【寄稿】訪日客の忘れ物 オー・エス・エス代表取締役社長 荒木修一


 ここ最近、オーバーツーリズムという言葉をよく耳にするようになった。これは、観光客(とりわけ外国人観光客)が増えすぎたことによってさまざまな弊害が起きる事態を意味している。ごみ問題や交通渋滞、環境問題などのような目に見えるものが代表的だが、実は今、外国人観光客(以下ゲスト)の忘れ物がホテルや旅館(以下宿泊施設)にとって大きな問題となっていることをご存知だろうか。

 これまで宿泊施設では荷物を送ってほしいという依頼があったとしても、その送り先は日本国内が大半だったため、旅行者の荷物で特に困ることは少なかったのだが、ここ数年でゲストが急増したことで、宿泊施設ではさまざまな形で荷物を海外に送るよう依頼されることが多くなった。

 その代表的なものが忘れ物。宿泊施設においてゲストの忘れ物が発生した時、日本人旅行者の忘れ物の場合と異なり、国際配送特有の問題がいくつも発生するため、宿泊施設としては「費用持ち出しで配送する」、もしくは「依頼があっても断る」という選択肢を迫られることが多いのだ。それらの中でも、特に頭を悩ませるのが料金決済の問題。

 この問題の一番の原因は、国際宅配が国内宅配とは異なり、着払いが基本的に不可能なことにある。それゆえ、多くの宿泊施設ではどうしてもゲストから配送に係る料金を海外送金してもらわなければいけない。しかしゲストは、わざわざ銀行に出向いて送金する手間や、最低3千~4千円ほどかかる国際送金手数料を割高に感じ、料金を支払わないことが多い。

 もし仮に支払ったとしても、送金額の受取人である宿泊施設が中継銀行の手数料、および受け取り銀行の手数料を支払うことになるため、ホテルの手元に送料分のお金が残らない事態も起こる。

 別のケースでは、「荷物が到着した後に送金するので先に荷物を送ってほしい」と依頼したにも関わらず、荷物を受け取った後送金せずにそのまま連絡が取れなくなるゲストもいるようだ。このように、うまく料金決済ができないがため、ゲストに配送をあきらめてもらう、もしくは最悪の場合、自己負担にて配送しているのが多くの宿泊施設の実情なのだ。

 この他にも、料金についての折衝、忘れ物がそもそも海外に送ることができる物品かどうかの確認など、数多くの手間が現場で発生している。従って、現在ゲストの忘れ物対応においては、多くの宿泊施設でサービスという名のもとに大きな負担がかかっている。海外からの観光客が増えるにつれ、この負担はこれからますます大きくなるだろう。

(株式会社オー・エス・エス代表取締役社長)

 
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