小泉純一郎元総理が好きである。どこが好きなのかと問われれば困るが、人間的魅力に尽きると思う。が、この元総理が「原発ゼロ」を説いて回っているのだ。政界引退後、小泉さんはフィンランドで建設中だった核廃棄物最終処分施設「オンカロ」を視察して「原発ゼロ」へと転じた。
地下400メートルに廃棄物を埋めて毒性が抜けるのは10万年後、という話を耳にして、小泉さんは「原発ゼロ」を決意したと私に直接話をしてくれた。日本は火山や地震が多く、強固な岩盤がないため「オンカロ」のような施設を造れない。そればかりか、レントゲン技師の被爆した衣服の処分場すら持たない日本、原子力発電を今後どうするのか、大きなテーマである。福島原発の事故以来、「原発は安全」という神話は消滅して久しい。
しかし、わが国の電力政策は、まだまだ原発と石炭火力発電に依存せねばならないという。政府のエネルギー基本計画は、2030年度の発電全体の約8割を原子力と化石燃料で賄うとしている。再生可能エネルギーは約2割、多くとも2割4分となっている。地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」への貢献を考えれば、再生可能エネルギーを主力電源にすべきだと考えるが、原子力と火力の存続を前提としているのが悲しい。再生エネルギーの固定価格買い取り制度の見直しでは、大規模太陽光発電は、どうも除外される見通しのようだ。その部分も気にかかる。
わが国の必要不可欠な電力の安定供給は、結局、火力発電と原子力発電に頼るしかないという一言に尽きる。だが、原子力発電所もせいぜい20基弱の稼働にとどまるだろうから、詰まるところ火力発電に依存せねばならなくなる。大量の二酸化炭素(CO2)を排出する石炭、石油、液化天然ガス(LNG)で賄うのだ。再生エネルギーを増加させたいところだが、現実は困難を伴うらしい。
国際的には、「火力か原発か」の選択であり、日本は双方を用いる。ドイツは火力、フランスは原発である。気候変動リスクを考えれば、温暖化対応のためにも火力を減少させ、自然災害を防ぐ必要がある。基本計画では、再生エネルギーを主力電源にするとうたってはいるが、4分の1以下にとどまる。政府は、2050年までに火力発電をゼロにしたい考えだ。
固定価格買い取り制度(FIT)が実施され、太陽光発電事業は成熟しつつあるかに映る。だが、経済産業省は大規模な施設を持つ事業用の電力を供給する業者にはFITの廃止を検討中だという。FITで割高な電気を電力会社が買い続ければ利用者の負担が増大するからである。太陽光で発電した電気を充電して夜間に使うための蓄電池が活用され、今後とも再生エネルギーとしての太陽光発電が増えて、電力の地産地消が常識になろう。
太陽光による発電出力量が日本一である浜松市の取り組みに注目すべきだ。毎日新聞によると役所内に相談に応じたり、地権者や住民との調整をする担当課を設置し、地元企業が再生エネルギー事業に参入しやすいようにしているという。市は、市内の再生エネルギーと自家発電設備による電力の自給率を10・7%にするという目標値を明示し、積極的に取り組む。日照時間が長く、太陽光の発電出力量が日本一になった背景には多くの地元企業の参入がある。また、市が一部出資する「浜松新電力」を設けて、市内の太陽光発電所の電気を買い取り、公共施設に売電するというビジネスも展開中だ。私と同期の代議士だった鈴木康友市長は、「自治体の調整能力が問われる」と心配する。
太陽光発電から風力発電、地熱発電、バイオマス発電等が普及する時代を迎えて、国がガイドラインを示していないため混乱すると鈴木市長が読む。太陽光パネルが安価になったように、技術革新が進み、どの自治体にも多様な発電施設ができる時代になる。そのための準備を各自治体はしているのだろうか。浜松市のように市が協力する姿勢が好ましい。CO2の排出だけは、なんとしても消滅したいものだ。地球温暖化だけは避けねばならない。