【地方再生・創生論 264】古人の遺産「石垣」を再評価しよう 松浪健四郎

  • 2022年6月16日

松浪氏

 竹中工務店の広報部が季刊で発行している「アプローチ」という広報誌がある。一流執筆陣に一流写真家、いつも私は楽しみにしている。他社も工夫した広報誌を発行しているが、建設会社や設計会社のものが優れているし、豪華である。編集方針は、たいてい時代の先取りだ。

 「アプローチ」の特集(2021夏号)は、「石垣を築く」だった。全国の古くからの城や建物の土台たる石垣の評価と美しさを、素人の私たちに教えてくれる。

 私は、最初、石垣で驚いたのは、大坂城の大きな石である。小豆島から運んだと耳にして、権力とその威光のすごさに腰を抜かした。機械や道具のない時代、人力と知恵、工夫で権力者たちは築城した。この現象は日本のみならず、世界中の歴史は「石」の活用であった。インダス文明のごとく、「石」を入手できない地にあっては、レンガを焼いた。ハラッパーやモヘンジョダロ遺跡を見学すれば、レンガの使用は人類にとって大発明だったと理解することができようか。

 私は、大阪南部の泉佐野市上瓦屋町で生まれた。昔は盛んに「瓦」を焼いた町だったらしい。「瓦」と「レンガ」の違いは論じるまでもないが、人々が火を用いて建材を製作した共通点を持つ。「石」は自然の建材、その積み方に技術が求められた上に、どの国でも美意識を発揮しているのが面白い。

 エジプトのギザにあるクフ王の大ピラミッドを見て、驚嘆しない者はいない。いかに王が絶大な権力を誇っていたか、容易に想像することができる。南アメリカのマヤ文明、アステカ、インカの文明も「石」の活用であり、ギリシアやローマだって同様だ。

 日本は「木の文化」の国ではあるが、基礎に「石」を積んできた。三浦正幸氏(広島大教授)によれば、「日本の石垣の歴史は飛鳥時代の7世紀後半で、百済人の亡命によって伝えられた」という。

 城や建造物のみならず、段々畑、棚田、河川の堤防、橋、家屋の塀等、どこにでも石垣がある。「アプローチ」は、石積の技術と石垣の美しさの再発見を示唆してくれていた。

 この地震大国でありながら、千年以上も崩壊せずに石垣が遺っていることを、もしかすれば私たちは忘れてはいないだろうか。見向きもしなかった古人の遺産、大切にしなければならないのは当然とし、再発見、再評価に取り組む必要がある。

 名だたる古城はともかく、私たちの住む町や村にだってさまざまな石垣がある。それは立派でなくとも、私たちの祖先の遺した作品であり、現在でも役目を果たしていることに気付くべきである。各自治体は調査すべきである。

 日本の石垣は、モルタルを使用せずに積んでいるところに特徴があって、他国では見られない工夫と技術が生きていると三浦教授が説く。どの自治体も石垣を遺すという、保存するという方針、姿勢が重要だ。

 北野博司東北芸術工科大教授の論文が興味深い。石垣は、築石や裏込と呼ばれる小さな石(栗石)と背面地盤の三者が物性および振動特性が異なり、地震のエネルギーをうまく吸収するのだという。部材の接点が無数にあって、全体が揺れても大きな変形を抑制するらしい。また、土圧を高める背面地盤の水分を自然に外へ逃がす機能を持っていると北野教授が言う。文化財的価値を持った石垣を遺すことは、遺構を現状保存するだけではなく、技術者や石工の伝えてきた遺産の引き継ぎにもなる。忘れかけていた遺産の再発見だ。

 地震や大雨にも適応する柔構造の石垣が、私たちの住空間のすぐ近くにある。古い町であれば、どこかしこに石垣が現存する。歴史的な城や寺院の石垣に感心させられてきたが、私たちの近辺にも小規模であっても石垣が遺っている。文化財と決め込み、保存について自治体は考えてほしいし、修理すべき箇所は修理すべきである。

 コンクリートの堤防や塀なんて味気ないではないか。歴史を遺す、私たちの近辺に貴重な遺産があることを知るべし。

 
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