【地方再生・創生論 212】文化人の掘り起しと活用 日体大理事長 松浪健四郎


 日曜日の朝、NHKテレビは9時から「日曜討論」を放送する。タイムリーな政治課題を各党幹部が議論する。が、私は2チャンネルの「日曜美術館」を見る。政治問題は、日々の新聞が伝えてくれる。口角沫を飛ばす議論、所属政党の支持率を計算して発言する。

 文化に興味のある私は、「日曜美術館」を楽しみにしている。時間をかけて1人の作家を追ったり、地方の美術館での美術展を紹介したり、毎週の番組が一本調子ではなく多彩だ。制作側にも芸術センスが求められていて、視聴者の意表を突く構成も見ごたえがある。

 毎日、新聞を読む。ほとんど見出しと小見出しを見て、記事をあんまり熱心に読まない。週刊誌は新聞広告を見れば、それだけでも十分、買って読むまでもない。週刊誌は、売らんがための記事をバナナの叩き売りのごとく並べる。見出しと内容が異なる場合も多い。私が政治家時代、幾度もターゲットにされた。が、これも自由主義社会の文化なのである。

 新聞の歌壇への投稿を楽しみにしている人たちが多数いる。川柳欄への投稿も仕事のごとく熱心に打ち込む人、そのファンの多さに驚く。圧倒的にペンネームを使う作者も多いが、本名で投稿する人たちもいる。どの新聞も名前の上にその人の住む自治体(投稿者の)名が記されているのが一般的だ。私は、その自治体名に眼が走る。「力作と呼びたいような厚化粧」(取手・崩彦)と毎日新聞の万能川柳にあった。

 川柳は大衆の心境をうたっているので面白い。俳句や詩も、和歌も、それぞれの特徴があり、時節を読む人々の心が弾む。俳人、歌人、詩人が全国にいる。どの自治体にも多数いると決めつけていい。かかる文化を大切にする住民たちに自治体は、教育委員会が興味を持たない。つまり、自治体の中に文化人が不在で、市報や町報に投稿欄を設ける程度にとどまる。時節を読む文化人の活用を自治体は考え、文化の灯のともる街づくりを考えてほしいものだ。

 「失言というレガシーを置いて去る」(立川・福井康修)。このよみうり時事川柳は、秀逸である。私とも関係深い森喜朗元総理の五輪組織委員会長の失言問題を17字で表現する感性。こんな感性を持つ人たちが、どの自治体にもいる。この文化人たちを自治体は掘り起こして、さまざまな面で協力してもらうという姿勢を持ち、文化香る街を作るべし、だ。

 政治は近代化を推進させ、それは全国の地方にまで行き届いた。が、そのハード面だけで住民の心を満たすことはできない。それほどの予算を必要としない住民の心づくりに各自治体が取り組み、特徴ある自治体を創る時代に突入している自覚が求められている。

 書道に精を出す人たちも多い。茶道、華道、舞踊、長唄、三味線等を趣味に持つ人たちも多数いる。子どもたちの文化芸術のために教育委員会は熱心に取り組むが、大人たちの文化については無関心。この人たちの文化力をいかに自治体が活用するかを考えるべきである。

 私は、今年の年賀状に俳句を詠んだ。「雪富士の 威厳さを観て われ赤子」。多分、専門家の評では下手なのだろうが、「謹賀新年」「賀春」だけでは面白くない。住民が文化や芸術に興味を持ち、面白い文化性の高い街づくりの時代なのである。

 私の勤務する日体大は、美術館にも負けない彫刻作品が並ぶ。文化勲章受章者の作品が、あちこちにゴロゴロある。壁面は中国・敦煌の莫高窟の身体文化に関する実物大の模写図で埋め尽くされている。「スポーツは美の追求」であるがゆえ、芸術を大切にしている。

 人間は、想像通り予想通りであれば感激しない。意表外であれば驚き、感嘆する。そんな自治体を創る発想が必要な時代に私たちが生きているのだ。そんな発言をしてくれる文化人を住民の中に求めて、面白い自治体を創造してほしい。文化活動の活発な自治体は、歴史や教育活動を大切にする。ハード面からソフト面へかじを切る自治体が再生するに違いない。

 
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