プロ野球で活躍した清原和博選手の手記を読んだ。覚醒剤で逮捕され、裁判で執行猶予。それでも覚醒剤の誘惑に苦しむという。いかに依存度が高いかを教えられる。人間は、強いように見える人でも、己自身との葛藤に負けてしまう。この心の病気は手ごわいのだ。
私は半世紀、ニコチン中毒患者だった。タバコさえあれば、どんな大舞台でも平静を保つことができた。タバコ依存症で、犯罪でもないのでやめる気はサラサラなし。だが、悪性リンパ腫と膵臓(すいぞう)がんの手術と治療を受け、入院すると、タバコを欲しくなくなった。この不思議な現象に自身も驚いたが、やはり「命」を意識したからだと思う。で、依存症なんて自分自身への甘えだと私は決めつけるに至る。
コロナ禍で、パチンコ店への出入りの自粛要請があった折、開店している他府県の店へ行く客が多数いた。おしなべてパチンコ依存症患者たちだ。新型コロナウイルスが恐いはずなのに、それでもパチンコをやめられない。ギャンブルには、依存症がつきまとう。カジノ誘致で議論が巻き起こっているが、ギャンブル依存症対策を忘れてはならない。
息子が小学生だった頃、ゲームに熱中。完全な依存症、私はゲーム器をたたき割ったことを覚えている。早いうちに芽をつみ取り、他のものに興味を覚えさせなくてはと焦ったものだ。が、近年、インターネットやゲームへの若者の依存度が高まるばかりだという。
世界保健機関(WHO)は、一昨年(2019年)、ゲームに熱中し、日常生活に支障が出る「ゲーム障害」を新たに国際疾病に認定したのだ。厚生労働省の調査によれば、「ネット依存」と推定される中高生は約93万人だという。この数字は恐ろしい。各学年で全国に15・5万人の「ネット依存」患者がいることになる。しかも、多くは「ゲーム依存」であるらしい。
となると、あちこちの自治体の教育委員会が動きだす。秋田県大館市では、条例制定を目指す動きがあるが、香川県は県議会で「ネット・ゲーム依存症対策条例」を成立させた。議論百出、県民の賛否はともかく、全国初の条例に拍手を贈りたい。長時間、コロナ禍で家にいた子どもたちは、動画を見たりゲームをしたりして時間を費やしたであろうが、家族、両親は気をもんだに違いない。
アルコール、ギャンブル、薬物等の依存症は法律で規制されている。が、ニコチンとゲーム依存は、公的な規制がない。わけても、ゲーム依存は、中高生という若者が圧倒的に多いゆえ、教育上、規制するという発想があっていい。睡眠障害や集中力の低下が、科学的にも明白なのだから。
だが、どんな規制を設けるのか、これは難しい。香川県教育委員会は、2018年度の学習状況調査で、スマートフォンを1時間以上使う児童や生徒の成績が落ちていたことを突き止めた。そこから、18歳未満の若者ができるゲーム時間は平日で60分、休日は90分までとする。また、スマートフォンの使用できる時間も決めた。いわば家庭内でのルールの目安となり、子どもたちに強く中止命令が出せる。
この条例は、強制することもできないばかりか罰則もない。ゲームをするガイドラインでしかないが、保護者の放任主義の歯止めにはなろうか。学校では、正面からSNSやゲームについて取り上げないため、家庭で子どもたちを家族や親が管理せねばならない。そのための一助となる「ネット・ゲーム依存症対策条例」であろう。各自治体も続くべしだ。
政府が法制化できないが、各自治体が警鐘を鳴らす役割となる条例、この動きが全国に拡大してほしいと願う。多くの子どもたちがゲームを楽しむことによって、均一化する弊害を恐れ、多様な人材を育成することを考慮しなければならない。
依存脱却は容易でない。新しい目標や趣味を見つけさせ、スポーツや芸術等の教室に通わせる手もあろうが、まず、ネットの功罪を教え込むことだ。私たちが子どものとき、屋外で時間を忘れて遊ぶ子どもたちばかりだったのに。