旅行・観光の醍醐味はその最中だけではない、という考え方が浸透している。観光の計画段階からはじまり旅行を終えた後まで楽しみは続くという意味で「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」という言葉もよく聞かれるようになった。
今回の記事では日本と同じ島国のイギリスに注目し、「旅マエ」というキーワードから彼らの旅の嗜好を紹介していきたい。
イギリス人の「旅マエ」① 休暇がないと仕事はできない?
イギリス人の旅行は休暇を取ることからはじまる。イギリスの連休は4月末のイースターと12月のクリスマス休暇の2つが主だが、それだけの休暇では足りないというのが彼らの考え。そのため多くの人が6月から9月の間に自分のタイミングで10日ほどの休暇を取る。イギリスに限らず多くの欧州諸国では有給休暇取得義務としていることも手伝って、このようなかたちが一般的なのである。
「休暇の計画がないと、仕事が身に入らない!」という声もよく聞かれる。イギリス現地の企業に入社すると、休暇の取得は仕事をするうえで大切な個人の権利であるという説明を受ける。近年、日本でも企業内で休暇の取得推奨が広がってきているが多くの方が「この日に休みます。ご迷惑をかけてすみません。」と言いながら休暇申請をしているのではないだろうか?
しかしイギリスではこのような言葉は全くもって不要。“Holiday is holiday. Enjoy!” と言って明るく上司・同僚が送り出してくれるのだ。自分自身の休暇を楽しみにしているように、相手の休暇を尊重してくれる雰囲気がある。
イギリス人の「旅マエ」② 行きたい!に共通するのは意外なイギリス文化だった?
休暇の予定が決まれば、いよいよ具体的な旅行の計画を立てる。万国共通、旅行の予定を人に話すのは楽しいものである。友人との紅茶の時間、ビジネスの場でさえ今年の旅行はどこに行く?という会話は鉄板。もともと単刀直入に本題を話そうとしないイギリス人なので、旅行の話題はどんな場所でもちょうど良いテーマになる。
誰かが旅行の話をするとたちまち「私も行ったことがある」「ここがおすすめだよ」「そこには○○はないの?」というように意見が出て止まらない。そんな会話を聞いてみるとイギリス人が日本で行ってみたいスポットの候補には特徴的なイギリス文化の背景があるのではないかと気づく。
宗教を学びたい イギリスの信仰文化から
英国国教会の影響で敬虔なキリスト教が多いイギリス。しかし、一方で移民も多くイスラム教やヒンズー教の色も濃い。最近では無宗教だという割合も増えており、まさに他宗教国家といえる。そんなイギリス人だからこそ、日本の仏教や神道にはとりわけ関心が高いようである。個人旅行はもちろん子どもたちの修学旅行先としても日本の寺院、神社への訪問は人気がある。
イギリスのカレッジのひとつWycliffe Collegeでは子どもたちが浄土真宗の寺を訪れ、禅や法話を体験しているという。このために生徒たちは各自で数珠を手作りして日本まで持参したというから驚きである。自国の宗教文化を尊重する心が、日本の宗教への学びの意欲にもつながっているのだ。
古いものと新しいものの融合 好奇心の原点とは?
日本に旅行したら体験してみたいことをイギリス人に尋ねると、古都の街歩きから最先端の鉄道に乗りたい、テクノロジーを体験したいなど様々である。よくよく話を聞いてみると、古き良きものと新しいものが融合しているところが日本のクールな魅力なのだという。
なるほどイギリス人観光客の間で、古民家をリノベーションした旅館やものづくり体験、一方で最新VR技術を駆使した体感型観光地、精度の高いプロジェクションマッピングイベントなどが人気なことにもうなずける。
最近イギリス人のなかで話題になっている観光名所に京都烏丸にあるギア-GEAR-という劇場がある。ここでは1928年築の建物のなかでレーザーやプロジェクションマッピングを使用したノンバーバル公演が楽しめる。最新テクノロジーと歌舞伎から着想を得た動きなどを組み合わせたという意外なパフォーマンスが話題の理由だ。
ギア-GEAR-の舞台セットのようす
引用:海外観光客向けサイトGoin’ Japanesque!
古いものを新しいものと組み合わせて楽しむという嗜好はイギリス文化に背景がある。イギリスでは日常的にリノベーションをする文化がある。例えば祖父母の代から受け継いだ戸建ての内装をDIYで作り変えることを趣味にすることも多い。普段はサラリーマンだが、日曜日には電子工具を取り出してキッチンから浴槽、水道管まで思いのままにリノベーションしてしまう。イギリスでは趣味が高じてプロ並みの電子工具やタイマーリレーなどの電子工作ツールを自在に操れるアマチュアも少なくない。
また、古い教会や建物を保存する取り組みも重要なイギリス文化といえる。新しく建物をつくる際は、昔ながらの街の景観を壊さないようにその土地で作られた独特の色味のレンガを使わなければいけないというルールがあるほどである。
普段からこのような文化に馴染みのある彼らにとって、モノを大切に作り、新しいテクノロジーと組み合わせて作り変える日本の文化は大変興味深いという。古き良き文化と最新技術の融合を同時に楽しみたいという思いから、「旅マエ」で行き先を検討するイギリス人の間で日本が注目されているというわけだ。
いかがだっただろうか。
本記事ではイギリス人の「旅マエ」の視点から訪日旅行に関する嗜好をお伝えした。
飛行機で12時間も離れた場所にあるにも関わらず、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに合わせて是非日本を訪れたいというイギリス人は多い。この記事がおもてなしをする私たち日本人にとって、イギリス人ひいては欧州の多くの観光客への理解に繋がることを願っている。