【地方再生・創生論 279】「学制150年記念式典」に参加して 松浪健四郎

  • 2022年10月8日

松浪氏

 明治5年、明治政府は学制を発布、全国に学校を造り、全ての国民が教育を受けることができるようにした。近代教育制度の始まり、国家の礎となる教育に維新政府が立ち上がった。初代の文部大臣は、鹿児島出身の森有礼(ありのり)。島津藩が鎖国の時代に、こっそり英国に青年たちを留学させたうちの1人であるが、近代日本の教育制度の基礎を確立した。

 以来、150年、令和4年9月5日に東京・国立劇場で、「学制150年記念式典」が挙行された。

 天皇・皇后両陛下をお迎えして、新型コロナウイルス感染防止に万全を期して、さらにテロ対策に万難を排して開催された。文字通り厳重な警戒体制、どこを向いても私服の警察官が目立つ。安倍晋三元総理の銃撃事件の影響だろうが、ちょっと窮屈さを感じる。元文科大臣をはじめ、元文部官僚や文教族と呼ばれる国会議員たちも出席。私の席の斜め前が田中真紀子元文科大臣、目と目が合ったので軽く会釈した。

 永岡桂子文科大臣の式辞に続いて、天皇陛下からおことばがあった。「時代や社会の変化に対応しつつ、誰一人取り残されず、誰もが自分らしさを大切にしながら学ぶことができ、一人一人の可能性が最大限に引き出される教育の実現に向けた動きが着実に進むことを期待します」と述べられた。冒頭、陛下はICT教育の普及についても語られた。

 3番目が岸田文雄総理の祝辞。ここまで不思議なことに、誰も森有礼について語ることがなかった。教育学や教育史を学んだ者たちは、必ず森有礼に時間を割くのが一般的なのだが、私の耳に入ってこなかった。おそらく、森有礼が1889年に国枠主義者の手によって暗殺されたからであろうか。わずか42歳の若さであった。安倍元総理の事件を想起させてはならないという配慮が働いたのかと私は想像した。森有礼は、英国に次いで米国にも留学した。彼の教育思想は、自由を尊ぶ英米の影響を受けたものである。

 私は、この貴重な式典に参加して思ったのは、かかる式典も各地の自治体でも行い、政府だけの行事にしてはならないということだ。教育の礎を再確認し、地域社会での教育功労者を顕彰するなど、地域の教育や学校にスポットを当てることも大切だと考える。小中学校の記念式典等が行われているとはいえ、50年単位では少なすぎる感じがする。

 細田博之衆議院議長、尾辻秀久参議院議長そして戸倉最高裁判所長官の祝辞があった。やはり、誰も森有礼初代文部大臣について触れなかった。また、全員、紙に書かれた文章を読み上げるだけで味気なかった。学校教育の大切さを、自分の言葉で話せない高官ばかり、ちょっと館内は白け気味。式典とは、そんなものなのだろうか。救われたのは、155名が文科大臣から表彰を受けられたことに尽きる。

 国歌演奏はテープで流し、コロナ禍のために斉唱できず盛り上がらず、式典にふさわしい企画もなく粛々と終えた。入場の際も、退場の際もテロ対策のおかげで時間を食う。こんなに過敏な警戒を私は体験したことがなかった。金属探知機をくぐり、招待されながらも疑われる出席者。「学制発布150年記念式典」とは、とても思えない情景と待遇に接して、私は少し情けなくなった。

 治安がいいのは、国民に教育が行き届いている証拠で、日本国はそれを世界に誇ってきた。が、今や発展途上国並みの体制で式典を開催せねばならなくなったことを悲しむ。

 近年、自治体での式典が減少している。成人式だけの自治体も多いという。あとは縮小傾向にある慰霊式くらいである。

 郷土を愛する人づくりのためには、人を集めて楽しませる企画が求められる。盆踊りや祭りもいいが、さまざまな記念式典も計画してほしい。人間は集まる習性をアメーバと同様に持つ動物なのである。情報交換もいいし、友だちづくりにも貢献する。現代社会は、自治体の企画力が問われる時代に突入していることを知るべし。

 
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