「障害者の権利に関する条約」いわゆる「障害者権利条約」が採択され、同条約を2014年に批准し141番の締約国・機関となった。この障害者権利条約第2条には、合理的配慮の定義が記されている。合理的配慮とは、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」というものである。そして、合理的配慮に関して障害者差別解消法では、第7条2項に行政機関等の法的義務を、第8条2項は事業者の努力義務をそれぞれ定めている。行政機関等と事業者は、意思の表明があり、過重負担でない場合、権利利益侵害とならないよう、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を提供する法的義務または努力義務を法的に負うのである。ここでいう、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の略称が「合理的配慮」である。障害者差別解消法第6条で定められ、2015年閣議決定された、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」から、合理的配慮とは、「社会的障壁の除去の実施に際し、

① 建設的対話による相互理解を通じた個々の意向尊重

② 本来業務に付随し、本質変更に及ばない、非過重負担

③ 機会平等」と、読み解くことができる。

 障害者差別解消法で合理的配慮の対象となる障害者とは、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害のある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者と定義される。その他の心身の機能の障害とあるように、障害の原因及び種類について限定されていないことから、難病による障害や高次脳機能障害を有する者も対象となりうるのである 。

 障害者差別解消法の第9条と第10条では、国や独立行政法人、地方公共団体に対し、職員のための差別禁止のガイドライン「対応要領」の作成が定められている。また行政機関だけでなく、事業者に向けてのガイドラインは第11条において主務大臣が必要な指針である「対応指針」を定めることが規定されている。ここでは、国土交通省、厚生労働省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針より、観光に関わる事業者数社の合理的配慮の提供の具体例について考察する。

 上記対応指針は、あくまで望ましいとされる例示であって、事業者に強制する性格のものではない。しかしながらこの対応指針の事例である合理的配慮は、事業者の社会的責任である。事業者は、更なる事例を蓄積して共生社会の実現に向けその取り組みを主体的に進めなくてはならないのである。

 

2-2先行研究レビュー

 東(2007)は、「合理的配慮とは、あらゆる障害者に障害のない人と同じように機会の均等と平等を保障するためのものであり、それは差別と深い関係にある。障害はその人の個人的なものとする障害の『医学モデル』から、障害者は障害のない人に合わせて作られた社会の仕組みや偏見から生み出されるという『社会モデル』の考え方が一般的となった。障害者が一方的に努力するのではなく、社会がその環境を作らなければならない。合理的配慮はそのための新しい概念である」 と定義している。つまり、合理的配慮は、すべての人が等しく暮らすための前提条件なのである。また国の制度作りによって、ハードが整備され・差別的取り扱いが禁止され・国民の理解が深まる。そのことは障害のある人がサービス消費時にかかる負担を軽減するものである。一方、一人ひとりで異なる障害をすべて満たした整備は不可能である。よって、ユニバーサルデザインでの対応を最大化しつつ、それだけでは満たされないニーズを補うのが合理的配慮の考え方である。法は不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置については、個別の場面において個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための環境整備として実施に努めることとしている。このため、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることになる。ユニバーサルデザインと合理的配慮というこの2つの視点は相互に補完的であり、両者を組み合わせることが、効率かつ実効性が高い支援対策につながると考察される 。

 また広瀬(2017)は、ユニバーサルツーリズムが商業ベースで成立するには、健常者にとっても楽しめるツアーでなくてはならないとし、例えば、暗闇の中で視覚障害者がアテンド役となり健常者を案内する「無視覚流」といわれる視覚を使わない新たな美術鑑賞法などを提唱している。そして、合理的配慮は「from=障害者発の視座」、つまり障害者からの事業発案を支え育てる新しい社会規範となると唱えている 。健常者だけでは共生社会は推進できない。障害のある人の視座があってこそ世の中が創造されるのである。

 さらに、川島・飯野・西倉・星加(2016)は、合理的配慮の考え方は、現代社会における万人のための「共生の技法」となるものであるとし以下のように論じている 。合理的配慮とは、「非障害者のニーズのみを考慮して形成された非対称な社会に適応しようと差異を消去し、その報酬として平等を勝ち取る(同化&統合)のでもなく、差異を個性や文化としてことさら強調し、その代償として平等を手放す(異化&排除)のでもない、差異と平等をともに志向することである。差異ある者がいたずらに同化や排除を強いられることなく、差異ある存在として社会参加することを担保する合理的配慮は、まさしく共生の技法にほかならない。異化&統合というこの技法の具体的実践は、障害分野を超えて現代社会におけるマイノリティ問題の新たな処方箋として普遍化していくことができるのである」

 障害のある人と健常者という関係のみならず、少数派は多数派に合わせることが社会で生きるための手段となっている。そして、多数派は少数派を排除しようとして意図的に行動しているのではない。しかしながら、無意識のうちに多数派中心の社会的障壁を作ってしまっている事実がある。つまり、合理的配慮とは、無意識の多数決で構成されている社会を生きるための共生の技法といえるのである。

 

3. ブライダル市場と障害のある人の結婚

 結婚を経済学の観点から考察すると、

① 子どもや愛情といった家庭内生産物が得られる。

② 分業により生活水準を向上させることができる。

③ 家計を形成することによって規模の経済を享受できる。

④ お互いに理解をすることによって情報の非対称性を軽減できる。

⑤ どちらかが働くことによる所得低下リスクの保障機能がある。

 という5つのメリットが考えられる 。ブライダル市場は、「結婚に際しての儀式」という側面をもつ「挙式」と、それを「周囲に披露して認めてもらう儀式」という側面をもつ「披露宴」の2つの儀式を中心として成立している 。結婚式(挙式と披露宴)は、「家と家」という公的な行事から、「2人のため」の私的なイベントへと変化していき、特に披露宴は、婚姻が成立したことのお披露目の儀式から、招待客それぞれとの関係が意識されるようになった、もてなしの祝宴である。現在、ブライダル業界は、挙式、披露宴を一生に一度のメモリアルとして改めて見直す風潮もあり、それゆえ、個性化・多様化している。費用をかけたいところと、かけたくないところがはっきりと意思表示され、招待客数は減少しているが、一人あたりの単価は上昇している。ところが矢野経済研究所の調査によると、2017年挙式披露宴・披露パーティ市場規模は前年比99.1%の約1兆3,960億円(2017年)となり、4年連続の市場縮小傾向にある。披露宴・披露パーティ会場は、ホテル・一般の結婚式場が全体の6割を超え、次いでゲストハウス・レストランの順位(ゼクシィ2017)であるが、どの事業者であれ業界全体の潜在的ニーズの掘り起こしが課題となっている。そして、ブライダルビジネスは以下のような特性を有している 。

 「ゼクシィ首都圏結婚トレンド調査2019」によると、挙式、披露宴・披露パーティにかかった費用の総額の平均は377.9万円となり、回答者の34%を占める価格帯が、300~450万円未満、23.2%が450万円~550万円未満となっている。招待客人員は平均で63.5人、招待客一人当たりの費用は7.6万円と特に招待客一人あたりの費用は7年連続で増加している。費用は式場のタイプによっても異なるが、首都圏の場合の平均は、ホテルが372万円、レストランが339万円、ゲストハウスは426万円となっている(ゼクシィ2017)。準備期間はあるものの、約半日で一商品平均377.9万円を消費するのである。結婚式に対する考え方で、「結婚式は列席者に感謝の気持ちを伝える場だ」の質問に対し、非常にそう思うが71.5%、ややそう思うが22%であり、思う・計は93.6%に達する。利用者を喜ばせ楽しませ満足度を高める意図をもって計画された空間のことをおもてなし空間 といわれるが、結婚式は新郎新婦が参列者に対して、またブライダル業界が新郎新婦に対して計画した生涯一のおもてなし空間である。選択される事業者は、それぞれの想いを様々な演出や個別的な対応によって実現することが企業努力であることはいうまでもない。

 内閣府が発行している障害者白書(2013)によれば、結婚をしていない人の割合は、身体障害者が35.4%、精神障害者が63.9%、知的障害者が96.7%と、健常者の26.4%と比べて高い数値となっている。しかし、この数値には、健常者が結婚してから障害のある人となった数値も含まれている。現在障害のある人のみを対象とした調査であれば、障害者専門の人材紹介会社ゼネラルパートナーズが実施したアンケート調査(2017)がある。それによると、結婚を希望しない障害者のうち71%の人が、障害が結婚の支障になると思う、と回答している。しかしながら、結婚をしている人の75%が、結婚生活をおくるうえで障害は支障になっていない、と回答している。障害のある人の既婚者が幾多の試練を乗り越えて結婚するまで、どれだけの人がどのように結婚式を挙げたのかは未調査であり、かつ多くの実例を聞き及ぶには至っていない。結婚式は大きな買い物であり、当然費用の問題はあるだろうが、その前に諦めてしまっている、またどこに(誰に)どう相談していいのかがわからないというのが実情であろうと推測される。人口動態の変化や個性化・多様化といった価値観や文化の変化に対応してきたブライダル業界ではあるが、潜在的ニーズの掘り起こしという観点からも障害のある人の結婚式を含めた様々な取り組みを期待するところである。

 

4.障害のある人の結婚式の事例研究(合理的配慮の実例インタビュー)

4-1 B3Weddingチーフウェディングプランナー 木許郁子(インタビュー実施日2020/3/23)

 障害のある新郎新婦が式を挙げる場合、その様々な障壁を除去することが、2人を含めて列席者全員の満足を高めることになる。そして、列席者には同じ障害のある友人が参列する場合が多い。つまり、様々な障害のあるゲストを意識して列席者全員の満足を高めなければならない。障害のある人の結婚式を職域とするウェディングプランナーより、個々の意向を尊重したその配慮の実例をインタビューした。

 例えば、車いすユーザーの披露宴でのセッティングでは、2人が各テーブルをまわれるよう通路幅を広く(ゲストの背と背の間隔を1.5mが目安)設営する。そのため通常のゲスト数の約1.5倍の人員が収容可能なバンケットを手配する。視覚障害であれば、祝福のベルシャワーで新郎新婦を迎えたり、視覚障害のある参列者を意識して通常丸型が多いテーブルを角のあるものにすることによって席の配置を確認しやすくしたりする。また、音や感触・香りを使うアイディアを駆使するのである。聴覚障害であれば、司会者やゲストのスピーチを字幕で流したり、会場内が暗くなっても手話通訳者にはスポットをあて続けるなど視覚的演出を試みる。

 日本では式場選びから始めることが通例であるが、アメリカンウエディングは二人の感性にあったプランナー選びから始まる。つまり、どこで挙げるかではなく、だれに頼むかを重要視している。日本で障害のある人の結婚式をフリープランナーに依頼する利点は、まずどうしていいのかわからないという状態から相談にのり、予算・会場は勿論のこと二人に適した結婚式を演出できる点にある。アスペルガー症候群(自閉症にみられる特徴)であれば、相談にのったプランナー以外の担当者では打ち合わせは進まない。日常から脱却し自身をアピールしたい。写真にこだわり、衣装に100万円をかけ、招待者が100名を超える式もあるという。そして、会場はレストランウエディングが選定されることが多い。ホテルや一般の結婚式場では、自施設を周知した専任のプランナーが存在し、時間は基本2時間、1日に数組執り行うことが通例である。時間延長はそれだけスタッフの人件費が発生してしまうことを意味する。それに対し、障害のある人の結婚式は、3時間は必要であり、できれば1日1組を希望する。1日1組というリクエストは、その日一番のお客様として迎えられたいという気持ちは勿論のこと、すべての新郎新婦のおもいではないであろうが、他のお客様と会いたくないという気持ちもクリアにしてくれるのである。

4-2 CROSS TOKYOウエディング担当 田原聡子(インタビュー実施日2020/4/02)

 障害のある人の結婚式会場に選ばれやすい事例として、レストランウエディングの担当者にインタビューを実施した。

 CROSS TOKYOでのウエディングプランは、「持ち込んでもらうこと」を前提としている。専任プランナーは存在せず、数名の契約プランナーから二人の要望にあったプランナーを紹介し完全オーダーメイドでの挙式が実施される。そして結婚式は、1日1組を基本とする。12:30受付、13:00から披露宴開始のスケジュールであれば、3時間前の09:30には新郎新婦は会場に入る。13:00から披露宴がスタートし、16:00に終了、しかしその後の夜のレストラン営業はおこなわない。後の営業があると、その仕事を意識してしまい、今の2人に集中できないからとの理由である。このスタイルは障害のある新郎新婦に対する特別な施策ではない。通常のレストランウエディングとしての販売方である。つまり、レストラン側にとって障害がある・ない、の区別はなく通常の業務(収益)に相当する。挙式はレストラン内でもおこなえるし、赤坂日枝神社から移動される新郎新婦もいる。ビルの10階のワンフロアでエレベーターも広く、会場もフラット、着席で60名ほどであるが、ウエディング専門のウエディングレストランではないので設備が少ないことは否めない。しかしその分、二人の自由度を演出することで評価を高めている。例えば料理に関しては、料理で自分達二人を表現したい、郷土料理を出したい、お母さんのレシピを再現、持ち込んだお父さんの打ったうどんをサービスするなどのリクエストに応じている。1日1組だけの結婚式であれば、当然収支を考えてしまうが、参列者に対するPR効果や、新郎新婦・参列者のリピート利用を最大限期待している。結婚記念日などで再利用のゲストには、当日のケーキを再現するなど式の延長線としての演出を試みる。費用は料理代だけで、60名であれば120万円ほどであって、それに衣装を含めた持ち込みの経費がプラスされる。レストランスタッフは契約プランナーの指示に従い、二人の希望にかなうようサービスを試みる。打ち合わせの段階で困難なプランはそのように意見をするが、その打ち合わせ内容は障害のある新郎新婦の障壁を除去し、希望をかなえる自由度が垣間見える。そして何よりも、1日1組で持ち込みが基本という営業スタイルが悦ばしい限りである。

 

4-3 京王プラザホテル企画広報担当者(インタビュー回答日2020/8/20)

 京王プラザホテルは、障害のある新郎新婦の幸せを応援する、バリアフリー特典が充実したウエディングプラン「Wedding for all」を2015年より発売している。その内容は、数々のバリアフリー婚礼を担当してきたベテランウエディングプランナーが婚礼準備の相談に対応するほか、当日はサービス介助士の資格を持つサービススタッフが新郎新婦の接客を担当する。また、広めの特別プライズルームでの支度準備、磁気ループのある披露宴会場を用意、メインテーブル・カリヨンへのスロープの用意、ユニバーサルドレスの持ち込み料無料、新婦専用純白の車いすの手配、ユニバーサルルームでの当日宿泊プレゼントなどがその特典にあたる。京王プラザホテルならではの設備力でのサポートプランであり、障害のある新郎新婦にスポットをあてた都市型ホテルとしては特筆すべき商品である。昨今参列者にもバリアフリー対応が求められるケースが増えている。ホテル業界を率先してユニバーサル対応に努めている京王プラザホテルなればこその取り組みである。

 ところが、当プラン「Wedding for all」は2020年現在残念ながら利用実績は見られない。だが当プラン以外でも京王プラザホテルでは、車いすユーザー、視覚障害、聴覚障害、自閉症などの新郎新婦が年に数組(2~3件)結婚式を挙げている実績が確認できる。京王プラザホテルでの障害のある人の結婚式での創意工夫だが、当ホテルではもともと披露宴の時間は3時間で設定されている。さらに、衣装の着替え等で時間が必要な障害のある人の場合、3時間30分にするような設定をフレキシブルに対応している。また、車いす利用のお客様には目線の高さをあわせることや、自閉症のお客様には難しい文言を使用しないなど、個々の症状の度合いによって様々な対応をとることなどは勿論であるが、最も重要なことは、お客様固有の情報を関係者スタッフで確実に共有することである。京王プラザホテルでは、1988年アジア初のリハビリテーション世界会議開催以降、補助犬の受け入れにも積極的に関わり、常に多様なお客様を迎えるために、エコロジーとバリアフリーを考えるプロジェクトチームを結成している。このチームは、部門を横断し、職位、年齢に関係なく様々な課題に取り組みユニバーサルサービスの向上に努めている。しかしながら、障害のある人の結婚式が、他のお客様と一緒になりたくないという感情が優先するならば、都市型ホテルでの結婚式は不可能である。それにも拘わらず、当ホテルには年に数組の実績がある。そのことは、ホテルには障害のある人をはじめ多様なお客様が利用するということを多くのホテルスタッフが認識し、その様々な事例解決に常日頃から取り組んでいるからであろう。利用実績は芳しくないが、「Wedding for all」というプランが存在すること自体が示すように、1988年から現在に至るまでの創意工夫による積み上げられてきたハードとソフトが障害のある新郎新婦から選択されるのである。

 

5.結論

 合理的配慮は、無理のない調整・できる限りのことをすると解釈されている。しかしながら、障害のある人の一生をかけた配慮が必要な結婚式に、無理のない調整という概念があてはまるであろうか。ウェディングプランナーの木許郁子さんは、「障害のある人は恋愛に対し一途であり、健常者よりも結婚願望があるのでは」と分析していた。福祉的対応は自由競争とは真逆の位置にあるように認識されがちだが、実際のベストプラクティスは過酷な自由競争によって生まれてきたのである。国から押し付け等の義務的取り組みではなく、自分たちの価値を高めるための自主的取り組みの中から、真に利用者にとって利用することで幸せになれるアイディアが生まれてくる 。結婚式は、障害のある人から強い意思の表明があり高収益だから実現できるのであろうか。意思の表明がなければ事業者は商品として提供できないのであろうか。ビジネス的見地から合理的配慮は、顧客に満足してもらえるための、企業側の企画、アイディア、演出、商品、収入といった企業価値そのものといえる。そして事業として取り組む以上、合理的配慮はボランティアや努力義務ではない。さらにその配慮は、顧客に対する安全配慮義務に備えていることも前提となる。

 2020年新型コロナウイルス感染拡大によって、多くの結婚式が中止・延期となり、また、感染防止ガイドラインによりハレの日であるにも関わらず3密を回避する演出を余儀なくされている。またやむなく、オンライン結婚式やWEB婚といった商品が登場した。結果、障害のある新郎新婦にも有益な商品なのかもしれない。しかしながらそれらは、福祉的対応という観点から生れた商品ではない。そのような現状だからこそ、障害のある人を含むすべての人に利用できる共生を目指したユニバーサルデザインの考え方に基づいた様々な商品、企業努力が必要なのである。

 ここに、合理的配慮の更なる概念を提示する。合理的配慮とは、差異と平等をともに志向する共生の技法であり事業者の創意工夫、ビジネスの根幹なのである。一組でも二組でも、障害のある新郎新婦が躊躇なく想いを遂げられることを望む。そして事業者の創意工夫である合理的配慮が共生社会の実現に貢献することを期待するものである。


1.島川(2019),p.4.
2.安本(2017),p.91.
3.竹内(2019),p.29.
4.内閣府https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h27kokusai/h2_2_2.html(閲覧日:2020/3/31)
5.石崎(2017),p.21.
6.東(2007),pp.24-26.
7.八巻・望月(2010),p.174.
8.広瀬(2017),p.17.
9.川島・飯野・西倉・星加(2016),pp.198-201
10.若林(日本経済新聞朝刊25面2020/01/21)
11.徳江(2019),p.131.
12.ワタベウェディング(2008),pp.60-61.
13.山口(2019),p.151.
14.島川(2019),p.245.

引用文献
・東俊裕監修、DPI日本会議編集(2007)『障害者の権利条約でこう変わるQ&A』解放出版社。
・石崎由希子(2017)「障害者差別禁止・合理的配慮の提供に係る指針と法的課題」『日本労働研究雑誌』No.685独立行政法人労働政策研究・研修機構。
・川島聡・飯野由里子・西倉実季・星加良司(2016)『合理的配慮 対話を開く対話が拓く』有斐閣。
・島川崇(2019)『観光と福祉』成山堂書店。
・竹内敏彦(2019)「ユニバーサルツーリズム促進に向けた考察―旅行業者の意識改革とその実践―」『日本国際観光学会論文集(第26号)』日本国際観光学会。
・徳江順一郎・二村祐輔・廣重紫(2019)『セレモニー・イベント学へのご招待 儀式・儀式とまつり・イベントなど』晃洋書房。
・広瀬浩二郎(2017)「ユニバーサル・ツーリズムとは何か 障害の概念の再検討―触文化論に基づく合理的配慮の提案に向けて」『民博通信』No.157国立民族学博物館。
・安本宗春(2017)「福祉水準を上昇させる手段としての観光―移動弱者に対する観光参加機会の拡大―」『日本国際観光学会論文集(第24号)』日本国際観光学会。
・八巻知香子・望月美栄子(2010)「災害時要援護者対策におけるユニバーサルデザインと合理的配慮―ハワイ州のInteragency Action Planの概要と実践から―」『社会福祉学』第51巻第4号日本社会福祉学会。
・山口有次、余暇ツーリズム学会編者(2019)『「おもてなし」を考える―余暇学と観光学による多面的検討―』創文企画。
・若林緑(2020/01/21)『家族の変化と社会保障②』日本経済新聞朝刊25面。
・ワタベウェディング監修、JTB能力開発編集(2008)『ブライダルビジネス入門』JTB能力開発。

参考WEBサイト
・ゼネラルパートナーズ障がい者総合研究所
http://www.gp-sri.jp/report/detail028.html閲覧日:2020年4月01日。
・内閣府 アメリカにおける合理的配慮の概念
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/h27kokusai/h2_2_2.html閲覧日:2020年3月31日。

 

【プロフィール】

竹内  敏彦(たけうち としひこ)

東洋大学大学院国際地域学研究科国際観光学修士課程修了。(株)日本交通公社(現JTB)に入社し、企画造成・営業に携わる。日本国際観光学会・余暇ツーリズム学会正会員、旅行産業経営塾4期生、総合旅行業務取扱管理者、クルーズコンサルタント、サービス介助士。著書に、「観光と福祉(共著)」「宿泊産業論(共著)」資格公式テキスト「旅のユニバーサルデザインアドバイザー(編著)」単著論文「ユニバーサルツーリズム促進に向けた考察-旅行業者の意識改革とその実践-」(日本国際観光学会論文集第26 号)等。

 
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