【失敗の法則から学ぶ~宿経営者の仕事大全46】そのアイデアは自慢話で終わる 孫田 猛


 旅館業に限らず、中小零細企業では、何といっても経営者の情熱、発想、行動力がその企業全体の力を表しています。全てにおいて、とにかく先頭に立って引っ張っていかなければ、この企業は失速してしまう。そのような危機感をいつもお持ちではないでしょうか。

 「何かいいアイデアはないか?」。幹部会でアイデアを募っても、いつも同じような回答しか出てこない。そこでお宿の経営者であるあなたは、業を煮やして自分のアイデアを提示し、各部門長へこれを実践する段階まで検討し、実現化しようと呼び掛けていますね。

 でも残念ながら次の幹部会で、経営者が出したアイデアを、さらに発展させていくような回答を出す人は、かなり少ないのでは。

 ならば、幹部に多くを期待するまでもなく、自ら実現までのプロセスを設計して、幹部に提示したほうが早いというものです。しかし自分のアイデアもある時点で発想がストップしてしまい、堂々巡りをしている。そう思ったことはありませんか。

 あなたのお宿では温泉の泉質がとても珍しいものだとしましょう。何とかこれを生かして集客の起爆剤にしたいと思っています。あなたはこの温泉を目指して来てくれるお客さまの割合が低いのを、悔しがっています。だから、その泉質の良さをアカデミックに追求したり、温泉の入り方を丁寧に説明したりして広めようとします。

 気づけばこの繰り返しを何年も繰り返しています。素材が温泉ではなく、地元の食材である場合も、同じような展開になっていきます。あなたはとても真剣にこのことに取り組んでいるので、コアな客層には届き、ファンとなってリピートしてくれています。しかし、全体としては残念ながら一部にとどまり、このお宿の絶対的な特色とまではいきません。販促媒体にはその特色を載せてはいるものの、多くの見込み客の心に響くまでには至っていません。

 わがお宿はとてもいい温泉だ、地元の食材はこんな魅力がありますとうたっても、見込み客からすれば、多くのお宿のお誘いのフレーズと変わりはないのです。

 集客に結び付けようとするアイデアの多くは、無意識のうちに自分のお宿の自慢話に向かっていきます。自慢話には誰も付き合いません。

 だから見込み客がこれだと振り向く接点とは、だんだんかけ離れていってしまうのです。集客アップ自体は自分起点の発想ですね。お客さまの視点からは、集客という概念は存在しません。あるのはあくまでも自分自身の課題解決であり、喜びを満たすことだけです。

 私はこの連載の中で、ゴールを明確化し、そこから逆算すべきだということを散々述べてきています。自慢話のゴールはお客さまの視点からかけ離れたところにあります。あえてしつこく言います。そこには接点はありません。

 アイデアのゴールはお客さまの喜びに結び付けることです。こことひもづいていなければ、ゴールは自己満足に終わってしまいます。もしくはどこかでスイッチが切れてしまいます。

 見込み客とはあなたのお宿で喜んでいる人たちです。あなたのお宿の提供商品は、お客さまにとっては目的達成のための手段、方法でしかありません。

 この人たちは温泉や食事を通して何を求めているのでしょうか。誰と分かち合っているのでしょうか。お風呂場、食事、チェックインやアウトの風景から推察しましょう。

 そうするとアイデアが「結果として」集客に結び付くプロセスが見えてきます。

失敗の法則その45
 アイデアが自慢話の延長になってしまう。 
 その結果、いつも空回りし、集客に結び付かない。
 だから、そのアイデアをお客さまの喜びとひもづけてみよう。

 https://www.ryokan-clinic.com/


(観光経済新聞25年3月17日号掲載コラム)

 
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