【地方再生・創生論 218】水害を防ぐ陸上競技場 松浪健四郎


松浪氏

 体育大学は各種目のスポーツ施設を必要とする。日体大健志台キャンパス(横浜市青葉区)は、丘陵地にあるが施設が十分に整備されていて広い。段々畑のようになっていて、一番上には野球場があり、その下がサッカー場、そしてラグビー場、陸上競技場が下にある。

 集中豪雨の際、陸上競技場に雨水がたまり、整備に費用と時間がかかった。ラグビー場の人工芝を張り替える際、業者からラグビー場の下を調整池にして、雨水をコントロールすれば、陸上競技場は被害に遭わないと教えられた。そこで工事費用はかさんだが、調整池を造ることにした。表面からでは、その調整池は見えないが、大雨や台風に備えて水害から施設を守るようにし、私は調整池の必要性を学ぶことができた。

 先日、友人が三浦半島の逗子市に住んでいるので訪問した。鎌倉、逗子、葉山は武家文化の地、明治以来の鉄道沿線で別荘地として栄えた。政治家、軍人、文化人等の有名人が、この温暖な地を保養地としても求めた。もとより観光地、湘南地方に続く人気高い地域である。

 友人が教えてくれた。逗子市の池子米軍弾薬庫跡のスポーツ施設が、市民との共用であるが、陸上競技場が水害を防止する調整池を兼ねているというのだ。

 もう昔になるが、池子弾薬庫の返還運動のニュースは、記憶の片隅に残っているが、現在は市の体育協会によって管理、運営される「池子の森自然公園」となっていた。逗子市に返還された広大なスポーツ施設があり、JRの踏切を越えると、右手に米軍の住宅地が広がる。警備は厳重である。その前に立派な400メートルのトラックのある陸上競技場がある。タータントラック、6レーンの走路。

 この競技場をよく見ると、ちょっと深めの皿状になっている。住宅地に比して、5メートルばかり低地にある。この競技場の上に野球場が二つあり、その上にテニスコートがある。トンネルをくぐって上へ行くとさまざまな施設とハイキングコースがあり、米軍の人たちの家族と市民が共に憩いの場として活用していた。親子連れが多い。縄文と弥生時代の遺跡もあり、前方後円墳まであるから驚くが、市は資料館を設置していて自由に見学できる。返還後の活用は見事の一言に尽きる。

 陸上競技場は低い山々の下にあり、側を田越川という二級河川の支流が流れる。この川は暴れ川で、2019年の台風15、19号は関東地方にも大被害をもたらし、田越川も大増水。その水がトラックに入り、トラックは大プールに転じて調整池となる。毎年、3、4回は田越川から水がトラックに流れ入り、被害を防ぐという。調整池が求められたのは、逗子市の地形と関係がある。

 逗子市は、猫の額のような街で、山と海の間が狭いために台風や大雨となると、市民たちは田越川の氾濫を心配せねばならなかった。田越川は深いがくねくね市内を蛇行して流れるばかりか、川幅が細いのだ。で、弾薬庫が返還されると、市は米軍と交渉して調整池兼用の陸上競技場を建設した。ここでは米軍は、アメリカンフットボールの試合をしたり、サッカースクールの施設として市民と共同で活用している。

 条件付きで返還された米軍の弾薬庫が、スポーツ施設だけではなく、調整池として機能し、市民生活を支えていた。梅雨の季節をもち、台風があり、集中豪雨のある日本。しかも細い河川が町の中を流れ、ことあるたびに水害の被害に遭ってきた。

 おそらく、調整池を造る土地、そのスペースがないのだろうが、各自治体はその建設も視野に入れておかねばならない。各地方の溜(た)め池の活用が国土交通省に見直されているが、この国にあっては調整池が必要だ。

 逗子市では、米軍の悪口を耳にしなかった。基地のある地域は、日米の交流が盛んであるが、互いに安全・安心を考えて、その施策を実現させるべきである。ともかく、調整池の整備を考えて人々を水害から守っていただきたい。日体大の調整池も役立っている。

 
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