【地方再生・創生論 234】「無国籍者」をなくす努力を 松浪健四郎


松浪氏

 私が3年間暮らしたアフガニスタンには、戸籍もなければ土地台帳もなかった。数年前から選挙が行われるようになったが、投票を終えた有権者の手にスタンプが押されて不正防止をしていた。住所もあやふやで、首都カブールに住む私の住所は日本大使館気付であった。間違いなく配達される住所だった。

 中国政府は、報道によると第3子までの出産を認める方針だという。永い間、人口を抑制するために、人口10億人を突破した頃、鄧小平政権は1979年から夫婦の子供を1人に制限した。いわゆる「一人っ子政策」の実施だ。日本や欧米の自由主義国では考えられない政策だが、中国は強行した。で、家を継ぐ長男を大切にする伝統から、女児が生まれると出生届を出さず、無戸籍児が急増する国となる。

 いや、間引く家庭が多くあり、人権なんてない国らしく闇に葬られる例が後を絶たなかった。この深刻な社会問題を日常のものとした政策は、5年前にやっと見直された。夫婦に第2子の出産を認めたのである。人口が減少傾向に走りだしたからだが、「一人っ子政策」に慣れてしまった夫婦たちは、子供を作らなくなってしまったのだ。そこで第3子までを認めることにしたという。

 出産制限を加えると、男女の人口比率を狂わせるばかりか、無戸籍児を量産することになる。発展途上国ならいざ知らず、先進国の国内で、両親が判明しているのにもかかわらず、無国籍や無戸籍者を出す社会があった。国民でありながら、住民でありながら1人の人間としてサービスを受けられない人たちを作り出してきたのである。わが日本にも相当数の無戸籍者がいるにもかかわらず、政府も自治体も十分に現実を把握していない。

 これでは日本国も先進国とはいい難い。親の事情、家庭の事情等で出生届が出されなかった人たちが、「無戸籍」となる。この人たちの不幸について、自治体や私たちは知識を持つ必要がある。同じ日本人が、親や家庭の事情等で国民としての行政や福祉のサービスを受けられない悲劇、何としても正常にせねばならない。だが、無戸籍状態を解消するには一筋縄では進まない。市区町村や法務局に相談し、または裁判手続きなどをした後、出生届を提出して戸籍に記載されるという。この面倒くさい手続きを各自治体が無戸籍者に協力しているか、放置したままか、自治体のサービスが問われる。そこで産経新聞は、全国の74自治体にアンケートを実施した(2020年5月)。

 「無戸籍の住民を把握しているか」という問いに、「支援が十分できている」と回答したのは、わずか8自治体にとどまる。もちろん、裁判手続きが必要な場合が多いため、自治体が介入しづらい(産経新聞)と漏らす自治体の当事者もいて、無戸籍状態の住民を救済するのに苦労している印象を受ける。ただ、無戸籍であっても、一定の要件がそろえば住民票への記載が可能であり、小中学校への就学にも問題はないという。児童手当の支給やパスポートの発行も可能だという。

 産経のアンケートでも、無戸籍者に対して住民票を作成している自治体が多数に上るというから、問題がないかに映る。しかし、無戸籍者が必要なサービスを受けるためには、無戸籍を解消する司法手続きをとっていることが前提となる(産経新聞)。デリケートな案件が大半で、自治体が踏み込めないともいう。各自治体には統一した解消法がないようだ。

 無戸籍のままでおれば、多くの不利益な問題もある。産経新聞のアンケートで明確になったことは、自治体の一つの部署では解決は難しく、総合的な窓口が必要だということ。「無戸籍者」本人の責任ではなく、さまざまな事情によって出生届が提出されなかった原因が、「無戸籍者」を産んだのである。憲法14条にあるごとく、すべての人たちが平等で差別されてはならない。そのために、各自治体は住民の「無戸籍者」をなくすために努力するべきである。手続きの面倒くささを感じさせないように協力してほしいものだ。

 
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