松浪氏
和歌山県御坊市へ行ってきた。市内に津波の際に逃げ登るためのタワーが建つ。「地震から30分で津波がくる」と、あちこちに市が忠告のために立てた看板がある。四国・高知を訪れたときも多くのタワーを目にした。現在では「南海トラフ地震」（旧東南海・南海地震）の津波に対応する準備が進む。二階俊博代議士が、情熱と執念で成立させた対策措置法が生きていた。この法律は、審議なしで全会一致で成立したのだ。
先日、関西大学の社会安全研究センター長の河田恵昭教授とお会いする機会があった。防災・減災・危機管理の第一人者であられるだけに、台風や地震、津波のことなどを容易に理解できるように説明してくださった。そして、「災害の日本史」（池田書店）なるマンガ本をプレゼントしていただいた。磯田道史静岡文化芸術大教授の作品に河田教授が防災監修をされている。マンガ本とはいえ、私たちにも役立つ立派な防災のための本である。
地震、津波、噴火、台風・水害、土砂災害、感染症、防災・減災や復興の7章からなる本。マンガだけではなく、各章に「未来に備える」というコラムが多くあり、ついつい読まされる内容となっている。また、災害についての教養ともいえる知的な記述も豊富にあり、どうしても読んでおきたい1冊となっている。例えば、薩摩藩では「郷中教育」が行われ、非日常に対応できる人材育成の教育を重視した。
例えば、「主君の仇（あだ）と親の仇がいるときは、どちらを先に討つか」を問う。時間をかけて考えてはいけない。答えは「主君の仇も親の仇も行き当たり次第に討つ」。一般的な教養は平時の折には大切だが、危機の際には役立たない。幕末維新の動乱で薩摩藩士が長州藩士と共に活躍したのは、郷中教育の賜物だと解説してくれる。現在の学校教育の中でも、非日常に対応する教育が必要である。
ＮＨＫの大河ドラマ「青天を衝け」の中に安政江戸地震（1855年）があり、水戸藩の重鎮たちが犠牲になったシーンは忘れがたい。特に儒学者、思想家として全国に知られ、他藩の実力者たちにも大きな影響力を持っていた藤田東湖も亡くなった。直下型のマグニチュードは推定で7.0くらいで、震源地は江戸湾北部・荒川河口付近と推測され、幕末の江戸をさらに大きく揺さぶった。地盤の弱い下町では被害が大きかったが、町人たちはわずか2年で復興させたという。犠牲者数は、約1万人と推定。
古文書に基づいて過去の歴史的な大災害をビジュアル化した著作「災害の日本史」は、私たちの命を守る教科書となっている。子どもたちだけではなく、あちこちに置いて1人でも多くの人たちに読んでいただいて、減災に役立てたいと思う。二階俊博先生が法案を成立させる際、多くの代議士たちに「地震の恐怖」を説かれ、私は文科省の副読本に「稲むらの火」を復活させるよう運動した。浜口梧陵の逸話は、あまりにも有名だが風化しつつある状況を私たちは心配した。
河田恵昭教授の話を聴いていて、私は災害時に多くの人たちが過ちを犯してきたことも学んだ。東日本大震災の調査では、車で避難した多くの人たちは交通渋滞に巻き込まれた。緊急車両の妨げにもなった。救える人も救えず、被害は拡大するばかりだったという。「自分は大丈夫」と決め込み、危険を過小評価する心理的な働きを正常化の偏見（正常性バイアス）というが、避難しない人も多い。
東日本大震災の49日目、二階俊博先生と私は、クウェートやカタールの駐日大使を伴って現地に入った。特に多数の児童を失った大川小学校へ赴いた折、避難の失敗を教えられた。日頃より避難訓練の必要性を学んだ。加えて、「災害の日本史」のような本を楽しく読んで、災害の恐ろしさを知識として身に付けておくことも大切である。
日本は災害大国であることを忘れてはならない。常にその恐怖を教えておかねばならず、各教育委員会や自治体は、その啓蒙のために手抜きせずに対応してほしい。備えあれば、憂いなし、だ。
