【寄稿論文】「PCR検査付ツアー実証実験を踏まえた観光回復の提案」 東洋大学 国際観光学部教授 越智良典

  • 2021年7月29日

越智教授

「PCR検査付ツアー実証実験を踏まえた観光回復の提案」

東洋大学 国際観光学部教授 越智良典

要旨:2021年に入って緊急事態が常態化する中で、欧米ではワクチンの普及によって新型コロナウイルス感染症の新規感染が減少しつつあり、人流が再開されつつある。日本でも秋の集団免疫獲得に向けて、ワクチン接種が強力に進められている。この環境下4月に実施された(一社)日本旅行業協会(以下JATAと略す)のPCR検査付モニターツアー(以下モニターツアーと略す)の実証実験の意義を検証し、ワクチン接種とそれを補完するPCR検査の活用によって観光回復させることを提案する。

 

<目次>

1,JATAモニターツアー実施の背景

1-1 GoToトラベルの停止

1-2  無症状者からの感染対策

1-3  「新」感染症対策モニターツアーの立案

 

2.モニターツアーの実施結果

2-1 実施期間

2-2 実施会社

2-3 参加者数

2-4 陽性者の発生

2-5 4つの新たな感染対策

2-6 PCR検査付ツアーに対する評価

2-7 PCR検査体制

2-8 PCR検査の結果連絡

2-9 筆者補足:安心安全、旅行代金、企画のバランス

 

3.モニターツアーの成果

3-1 お客様の評価:健康管理の見える化

3-2 業界の合意形成

3-3 主な課題

3-4 手引きの作成

 

4.国内のPCR検査の普及状況

4-1 PCR検査の位置づけ

4-2 民間検査機関の活用例

 

5.ワクチンの普及とPCR検査の役割分担

5-1 ワクチンの普及と活用

5-2 CDCのトラベルアドバイス

5-3 ワクチンの普及活用に関する経団連の提案

5-4 自民党観光立国調査会のワクチンパスポートの活用提案

5-5 主要国の入国受入条件

 

6,ワクチンとPCR検査の活用による観光復活の提案

6-1 国際往来での活用

6-2 国内での活用

 

<本稿>

1,JATAモニターツアー実施の背景

 

1-1 GoToトラベルの停止

 

2020年7月22日から開始されたGoToトラベルキャンペーン(GoToトラルと略す)は、11月29日から感染状況の悪化に応じて制限が加えられ、12月28日に全国で停止された。

12月17日までに事務局に対して、参加施設から報告された利用者の陽性者は309名である。GoToトラベルの利用者(7月21日から12月28日)は宿泊ベースで8781万泊で、1泊の利用者が82%であることから推計7200万人以上の利用者となる。309÷7200万人=0.00043%となってGoToトラベルでは感染が拡がっていないことになる。

また、余暇ツーリズム学会誌第8号でも指摘したとおり、GoToトラベルが本格化し、右肩上がりに利用者が増えた9月、10月にあっても全国での感染者が横ばいであったことからも、感染防止のガイドラインが観光庁の調査・指導などで、関係者に徹底され、消費者向けのマナー「新しい旅のエチケット」も周知された効果がうかがえる。(参考資料①)

 

冬場に入り感染が拡大し、1月7日には緊急事態宣言が出され、東京などは3月中旬~4月中旬を除き、緊急事態宣言が常態化されている。JATAと観光庁では、GoToトラベルを再開するには、追加の感染対策が必要との議論が行われきた。

 

冬場の感染拡大については、浦島充佳教授が「新型コロナ データで迫るその姿-エビデンスに基づき理解する」で(参考資料②)、GoToトラベルだけが患者増の誘因ではなく、気候との相乗効果をあげ、特に冬場の換気が滞る点を課題としてあげている。また、「受け入れる側も旅行する側も、双方が十分換気をするなど3密対策を徹底すれば、GoToトラベルが必ずしも悪というわけではないだろう」と述べている。同書では地域別の人流の変化と感染状況の関連も解析されている。観光庁が保有するGoToトラベルの地域別利用者データと照合することで、より具体的な対策が考えられるかもしれない。一方で私たちは、これまでの二次感染例を手掛かりに検討してきたところ、鍵となるのは無症状者からの感染であろうと考えた。

 

1-2 無症状者からの感染対策

 

無症状者からの感染については、旅行業のガイドラインを監修して頂いた大越裕文先生(渡航医学会理事)から、2020年12月21日に英国の医学会誌BMJに掲載された最近の知見を紹介して頂いた。(参考資料③)

・以前80%とされた無症状の感染者の割合は17%から20%になっている。当初無症状の人の中からその後なんらかの症状がでる人は49%

・有症状者とこれから発症する人が感染拡大に大きく関与する

・有症状者の感染率は無症状者の3から25倍

・ただし無症状者は自覚がない為、多くの人と接触する危険性が高い

 

旅行業界・観光業界は大越先生の感染症対策セミナーを実施しており、そこで示された二次感染率の確率は以下のとおりである。

・無症状者の接触後感染 0.3%

・軽症者        3.3%

・中等者        5.6%

・重症者        6.2%

 

感染力は重症者のほうが明らかに高い。0.3%とはいえ、人流が増えて母数が大きくなれば軽視できず、当初無症状者でその後発症する人が49%いて、まったく症状がなく終わる人よりは感染力は高いことも懸念された。というのも、GoToトラベルにおいて、ツアー受付の段階では熱がなかったお客様がツアー2日目に発熱し、18名のクラスターが発生した事案があるからだ。JATAではその対策として、ツアー受付の際の体温測定だけでなく、健康チェックシートで体調を確認し、バス車内での食事を禁止するなどの追加措置をとっていた。これに、PCR検査を加えれば、スクリーニング効果はさらに増すと思われた。

 

1-3 「新」感染症対策モニターツアーの立案

 

そもそも、コロナの感染は一日当たりの感染率、一日一人あたりが接触する人数、他者に感染する日数の積(掛け算)とされている。 R(t)=p×n×d

①一日当たりの感染率(p):マスク、手洗い、三密対策

②一日一人あたりが接触する人数(n):人流を減らす、在宅勤務、テレワーク

③他者に感染する日数(d):PCR検査などで早期発見、早期隔離

 

この組み合わせで、7割の人流の削減と同じ効果があげられるということで、「New Normal」 が提案され、各業界のガイドラインはつくられた。①の換気をさらに徹底し、③でPCR検査を実施すれば、②の人流を落とさなくても同じ効果はあげられることになる。これは先に紹介した浦島教授も指摘している。

 

「他者に感染する日数を減らす」ことを目的に以下の4つを検討した。

①COCOA利用の義務化

②陽性判明時の報告の義務化

③参加1週間前、終了後2週間の健康観察(将来はPUSH型健康管理アプリ利用)

④PCR検査キットを利用した参加者の事前検査

 

これらを組み込んだモニターツアーを実施し、企画、運営上の課題やお客様の意見を集約し、GoToトラベル(団体ツアー)再開の検討材料とすることが立案された。特にPCR検査については、検査キットが普及し、民間検査機関が活用できるようになったことから、運用の手引きを作成する一助とすることを目指した。緊急事態宣言の終了時に直ちに実行することで、旅行業界で参加会社が募られた。

 

2.「新」感染対策モニターツアー実施結果

(参考資料④)

 

2-1 実施期間

2021年4月6日~25日

※緊急事態宣言により4月26日以降に予定した2本は中止された

 

2-2 実施会社

8社9コース(JTBメディアリテーリング、クラブツーリズム、阪急交通社、読売旅行、日本旅行、T-LIFEホールディングス、名鉄観光サービス、ワールド航空サービス)

 

2-3 参加者数

154名(各社12名~23名) 男性:女性=1:2

※10代~90代の男女が参加(60代、70代で全体の約6割を占める)

 

2-4 陽性者の発生

0人(最終ツアー終了後2週間経過時点)

 

2-5 4つの新たな感染対策

①陽性判明時のお客様による報告体制の確立

②COCOAアプリの登録

③ツアー実施前のPCR検査

④健康チェックシートを活用した体調管理

(対象期間:旅行前1週間、旅行中、旅行後2週間)

 

2-6 PCR検査付きツアーに対する評価

①「PCR検査をツアーに付けた方が良いか?」の共通アンケート項目回答

お客様 宿泊施設 バス事業者 食事・土産店
①   付けた方がいい 78% 60% 33% 54%
②   価格次第 13% 40% 67% 38%
③   特に不要 9% 0% 0% 8%

 

②PCR検査ツアーに対する主な意見

イ、お客様

・検査してもらえてよかった。安心して行けるので良い

・面倒ではあるが、全てのツアーにPCR検査を付けてほしい

ロ、実施旅行会社

・作業は増えるが、参加するお客様の安心感は大きい

・現場の添乗員の作業量・負担が増えた

ハ、宿泊施設、レストラン、土産店、バス会社

・お客様全員がPCR検査済ということが大いなる安心感につながっている

 

2-7 PCR検査体制

①検査方法

配送方式6社/来店方式1社/配送・来店を選択1社

②検査体制に関する主な意見

【旅行会社】

・PCR検査の一連の作業はかなりの負担となっている。キットの取扱い・送付方法問合せや、検査結果を全てのお客様への通知する作業などがその中心

・検査機関の受入体制次第であるが、出発日の3~5日前の受検がギリギリ限界

【お客様】

・初めての検査で戸惑った。意外と時間がかかった

 

2-8 PCR検査の結果連絡

①フロー:

・旅行会社へ通知3社/お客様へ通知3社/旅行会社とお客様双方へ通知2社

②個人情報提供の同意書収受の方法と取り扱い

・登録フォーム内で同意書を記入

・顧客が同意書に署名記入後、旅行会社へ返送(郵便又はメール返信)

・お客様自身で申し込みをし、結果のみ確認(個人情報提供の同意書収受無し)

③PCR検査結果通知の旅行会社での取り扱い

・顧客から同意書を取得した上で要配慮個人情報として取り扱う

・検査会社から当社へメールにて検査結果通知後、当社からお客様へ電話連絡

・国内用検査結果証明書のみ確認

④結果連絡方法に関する主な意見

・ツアー前、PCR検査キット送付、同意書回収、結果確認などの作業量が増えるが、参加するお客様への安心感は大きい

・PCR検査キットの送付に関する対応の負担が大きい。届いた・届かない、間に合う・間に合わないという時間的制約の中で、対応しなければならないことが大変

・PCR検査は、参加者にも安心感が増す反面、検査結果が判明するまでお客様は心配され、その件に関しての問い合わせが増えた。

 

2-9 筆者補足:安心安全、旅行代金、企画のバランス

JATA記者会見での公表資料を補足する。アンケート項目「旅行検討の際に重要視すること(複数回答)」の結果をみると、安心安全が一番重要視されているが、価格とテーマ(目的)のバランスも重要視されている

・安心安全73%、価格60%、テーマ(目的)58%、季節感37%

今回の各社のコースをみると読売旅行は「鬼滅の刃」の無限城にそっくりと評判の「芦ノ牧温泉大川荘」である。JTB旅物語は「東北三大さくら(弘前、角館、北上)と八甲田雪の回廊めぐり」、クラブツーリズムは「5つ星の宿西山温泉慶雲館」、阪急交通社は「デラックスバス「菫」を使用した日光、中禅寺湖」と、いずれもバスの定員を半分にして2日間で39000円から50000円以上というやや高めの旅行代金でも集客力がある旅行企画ばかりである。

 

3.モニターツアーの成果

 

3-1 お客様の評価:健康管理の見える化

クラブツーリズムが昨年6月に実施したアンケート結果を引用する。(参考資料⑤)

質問:新型コロナウイルス感染拡大に際し、「添乗員付きパッケージツアー」に対して、不安に思うことや懸念点はありますか?

回答の上位にあげられたのは

・1位(71.5%)他の参加者の渡航歴や健康状態がわからない

・2位(68.3%)バスや列車などの移動時に3密を避けられない

・3位(52%) 参加者のマナー(マスク着用や体調申告)が不安

・4位(51.3%)観光時に他の参加者との距離を保てない

・5位(48.7%)団体での食事

以上のように、他の参加者の健康状態に対する不安が上位を占めている

 

今回のモニターツアーのアンケートでは、次のような設問がある

質問:感染防止対策の取組の中で、安心感につながった取り組みは何ですか?
・1位 参加者全員がPCR検査を受けていること

・2位 旅行の目的地が感染状況の落ち着いている地域であること

・3位 添乗員による参加者全員の検温

・4位 健康状態記録シートを活用して旅マエ、旅ナカ、旅アトの健康管理がされていること

・5位:旅行終了後2週間以内に新型コロナウイルス陽性と診断された場合に、旅行会社に連絡を求める旨の案内健康管理を見える化した今回の取り組みが評価されている。また、NHKや読売新聞が同行取材して報道するなど、メディアでも好意的に取り上げられた。

 

蛇足であるが、筆者自身夫婦でモニターツアーに参加した。5日前に唾液検体を検査機関に郵送し、体温や健康状態を前後3週間記録した。さらに、旅行中はバス乗車の度にアルコール消毒、マスク着用、密にならない座席配置などの対策が実施されていた。ある意味窮屈な思いはしながらも、桜や八甲田の雪の回廊をたっぷり楽しめた。これは私だけでなく参加者多数の声であった。

 

3-2 業界の合意形成

モニターツアーを募った2月の時点では、すでにPCR検査付きツアーを実施している会社や、検査会社を紹介している会社があった。一方で、取り扱い人数が多い(一日10万名以上)大手旅行会社では、PCR検査の作業負担が大きくなることが危惧された。しかしながら、PCR検査付きコースも用意し、選べるようにすることが大切だということで意見が一致し、モニターツアーに大手がこぞって参加することとなった。

 

3-3 主な課題

JATA新型コロナウイルス感染症対策部会で討議され、手引きに反映された主な課題は以下のとおりである。

 

①PCR検査をすべてのツアーにつけるには負担が大きい

→更なる安心を求めるお客様に選択肢を提供できる

②PCR検査の精度が心配

→偽陽性の可能性もある点を明記し、最終的には医療機関で診察受けるよう推奨

③検査時期

海外渡航では72時間以内の検査証明を要請されているが国内では?→検体の郵送期間を考慮する。送付後の生活に気をつけて頂くことを案内する。

④検査結果は要配慮個人情報にあたる

→利用について必ず同意を得る

⑤検査機関の利用について

→「衛生検査所」または「医療機関」とする

なお、検査の種類は3つに大別され、その特徴は以下の通りである。

精度 実施時間 団体ツアーで使用する際の留意点
PCR検査 最も

高い

2~4時間+検査機関への搬送時間 ・旅行前に前もって実施することが必要

・検査後~旅行前の期間に感染してしまう恐れがある。

抗原定量検査 高い 約30分+検査機関への搬送時間 ・旅行前に前もって実施することが必要

・検査後~旅行前の期間に感染してしまう恐れがある。

抗原定性検査 ①②より低い

 

15~30分 ・旅行当日に実施する場合に限り可能。

・PCRでは陽性になる患者でも、陽性にならない場合がある。(ウイルス量が少ない患者等を見流すリスクがPCR検査より高い)

各検査の特徴(JATA手引きより)

 

⑥取消料問題

→旅行会社が解除権を行使して参加を断る場合は、取消料は取れない。本人からの申し出の場合はその限りにない

⑦健康チェックシート

健康チェックを台帳に書いていくのは負担

→LINE等を使ったPUSH型健康管理アプリの開発普及を観光庁に要望する

 

3-4 手引きの作成

実施結果をもとに、観光庁と協議の上、国内団体旅行(募集型企画旅行、受注型企画旅行、手配旅行)を対象に、事務フローや留意点をまとめた「国内団体旅行における民間スクリーニング検査の活用に係る手引き」が共有された。(参考資料⑥)

 

4.国内のPCR検査の普及状況

 

4-1 PCR検査の位置づけ

WHOのテドロス・アダノム事務局長は2020年3月16日の記者会見において「目隠しをして火と戦うことはできない。そして、誰が感染しているかわからなければ、このパンデミックを止めることはできない。テスト、テスト、テスト:すべての国に簡単なメッセージがある。疑わしいすべてのケースをテストする。検査結果が陽性の場合は、隔離して、症状が現れる2日前までに誰と密接に接触していたかを調べ、それらの人々も検査する。[We have a simple message for all countries: test, test, test]と述べた。              (参考資料7)

日本では当初、限られたPCRの検査資源を重症化の恐れのある人の検査に集中した。現在は市中に検査所もでき、政府も検査を奨励する方向に変わってきているが厚生労働省は、PCR検査を症状がある人の確定診断に使う資源との基本方針を変えていない。一方で、自民党の観光立国調査会ではワクチンとPCR検査の活用が提言され、同じく観光産業振興議員連盟では、抗原検査キットの活用が提言されている。

 

4-2 民間検査機関の活用例

春季キャンプ期間中の沖縄で、読売ジャイアンツスポーツ健康検査センターが開設され、野球、サッカー関係者だけでなく観光関係者もPCR検査が受けられた。現在都市部では病院だけでなく、民間検査機関による検査所も開設されている。今回のモニターツアーでは、木下グループ、にしたんクリニック、東亜産業、ジャパンヘルスケア、ヘルスケアテクノロジーズ、リプロアルが検査機関として利用された。「手引き」上は、厚生労働省から「衛生検査所」として認定されているか「医療機関」のいずれかであることが求められている。これは検査の信頼性と陽性判断後の治療が重要であるからだ。

 

羽田空港国内線PCR検査センターの運用実績を紹介する。4月12日に第1ターミナルと第2ターミナルの2か所に開設され、運営は木下グループ、方法は唾液の抗原検査、鼻咽頭部のPCR検査の2方法である。

抗原検査 PCR検査 両検査セット 合計 陽性者
4月10日から30日 7372 2875 4665 14912 98(搭乗予定3名)
5月1日

から9日

3740 1410 2248 7458 43(搭乗予定ゼロ)

(日本空港ビルデング㈱提供)

4月、5月の平均利用者は一日670名で、陽性率は低いものの毎日発生しているとされる。もともと航空機利用者を対象としたが、一般にも利用されている。陽性者は木下グループの病院でも治療を受けられ、早期発見、早期隔離治療に貢献している。

7月からはエクスプレスPCR検査が開始された。また、7月20日から8月31日までは、沖縄、北海道への旅行者で希望する人は、国が実証実験として検査代を負担することとなった。搭乗手続き前にスクリーニングを行えばリスクは大きく下がる。

 

5.ワクチンの普及とPCR検査の役割分担

 

5-1 ワクチンの普及と活用

ワクチンが症状の軽減に止まらず、感染リスクの予防になることが証明されてきた。また、ウイルスそのものを弱めてつくる旧来型でなく、株の変異に対応できる遺伝子情報に基づくmRNAワクチンが開発されたことは画期的だ。政府はワクチン接種をまず医療従事者から始め、次に重症化しやすい65歳以上を優先し、次に全世代に拡大している。並行して集団接種を行い、秋には集団免疫の獲得を目指している。多少の混乱はあるだろうが、実現に向けて力を合わせたい。

 

5-2 CDCのトラベルアドバイス

(参考資料⑧)

CDC(アメリカ疾病予防管理センター)はSARS、エボラ出血熱など感染症研究の最高機関であり、その旅行に関するアドバイスは、日本の旅行業界でも参考にしてきた。CDCによれば、2回接種の2週間後には抗体ができるとされている。CDCの「旅行上のアドバイス」には、「完全にワクチン接種されているか、過去3か月間にCOVID-19から回復した場合は、検査や自己検疫を受ける必要はない。それでも、すべての旅行の推奨事項に従う必要がある。

旅行中:飛行機、バス、電車、および米国内を移動する公共交通機関、および空港や駅などの米国の交通ハブの屋内で、鼻や口にマスクを着用する必要がある。旅行者は乗物の屋外エリア(フェリーやバスのトップデッキなど)でマスクを着用する必要はない。マスクの着用や社会的距離を含む、州および地方のすべての推奨事項と要件に従うように」とある。

 

5-3 ワクチンの普及活用に関する経団連の提案

(参考資料⑨)

経団連ではワクチン・タスクフォースのもとに、産業界、医学界で討議がされ、6月24日に政府に提言された。3つの段階を想定した取り組みが記述されている。

 

第1ステージ:65才以上の8割接種 医療体制の負荷解消(重症化対策)

(7月中下旬から)ワクチン接種の啓発(インセンテイブ)

 

第2ステージ:国民の5割以上が接種 接種率向上への働きかけ

(9月下旬から)ワクチンパスポートの国際往来への活用

 

第3ステージ:国民の8割 集団免疫の獲得

(冬から)  通常の日常活動への回帰

 

ワクチンパスポートの国際的な活用と同時に、国内消費への活用策が、交通、飲食、小売業などから提案されている。また、非接種者、未接種者への差別への配慮も指摘されている。もっとも注意すべきは、「ワクチンがないと何もできない」という間違った情報誘導(ネガティブ・インセンティブ)と考える。

 

5-4 自民党観光立国調査会のワクチンパスポート活用提案

自民党観光立国調査会はワクチンの活用に関して、早期に国際的に活用できるスタンダ―ドをつくるように6月18日に提言した。結果、7月26日から紙ベースでワクチンパスポートが発行されることになった。接種日、メーカー、パスポート番号、生年月日などが記載発行される。秋にはIATA(国際航空連盟)などが進めているデジタル版ワクチンパスポート(スマホにアプリで搭載)実現の方針も示されている。

 

5-5 主要国の入国受入条件

各国の日本国大使館ホームページなどを参考に、7月17日現在の主要国(G7諸国)の受入条件をおさらいする。

フランス:6月9日以降、感染状況に応じて渡航先国を三つのカテゴリー (緑、オレンジ、赤)に区分し、日本は緑(ウイルスの活動が活発でなく変異種がない)に区分。ワクチン接種証明書または72時間前以内のPCR検査または抗原検査による陰性証明書を提示。到着後の自主隔離不要。

イギリス:日本を含む全ての入国者に対して、10日間の自己隔離・自己隔離期間中の2日目と8日目の検査の受検、全国的なロックダウンルールの遵守を求める。出発3日以内のPCR検査による陰性証明書提示を義務付け。なお、英国内は7月19日からステップ4に移行し、規制の大部分が終了し、ガイダンスにより個人の責任が強調されることとなる予定。

ドイツ:EU理事会の勧告を受け,6月6日から日本に対する入国制限が解除。入国前48時間以内の抗原検査,または入国前72時間以内のPCR検査による陰性証明書が必要。ワクチン接種証明書又は快復証明書の所持者は陰性証明書が免除される。

アメリカ:1月26日より、海外から空路で米国に入国する全ての者に対して、出発前3日以内の陰性証明書の提示を義務付け。各航空会社は搭乗前に乗客の検査結果を確認することが求められる。

<入国後の行動制限>

・CDCは4/2よりワクチン接種完了者のガイドラインを更新、米国到着後の自己隔離を不要とした。ただし、各州・自治体で規制が異なる為、それに従うことが求められる。ワクチン未接種者は入国後3~5日後のPCR検査に加え、旅行後7日間は自宅待機が求められる。

・ハワイ州では11/6より、72時間以内の陰性証明を登録することにより、入国後10日間の隔離措置を免除する事前検査プログラムを開始。

日本:日本は、2021年1月からビジネストラック(短期海外出張)、レジデンストラック(駐在、留学など長期滞在)を停止し、一日2000名の到着に制限している。(外国人は500名前後、日本人1500名前後。)PCR検査で陰性であっても14日間の自宅待機を要請される。また、変異株の流行に合わせて、国によって3日間、6日間、10日間の指定宿泊施設での隔離を行っている。

 

6,ワクチンとPCR検査の活用による観光復活の提案

 

6-1 国際往来での活用

G7諸国ではワクチン接種証明または72時間以内のPCR検査陰性証明が受入  条件となっており、両者を一元管理できるデジタル陰性証明の開発が進んでいる。日本においても、デジタル陰性証明の導入と、過剰な規制の廃止、特に待機期間の撤廃を望む。そして、経団連の提案する第2ステージ(秋)から一部の国や地域から段階的に、相手国の受入状況、感染状況、航空便の運航具合などを勘案し、まずはビジネストラック、レジテンストラックの復活、ハワイなどの海外旅行の開始を提案したい。観光庁のインバウンド受入実証実験(10か国程度1000名)も早期に実施し、インバウンド復活の道筋をつけることを提案したい。

 

6-2 国内での活用

ワクチンの補助手段としてPCR検査を活用することが考えられる

 

夏:緊急事態宣言明け~9月

通常のガイドラインでのツアー実施

接種促進を兼ねた「ワクチン接種者向け団体ツアー」の実施

非接種者や未接種者にはPCR検査付きツアーの実施

 

秋:10月~11月

ワクチン接種が進み感染が沈静化することを前提に、GoToトラベルの再開

休日や週末と平日の料金差をつけてピークの平準化をして密を避ける

 

冬:12月~冬場

乾燥して寒く、換気が不十分になるので、換気の徹底など冬場対策を行う

ワクチン接種とPCR検査付きツアーを冬場対策として実施

 

ワクチンとPCR検査を有効活用することで新型コロナウイルスの感染リスクを下げ、国内、国際の人流を取り戻し、観光産業を復活を図ることを重ねて提案する。

 

参考文献

①余暇ツーリズム学会誌 第8号「GoToトラベルキャンペーンによる観光と経済の回復」 東洋大学 越智良典

②「新型コロナ データで迫るその姿 エビデンスに基づき理解する」

東京慈恵医科大学教授 浦島充佳

③British Medical Journal: Asymptomatic transmission of covid-19

https://doi.org/10.1136/bmj.m4851 (Published 21December 2020)

④(一社)日本旅行業協会「新」感染対策モニターツアー実施結果(2021年6月14日報道資料)

⑤クラブツーリズム記者会見資料 (2021年3月29日報道資料)

2020年6月20日~26日(6月19日に全国を跨いだ移動の自粛要請が解除の時点)で過去4年間の参加履歴のあるメルマガ会員へのインターネット調査。回答件数は21,603件。

⑥(一社)日本旅行業協会 「国内団体旅行における民間スクリーニング検査の活用に係る手引き」             (2021年6月14日報道資料)

⑦COVID-19に関するメディアブリーフィングでのWHO事務局長の開会の辞

2020年3月16日https://www.who.int/director-general/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19—16-march-2020

⑧CDCホームページhttps://www.cdc.gov/ Travel-Domestic Travel During COVID-19」

⑨経団連ホームページ提言  http://www.keidanren.or.jp/policy/

「ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の早期活用を求める」6月24日

 

※本論文は国際観光学会自由論文集VOL5(2021年9月発刊予定)に掲載予定です。

 
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