【地方再生・創生論 273】深刻化する「8050問題」 松浪健四郎

  • 2022年8月26日

松浪氏

 2年前、長男がボーガンで4人を死傷させた宝塚市の事件は、この家族に何があったのかを知りたくなる。母親、弟に祖母までも殺害、伯母を負傷させた背景に何があったのか。家庭崩壊は容易に想像できるが、この人間離れした事件は、人間の心の破綻が起爆剤となったのだろうか。長さ60センチの矢が、ボーガンによって家族の頭を貫通させたのである。

 わが家の娘はベトナムの大学で教壇に立ち、息子も自立してマンションに住む。私と家内の2人生活、不自由はしていないが元気であるうちは問題がない。私たち夫婦も70歳を超え、無理のない生活、ストレスのたまらない生活を営むが、心配点がない訳ではない。高齢だからといって、私たちは引きこもることもなければ、近所づきあいもゼロではない。

 「8050問題」は、一昨年ごろから注目されるようになった。高齢の親が、仕事に就かないで引きこもり気味の中年の子を支えて苦境に追い込まれた生活をする家族の様態をうたう「8050問題」。親が80歳代、子が50歳代でありがちなので「8050問題」という。内閣府の調査によれば、全国でこの年代で引きこもる人は実に61万3千人に上る。あくまでも推計だが、無視できない数字だ。中高年の引きこもり、これは大きな社会問題である。

 昨年のニュースは、東京都内のマンションで暮らす母娘2人が、異臭で発見されたとのこと。娘の遺体にはタオルがかぶせられていたが、母親は栄養失調でそばで倒れていたらしい。この悲しい報道は「8050問題」そのもの。かかる親子の孤立死は、もはや珍しくなく、全国に広がっているのだ。

 毎日新聞は、変死事案を取り扱う全国の警察本部に対し、心中の疑いや火災など事件や事故の可能性がある場合を除外して「8050」世帯とみられる子が、50歳以上の親子で同時に2人が死亡した状態で発見されたケースについて質問した。やはり大都市に「8050」世帯が多く、該当する死者数も多かったという。

 日本社会は、免許・資格を大切にする。多くの職業は資格がなくとも就けるにつけ、人間関係を構築できる人でないと務まらない。団体、組織の中で生きるためには、協調性や人間力が問われる。集団の中で生きてゆけぬとなれば、引きこもり族になってしまう。当然、人間関係がうまくなければ結婚もできず、資格や免許もなければ社会は受け入れない。

 「8050問題」は、社会のゆがみである。社会というふるいにかけられ、網の目から落下した人は、家で再び親に養われる。かかる現象は全国に広がり、社会性がないため隣人との交際、交流がなく孤立していく。両者高齢であるため、1人が死亡すれば1人も危ない。この問題が珍しくなく一般化しているのだ。

 年金暮らしや生活保護だけでは生活に余裕がない。余裕がなければ、隣人との交流は困難。高齢の親子は、役所に相談もしないため病気や障害の有無についての情報もない。近所の人との接点も薄いため、孤立化が進む。

 政府も「8050問題」を重視し、昨年度予算で地域共生推進事業を開始した。これに伴って全国の自治体は、「8050問題」に加えて介護や育児等に直面する家族を支援するための「地域共生推進課」を設置する必要がある。自治会内にある福祉委員会を通じて困窮に苦しむ家庭を調査したり、孤立化している家庭情報の収集をしたりして、役所が住民情報を把握しておく必要がある。

 各自治体は、通報があったり、相談があって初めて動きだすのが常で、それ以上のサービスを施すと逆に「自由の侵害」で叱られた。だが、これだけ「8050」親子の孤立死が全国で広がる現在、ある程度の住民への干渉が求められようか。この「8050問題」は、今後、さらに深刻になる可能性がある。

 それなりの学歴があってプライドを持てば、近隣の仲間入りは容易でない。高学歴住民が増加するにつれ、結婚しない人が増えるに伴って「8050問題」が大きくなろう。自治体の「地域共生推進課」の活躍に期待する。

 
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